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しおりを挟むはなの喉元にかけて、シュッーーーと、線が走った後、赤い血飛沫が、その線にそって走った。
「っかっ!!!はっ!!」
苦しみの音を上げるはな。
あきとの手には、銀の医療用のメス。
ーーーはなの喉元に向け、あきとがメスで切りつけた。
その光景に、あかりもけいじも、何が起きているか理解出来ずに、言葉を失った。
「ふふ。ごめんね」
あきとはいつもと何ら変わらない、普段通りの笑みで、感情の篭っていない、謝罪の言葉を口にする。
「僕、悲鳴とか好きじゃないんだ。だから、最初に声帯を切っちゃう癖があってさ」
痛みで首筋を押さえるはなに、追い打ちをかけるように、あきとは今度、はなの太腿にメスを突き刺した。
「ーーっっっーー!!」
痛みで悶絶するはな。
「…あきと…君…」
そんなあきとの様子を、けいじは信じられないものを見るように見、あかりは、震えていた。
「はなって、本当に面白いよね」
もがき苦しむはなを前に、笑顔を絶やさないあきと。
「勝手に騒動を起こして、周りをめちゃくちゃにする。そんな所、僕は大好きだったよ」
はなのすぐ近くに膝をつくと、そのまま、今度ははなの髪をガシッと掴んで、頭を持ち上げる。
「っぅ!」
悲鳴を上げたいのに、出せない。
あきとはそのまま、はなの顔にメスを押し付けたーー。
「ーーーー!!!!!!」
「!あかりちゃん…!逃げるんだ…!」
けいじは、あかりの手を振りほどき、居間の外に押しやった。
「で、でも…」
けいじさんはーーー
「俺は大丈夫……なんとか、足止めしてみせるから……2階に上がって、夜が明けたら、ここから出るんだ」
昼間も勿論だが、特に、夜に森を駆ける事への危険性をけいじもあかりも理解している。
先程あきとも言っていた通り、逃げ場なんて無い。
でも、けいじはあかりに逃げろと言った。
「早く行って」
「…あ…出来…出来ません…」
置いて逃げるなんて出来ない。
それに、どっちみち、森に1人で出る事は死を意味する。
あかりは、震えながらも首を横に振ったが、けいじは、彼女の肩をぐっと掴んだ。
「行くんだ…君はまだ、死にたくないとーーー守りたいとーーー本当は、思っているはずだ…」
「…!」
真剣なけいじの言葉に、あかりは涙を流しながら、ゆっくりと、走った。
「あ、逃げちゃいましたか」
はなの顔をメスでぐちゃぐちゃに引き裂く最中に、あきとはあかりが逃げた方に顔を向けた。
「ふふ。後で追いかけよう」
「……」
けいじの、この家から出ていくのなら、あかりはそのまま逃がしてくれるんじゃないかとゆう甘い考えは、粉々に打ち砕かれた。
どこか嬉しそうに言うあきとは、人を殺す事を、何とも思っていないように感じれた。
「ぅ…ぅ…」
声帯を切られ、上手く話す事の出来ないはなは、無惨になった自分の顔をさすりながら、絶望する。
「あーあ。これで君の唯一の自慢の美貌が無くなっちゃいましたね」
あきとはチラリと、今は絶命している濱田に目線を向けた。
「まさか人殺しまでするなんて…想像以上だよ、はな」
「…ぁ…!…ぁ…!」
涙を流しながら、必死で何かを言わんとしようとしているのか、口をパクパクさせているが、乾いた空気音しか、聞こえない。
「何だろ?命乞い?ごめんね、僕、そーゆーのも聞きたくなくて」
あきとはそっと、はなの血塗れの頬に手を伸ばし、触れた。
「死ぬのが怖い?」
「ぁーぁー!!」
肯定ととれる頷きに、あきとは微笑んだ。
「ごめんね。僕に付いてきたから、こんな事に巻き込んでーーーでも、どっちみち、はなの事は今回で殺すつもりだったんだ」
悪びれなく、残虐な言葉を口にする。
「僕の職業や肩書きによってくる女の子は山程いたけど、ストーカーされるのは初めてで、新鮮だったんだけどーーそろそろ飽きてきちゃって」
ボランティア活動のついでに、殺す事にした。
「この森なら、人が1人いなくなっても、処理が楽だと思ったし」
あの崖の上からでも、投げ捨てれば良いと思っていたら、まさか自分がバスごと落ちる事になるは思わなかった。
「さよなら、はな」
「ーーくっかっーー!!!!」
別れの挨拶を告げると、あきとはメスを彼女の胸に突き刺した。
「さて、と」
彼女が息絶えたのを見届けると、その場から立ち上がり、何事も無かったかのような声色で、何事も無かったかのような笑顔を、けいじに向けた。
「お待たせしました」
「……待っていないよ……」
けいじは冷や汗を拭いながら、そう答えた。
「ふふ。体調、悪くなって良かったです」
「…何か、食べさせたのか…」
ポケットから取り出したハンカチで、メスについた血を拭う。
「はい。田村さん、強そうだったので。田村さんに教えてもらった毒のあるきのこを使いましたよ」
「……」
確かに、今日の夕食の担当は、あきとだった。
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