離婚しましょう、私達

光子

文字の大きさ
42 / 62

42話 ヒロインのキス

しおりを挟む


 ◆◆◆

 リーゼは、この世界に転生してきた人間らしい。
 最初にリーゼから小説の話をされた時はとても驚いたけど、嘘を言っているようには見えなかったし、リーゼの言うことを信じることにした。

 平民である僕にも自然に接してきたリーゼは、初めて会った時から、貴族には見えなかった。
 明るくて優しいリーゼのことを、ティアはとても慕っているし、フェルナンド様も、リーゼのことが好きなんだろう。あんなに露骨に愛情を向けられてるのに、それに気付きもしないリーゼ。
 それは、転生した先の自分が、当て馬的モブ悪女? だったことが大きいのかもしれない。

 僕に小説や転生のことを話してから、前よりももっと気楽に話せるようになったのか、色々と相談されることが増えた。リーゼが話す内容は驚くものや意味が分からないものが多くて、僕はいつも、困惑しながら話を聞いていた。


 ――場所を移した僕達は、庭園のど真ん中、どこからでも僕達の様子を見渡せる場所にテーブルやらお茶やらをアルルに用意してもらい、隣り合わせに座った。

 わざわざ隣り合わせで座らなくても……とは思ったけど、話を聞かれたくないからなんだろうな、と、納得した。

「ここには誰も近付けさせないでね。あ、でも、私達が何もいかがわしいことしてないって、ちゃんと見ててね!」
「かしこまりました」

 人払いも終えた後、僕は用意されたお茶に口をつけながら、早速、本題に入った。

「話って何?」

「あのね、どうやったらティアとキス出来ると思う?」

「げほっ、ごほっ!」

 唐突なリーゼの言葉に、変なところにお茶が入った。

「な、何で、そんなこと……」
「ティアとキスしないと、闇の魔女の魔法にかかって、操られるかもしれないの」
「闇の魔女? 操られる?」

 意味が分からない言葉が、次々と並ぶ。
 リーゼから唐突で、驚くような言葉が出るのは初めてじゃないが、これは予想外過ぎて意味が分からず、動揺が大きい。

「言ってなかったけ? 小説、光の聖女と闇の魔女は、ヒロインのティアとフェルナンド様が愛を育みながら、様々な困難に立ち向かって幸せになる話で、そのラスボスが、闇の魔女なの。闇の魔女が、闇の魔法で土地を汚染させ、この世界に混沌を巻き起こしている元凶よ」
「その情報、初耳だね」

 リーゼの話は、信じてる。
 信じてるけど……あまりにも話が大き過ぎて、ついていけない。それに、何でティアとキス? 意味が分からない。

「闇の魔女は、人の心の弱みや悪意に付け込んで、心を操るの。それを解除出来るのは、光の聖女であるティアだけ。恋愛小説にありがちの設定で、ヒロインのキスには、そんな闇の魔女の魔法を防ぐ素敵な効果があって、それで、フェルナンド様は闇の魔女の魔法にかかるのを防げたのよ!」

 ……半分以上、言っている意味が分からない。

「要約すると、闇の魔女に操られないようにするには、ティアとキスしなきゃいけない……ってこと?」
「正解」

 ヒロインのキスには、悪い魔法から身を守る力がある。

 どんな設定? とは思ったけど、転生前のリーゼの世界ではそれが普通だったのかもしれないと思い、黙っておくことにした。

「だから、何としてでも、ティアとキスしたいの」

 凄い台詞だな。
 本人は、闇の魔女に気を取られて何を口走っているのか気付いていないみたいだけど。

「ティアの意思だってあるし、無理に出来ることじゃないよ」
「分かってる。だけど……もし闇の魔女に操られて、ティアやフェルナンド様に何かしたら、って思うと、怖いの。本当は、操られないためにも、ロスナイ教会には行かない方がいいんじゃないか、っとも、思ってるんだけど」
「それは……」
「分かってるよ、行くよね。闇の魔女のことを知っていて一緒に行かないのもって思うし、何が正解か分からないの。小説の内容とは違うことも増えてるし、そもそも、私達の存在がイレギュラーだし」

 リーゼの話しか聞いていない僕と違って、小説を読んでいるリーゼは、闇の魔女の恐ろしさを知っているから、こんなに必死なんだろうか? 人の心を操る闇の魔法。確かに恐ろしいけど……

「気持ちは分かるけど、だからってティアとキスするなんて――」
「さっきから他人事みたいだけど、ジークもだからね?」
「僕?」
「ジークだって、操られたら困るでしょ?」
「そりゃあ、操られたら困るけど……」
「でしょう? だから、一緒にティアとキスしましょう!」

(うん、リーゼ、暴走してるね)

 普段なら、キスの話題一つで顔を真っ赤にするのに。

「どうする? 事故に見せ掛ける? 寝込みを襲う?」
「……はぁ」

 とりあえずは、リーゼが納得するまで付き合うしかないか、と、深くため息を吐いた。


 ――――でも僕は、何も分かっていなかった。
 リーゼのことを信じてると言っておきながら、闇の魔女の力を、軽視していた。

 それを死ぬほど後悔することになるなんて、思ってもみなかったんだ。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

存在感のない聖女が姿を消した後 [完]

風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは 永く仕えた国を捨てた。 何故って? それは新たに現れた聖女が ヒロインだったから。 ディアターナは いつの日からか新聖女と比べられ 人々の心が離れていった事を悟った。 もう私の役目は終わったわ… 神託を受けたディアターナは 手紙を残して消えた。 残された国は天災に見舞われ てしまった。 しかし聖女は戻る事はなかった。 ディアターナは西帝国にて 初代聖女のコリーアンナに出会い 運命を切り開いて 自分自身の幸せをみつけるのだった。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

【完結】わたしの欲しい言葉

彩華(あやはな)
恋愛
わたしはいらない子。 双子の妹は聖女。生まれた時から、両親は妹を可愛がった。 はじめての旅行でわたしは置いて行かれた。 わたしは・・・。 数年後、王太子と結婚した聖女たちの前に現れた帝国の使者。彼女は一足の靴を彼らの前にさしだしたー。 *ドロッとしています。 念のためティッシュをご用意ください。

【長編版】この戦いが終わったら一緒になろうと約束していた勇者は、私の目の前で皇女様との結婚を選んだ

・めぐめぐ・
恋愛
神官アウラは、勇者で幼馴染であるダグと将来を誓い合った仲だったが、彼は魔王討伐の褒美としてイリス皇女との結婚を打診され、それをアウラの目の前で快諾する。 アウラと交わした結婚の約束は、神聖魔法の使い手である彼女を魔王討伐パーティーに引き入れるためにダグがついた嘘だったのだ。 『お前みたいな、ヤれば魔法を使えなくなる女となんて、誰が結婚するんだよ。神聖魔法を使うことしか取り柄のない役立たずのくせに』 そう書かれた手紙によって捨てらたアウラ。 傷心する彼女に、同じパーティー仲間の盾役マーヴィが、自分の故郷にやってこないかと声をかける。 アウラは心の傷を癒すため、マーヴィとともに彼の故郷へと向かうのだった。 捨てられた主人公がパーティー仲間の盾役と幸せになる、ちょいざまぁありの恋愛ファンタジー長編版。 --注意-- こちらは、以前アップした同タイトル短編作品の長編版です。 一部設定が変更になっていますが、短編版の文章を流用してる部分が多分にあります。 二人の関わりを短編版よりも増しましたので(当社比)、ご興味あれば是非♪ ※色々とガバガバです。頭空っぽにしてお読みください。 ※力があれば平民が皇帝になれるような世界観です。

「あなたの好きなひとを盗るつもりなんてなかった。どうか許して」と親友に謝られたけど、その男性は私の好きなひとではありません。まあいっか。

石河 翠
恋愛
真面目が取り柄のハリエットには、同い年の従姉妹エミリーがいる。母親同士の仲が悪く、二人は何かにつけ比較されてきた。 ある日招待されたお茶会にて、ハリエットは突然エミリーから謝られる。なんとエミリーは、ハリエットの好きなひとを盗ってしまったのだという。エミリーの母親は、ハリエットを出し抜けてご機嫌の様子。 ところが、紹介された男性はハリエットの好きなひととは全くの別人。しかもエミリーは勘違いしているわけではないらしい。そこでハリエットは伯母の誤解を解かないまま、エミリーの結婚式への出席を希望し……。 母親の束縛から逃れて初恋を叶えるしたたかなヒロインと恋人を溺愛する腹黒ヒーローの恋物語。ハッピーエンドです。 この作品は他サイトにも投稿しております。 扉絵は写真ACよりチョコラテさまの作品(写真ID:23852097)をお借りしております。

義妹が大事だと優先するので私も義兄を優先する事にしました

さこの
恋愛
婚約者のラウロ様は義妹を優先する。 私との約束なんかなかったかのように… それをやんわり注意すると、君は家族を大事にしないのか?冷たい女だな。と言われました。 そうですか…あなたの目にはそのように映るのですね… 分かりました。それでは私も義兄を優先する事にしますね!大事な家族なので!

【完結】薔薇の花をあなたに贈ります

彩華(あやはな)
恋愛
レティシアは階段から落ちた。 目を覚ますと、何かがおかしかった。それは婚約者である殿下を覚えていなかったのだ。 ロベルトは、レティシアとの婚約解消になり、聖女ミランダとの婚約することになる。 たが、それに違和感を抱くようになる。 ロベルト殿下視点がおもになります。 前作を多少引きずってはいますが、今回は暗くはないです!! 11話完結です。 この度改編した(ストーリーは変わらず)をなろうさんに投稿しました。

将来を誓い合った王子様は聖女と結ばれるそうです

きぬがやあきら
恋愛
「聖女になれなかったなりそこない。こんなところまで追って来るとはな。そんなに俺を忘れられないなら、一度くらい抱いてやろうか?」 5歳のオリヴィエは、神殿で出会ったアルディアの皇太子、ルーカスと恋に落ちた。アルディア王国では、皇太子が代々聖女を妻に迎える慣わしだ。しかし、13歳の選別式を迎えたオリヴィエは、聖女を落選してしまった。 その上盲目の知恵者オルガノに、若くして命を落とすと予言されたオリヴィエは、せめてルーカスの傍にいたいと、ルーカスが団長を務める聖騎士への道へと足を踏み入れる。しかし、やっとの思いで再開したルーカスは、昔の約束を忘れてしまったのではと錯覚するほど冷たい対応で――?

処理中です...