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59話 辛い罰を②
しおりを挟む「……我々のことを覚えていませんか」
まるで私に操られている人間のような、生気の抜けた目を向ける男。
「ええ、欠片も」
正直、このやり取りも面倒で、早く終わらせてしまいたかった。封印してお終い、それなのに、こんな意味の分からない無駄な時間を取る意味が分からなかった。
「そうですか……私達は、一ミリたりとも、ユニバーサル様のことを忘れたことはありませんでしたのに!」
「ぐっ!」
ズカズカと男が足音を立てて目の前まで来たと思ったら、急に顔面に痛みが走って、視界が歪んだ。
殴られた。
そう理解したけど、次から次へと、馬乗りになって殴りつけてくる男に抗う術は無くて、ただなすがままに、男の気が済むまで殴られた。
顔面が腫れ上がり、歯も何本か欠けるくらい殴られてようやく、男は私を離した。
「う、ぐっ、何なんですの、何なんですの、この男は!?」
闇の魔法さえ使えれば、こんな男、敵では無いのに! 捻り潰して、残虐に殺してやるのに!
「……私達のことをお忘れでも、姉のことは、流石に覚えていますか?」
みすぼらしい男と一緒に入って来た娼婦の女が、右手に光り輝くナイフを持って、私を見下ろすように、立つ。震えるようにナイフを持つその手からは、今まで一度も、人を傷付けたことなんて無いんだろう、と、推測出来た。
「姉?」
「ええ、ユニバーサル様に操られ、私達家族を裏切った、《キナイナ》姉様のことです」
娼婦の言葉から察するに、こいつらは、そのキナイナという女の父親と妹なのでしょう。私とも直接、面識があるように匂わせますが、私が、たかが底辺の人間をいつまでも覚えているわけがない。
「操った人間の名前なんて、一々、覚えていませんわぁ」
率直に、正直に、答えた。
「……あは、あははは! あははははははは!」
目の前で気が狂ったように笑う女。
不幸のどん底にいる象徴のような女なのに、その姿を見ても、不気味と思うだけで、いつものように楽しく思えなかった。
「覚えていないなら教えてあげるわ! キナイナ姉様は、ユニバーサル様が操って、私の婚約者を殺して殺人者に仕立てあげた女よ!」
「妹の婚約者を、殺した姉?」
「キナイナ姉様は、私の結婚式の日に、隠し持っていたナイフで、婚約者の彼を殺したわ! その所為で、私達家族は滅茶苦茶になった! 子爵家だった私の家は没落! お母様は精神を壊して自殺した! お父様は体を壊して病気になった! まだ幼い弟は、人殺しの弟と後ろ指を指され、私は、そんな家族を養うために、娼婦になるしかなかった! 愛する人を目の前で殺され、私は、幸せになるはずの結婚式の日に、世界で一番、不幸になったの……!」
娼婦の女は、悲鳴に近い言葉で、キナイナのこと、キナイナによって生じた、家族に起きた悲惨な出来事を話した。だけど私は、キーキー五月蠅い、耳障りな声でどれだけ話されても、そんな女のことは思い出せなかった。
どうしてその婚約者を殺させたのかも、キナイナを操り人形に選んだのかも、覚えていない。
邪魔だと思った相手を殺すことも、暇つぶしに操り人形を不幸に落とすことも、よくしていたことですもの。
(家族全員揃って不幸になった。それはそれは、当時の私は、結果にとても満足したでしょうねぇ)
私にとって自分以外の不幸は、蜜の味ですもの。
「姉は……世界で一番、私達家族を大切に思ってくれていた、優しい、自慢の姉だった! 姉様は、私の幸せを一番、喜んでくれていた! なのに……私を、裏切ったと思った……」
婚約者を殺したキナイナは、すぐに捕まり、牢に閉じ込められた。
キナイナは、牢の中から、体が勝手に動いてしまった、と、殺すつもりなんて無かった、と、無罪を主張した。家族に会いたいと、会って話がしたい、謝りたい――――そんな言葉が何度も届いたけど、家族は一切、キナイナの言葉に耳を貸さなかった。
獄中でキナイナが自殺した話が届いても、何も思わなかった。いい気味だとすら、思った。
「私は……姉を、最後まで信じてあげれなかった! 私がこんな酷い目に合っているのは姉の所為だと、本気で、恨んでしまっていたんです!」
涙を流し、責めるように悲しみを訴える女。隣では、さっきまで私を殴りつけていた男も、一緒になって涙を流していた。
「……だから何ですの? 信じなかったのは、貴女達でしょう? 私には関係ありませんわぁ」
こんなお涙頂戴劇を見せられて、私にどうしろというのでしょう?
婚約者も姉も、死んでしまったものはもう仕方ないし、騒ぎ立てても仕方ないということが、どうして分からないのでしょうか? 犯してしまった罪はもう仕方ないのですから、許せばいいのです。
最近は、心が狭い人間が多くて、嫌になってしまいますわ。
やっぱり、私が作る理想の世界では、罪に寛大な、許し合える世界を作ることに致しましょう。
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