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第2章 ちとせの政信奪還作戦

第28話 政信の退院日

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 その後もリハビリは続き、10月に入ろうかと言った頃。
 ようやくほぼ完全に回復し、退院日を迎えた。
 医師も驚きの回復スピードで体力を回復させ、いよいよ明日からは学校に復帰である。
 すでに部活含め連絡済みで、7月に予定されていた各種演奏会は11月初旬、文化祭直後に実施する方向で決定した。
 10月に、という話も出たが、我々が修学旅行に行く関係で中間考査が高2のみ早く、かと言って帰ってきた後にはすぐに文化祭が控えており、ならば終了後が一番良い、ということになったのだ。
 とにかくまずは退院の用意である。
 なにせ入院期間は2ヶ月を超える。
 当然私物も持ち込まれており、それらもまとめて引き払うとなれば準備をしておかなくてはならないレベルである。

 面会可能時間になると同時に。

「政信、おはよ」

 ちとせが現れた。
 もともと今日は手伝いに来ると言っていたが、それにしても早い。

 そして。

「荷物どうする?そこまで持てない感じ?」
「そこは大丈夫。というか、なんかうちの母が今日あたり検診だったはずなんだよね」
「今日だよ。だからうちのママが車で送ってくるから、それに乗って帰る感じだよ?」
「そうなんだ。……しっかしびっくりだよな、なかなか帰ってこないと思ったらまさかそういうことなんて」
「ほんとね。妹って言うよりもはや娘レベルだもんね」

 うちの親はなかなか帰ってこれなかったのだが。
 母が妊娠中なのが発覚し、安定期に入るまでは飛行機に乗るのをやめたそうだ。
 現在は6ヶ月、来年2月から3月頃に産まれる予定。
 妹らしいのだが、正直この歳で妹が産まれるとか考えてもいなかった。
 だいたい計算上は元カノの子と産まれてくる時期がそこまで変わらない。
 妹、というよりも娘といったほうがまだ感覚としては理解しやすい。

 そもそも長男の俺がこの歳なのに、ここでこさえるとかもうよく分からない。
 ただ、このまま行けばちとせのヤンママ姿が見られそうなのでちょっと期待。

 そんなことを思いつつ荷物を片付けていく。
 2人というのは大変に仕事がはかどるもので、気づけばあっという間に荷造りは終わった。

 それから程なくして医師とおばさんが一緒に来る。

「長らくお世話になりました、ありがとうございました」
「すっかり元気になったようで良かったよ。体には十分気をつけてね」

 こうして医師に見送られ、無事退院である。
 来るときはまさかの救急車だったが、帰りはちとせの家の車で帰宅だ。
 父は仕事先から帰ることが出来ず、結局家まで送ってくれるとのこと。

「まったく、その歳で妹とか大変じゃない?」
「ほんとですよ。最初に聞いたときは耳を疑いましたもん」
「そうなんだ。でも赤ちゃん可愛いよね、たぶん」
「そりゃあの2人の娘だもん、可愛いに決まってるよ。どっちも容姿がよくて超お似合いとか言われてたんだから」
「それ、おばさんたちもですよね?うちの父も母もそう言ってましたけど」
「そう言われてみればそうだった。……ていうか、ちとせ、あなた他人事じゃないのよ?」
「なんで?」
「だってあなた井野家に嫁いでるようなものじゃない。娘ちゃんからしたらあなたは義姉よ?」
「へ?……あ、そっか、私の義妹になるのか」

 その顔はとっても幸せそうで、見ているこっちも幸せになれるほど。

 結局それは家についてもなお続き、落ち着くまでかなりの時間を要するのだった。

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 次からは3章です。
 おまたせしました、いよいよ4人が関東を脱出して西日本へ向かいます!

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