35 / 37
35
しおりを挟む『子供を育てる事を選んだのならーーー最後まで、子供を愛する覚悟を持って欲しい』
『……』
あかりは、虚ろなまま、敬二を見た。
見えた敬二の表情は、酷く、辛く見える。
『愛するなんて…出来ない…です…』
あかりの声は震えていた。
『当然だ』
敬二は頷いた。
その表情は、ハッキリと意思表示をしてくれた事を、何故か、安堵してるように見えた。
『……母親に愛されない子供を……見たくないんだ』
でも、愛せと強要出来る問題でも無い。
だからこそ、正解の無い、敬二なりに出した答えだった。
(母親に…愛されない…子供…)
憎い男の子供の事なんて、愛せない。
あの男を罰してやりたい。
嫌い、嫌い、嫌い。
でもーーー
『堕ろせ』
あの男にそう言われた瞬間、頭の中が沸騰して、心臓が鷲掴みにされた。
『……私……』
まだ胎動だって感じて無い、小さな小さな塊。
(殺せと言われて……嫌だと思った)
どうして?
憎くて、大嫌いな男の子供。望んでいない。
要らない。要らない。要らない。
(この子に罪は無いから…?だから、殺すのが怖い…?なら、里子に……)
捨てるの?
ー 私にこの子は守れない ー
経済的にも自立していない、あの男の助けが無いと生活出来ない私は、この子を育てる事は出来ない。
(それに…刑事さんの、言う通りーー)
子供を愛する覚悟なんて、持てない。
この子を殺せない。
でも、捨てる覚悟も、育てられる覚悟も、愛する覚悟も無い。
色々な感情が押し寄せて、吐き気がする。
(私はーーー何もーーー選べーー無いーー?)
『あかりちゃん?大丈夫か?すぐに決めれる事じゃない。考えて欲しい。家に帰りたくないなら、このまますぐに避難をーー』
『……いえ、帰ります』
そう言うと、あかりは助手席の扉のレバーに手をかけた。
『あかりちゃん』
『……ありがとうございます、刑事さん。私の事を…こんなに親身に心配してくれたのは……母を除けば、貴方だけです』
それだけ言い残すと、あかりは車を降りた。
敬二と話して、答えが、彼女の中で出た。
何も選べない。
(ーーー一緒に死のう)
全てを終わらせる。
子供と一緒に、死のうと思った。
(本当は…ずっと、死にたいって思ってた……)
いつか逃げる事を夢見てた。
でも、あの男から逃げ切れる事が、本当に出来るのか、不安だった。
『お前は俺の物だ。永遠に』
あの男は、所有物の私を、永遠に手放す気が無い。
私は体裁を気にするあの男にとって、頼れる親族のいない、天涯孤独の、体良く扱える性欲を満たす道具。
子供という証拠が出来ても、あの男なら、握り潰してしまうかもしれない。
(刑事さんにまで……迷惑をかけてしまう…)
唯一、私を救おうとしてくれた人。
(…一緒に死のう…)
あかりはポロポロと涙を流しながら、お腹に触れた。
(これが、私に出来る、精一杯の…愛情だよ…)
よろよろと、学校に行くのを諦め、でも、家に帰る事もしたくなくて、あても無く歩く。
その途中、バス停の近くの電柱のポスターに、目を引かれた。
『悪魔の…森…?』
面白おかしく書かれた《悪魔の森》。
一度踏み入れたが最後、決して出られないーーー。
そんな森に挑戦してみませんか?!と、探索を募る内容だったが、あかりは、永遠に彷徨う部分に、惹かれた。
(ここなら、静かに最期を迎えられるーー)
バスの時刻を確認すると、もう最終の便は終わっていた。
『明日…8時…』
始発の出発を確認し、バス停を後にする。
それから少し経った後、心配しあかりの後をつけていた敬二は、あかりが見ていたポスターを、同じように見た。
『悪魔の森…』
バスの時刻表も確認し、敬二はあかりが去っていった方を見た。
『…絶対に…助ける…今度こそは…!』
決意を新たに、敬二はその場から去った。
翌朝。
いつものように制服の姿で家を出て、学校には向かわず、あかりはバス停の前で、悪魔の森へ続くバスが来るのを待った。
(最後は…静かに…この子と、過ごそう……)
そう思い、目を閉じる。
『や、あかりちゃん』
『!』
ビクッと、体が反応し、振り向く。
『刑事さん…!どうして…っ』
答えを言われる前に、尾行されていた事に気付く。
『本当に…お暇なんですね…』
『そうなんだ。だから、趣味のアウトドアにでも行こうと思ってね』
そう答える敬二のリュックには、アウトドアの用意が敷き詰められているのが分かる。
『…ついて…来ないで下さい…』
あかりは拒絶の言葉を吐いた。
(あの男の手に掛かれば、刑事の肩書きなんて、すぐに消えてしまう…)
唯一優しくしてくれた敬二にまで迷惑をかけたくない。
『ん?違うよ!これは俺の趣味のアウトドア!山登り!キャンプ!』
ただ、どんなに拒絶しても、敬二は気にもとめないようで、あくまで自分の趣味ときかない。
あの男の出張はもう終わる。
それまでに病院に行っていなければ、強制的に連れて行かれる。
行くのなら、今日しか無い。
『……もう知りません』
あかりは、敬二を無視して、到着したバスに乗り込んだ。
バスの中には、濱田に照史、はなの姿。
『…出発します』
敬二も乗り込み、バスは出発した。
二度と戻らない、死への行く先へーーー。
0
お気に入りに追加
6
あなたにおすすめの小説
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?
すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。
「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」
家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。
「私は母親じゃない・・・!」
そう言って家を飛び出した。
夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。
「何があった?送ってく。」
それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。
「俺と・・・結婚してほしい。」
「!?」
突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。
かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。
そんな彼に、私は想いを返したい。
「俺に・・・全てを見せて。」
苦手意識の強かった『営み』。
彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。
「いあぁぁぁっ・・!!」
「感じやすいんだな・・・。」
※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。
※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
それではお楽しみください。すずなり。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
10秒で読めるちょっと怖い話。
絢郷水沙
ホラー
ほんのりと不条理な『ギャグ』が香るホラーテイスト・ショートショートです。意味怖的要素も含んでおりますので、意味怖好きならぜひ読んでみてください。(毎日昼頃1話更新中!)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる