悪魔の家

光子

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「あんたなんかと違って、たぁ君は優秀で、素敵なの!お医者様だし、あの大病院の御曹司で、後継者よ?!はなに相応しいの!」

 こんな好条件、他にいない!
 絶対に逃がさない!!
 絶対に!!!はなの物にする!!!



「ーーー?僕は、父の後は継がないけどーー」



「ーーは?」
 耳を疑う言葉が聞こえて、はなは息を飲んだ。
 どこかで聞いた台詞に、眩暈がする。
「何の話…?何で後継者なんて話に…」
 あきとは身に覚えの無い話なのか、戸惑いを浮かべた。
「何で!ーー何でよ!たぁ君医者じゃない?!医者になったんでしょ!?それは、お父様の跡を継いで、病院長になる為でしょ?!」
「はなさん、落ち着いて……!」
 胸ぐらを掴む勢いで迫るはなを、けいじが腕を掴んで制止する。
「……僕は、こうやって、医者のいない場所を渡り歩いて、治療をする、ボランティア活動をしたいんだ。だから、専業主婦?に、なりたい云々も、初めて僕は聞いたし…」
「ボラン…ティア…!」
 一銭にもならない仕事!!有り得ない!!!
「か、考え直してよ、たぁ君」
 やっと見付けたの!はなに相応しい男!
「お願い、はなを愛してるなら、ちゃんと立派なお父様の跡を継いでよ!」

 じゃないと!あの陰キャ眼鏡に勝てないじゃない!!!

 息をするのも忘れ、縋るように吐き出す言葉。
 そんなはなの剣幕に、あきともあかりも、濱田ですら、1歩引いた。
 (彼女は面堂さんを好きじゃない…)
 あかりは、その理由をハッキリと理解した。
 (彼女が好きなの面堂さんの肩書き。だから、生きて帰れる確率が上がって、執着が復活した)
 彼の立派な肩書きは、この場所では何の魅力も無い。
 だから、興味が薄れていた。
 (ただただ……本当に……1ミリも、面堂さんの事を、好きじゃ無いんですね)
 あかりは、軽蔑、そして、憐れ、そして、悲しみ、そしてーー憎しみを込めて、はなを見た。
「そもそも、僕と父の関係は、養子ですーーー元から、後継者でもなんでも無いんだ」
「はーー」
 けいじが抑えていたはなの腕の力が抜ける。
「僕の父は、祖父ーー母の父です。母が亡くなったので、祖父が僕を引き取って養子縁組してくれたんです。
 父には、母の他に子供もいて、僕の他に孫もいる。僕は、元から後継者でも何でも有りません」
 隠している訳でも無く、知っている人は知っている。
 聞かれたら、答える。
 あきとにとっては、隠し事でも何でも無かった。
 (元から違う?養子?)
 じゃあ、なんの為に、はなはこんなに頑張ってたの?
 こんなに頑張ってーーーこんな事故にも巻き込まれて、こんな場所で我慢してるのにーーー!!!
「信じられない!!何なのよ!!」
 バチンっと、はなは一瞬の隙をついてあきとの頬を叩いた。
「はなさんっ!」
「ふざけんじゃないわよ!何の為の時間よ!マジ無駄!!」
「いった…」
 口を切ったのか、あきとの唇からは血。
「御曹司じゃないあんたに何の魅力があるってゆーの?!喋っててもつまんないし、Hも下手くそだし!」
 凄い剣幕でヒステリーに叫ぶはな。
「こんなんじゃ、別の《たぁ君》のほーが遥かにマシよ!!」
「別って…」
 はなのあきとの呼び名は、ずっとたぁ君だった。
 面堂 あきと。
 彼の名前と何も結び付かない呼び名を、彼女はこう説明した。



『ところで、何でたぁ君なんだい?』

『……ふふ』
 (バカな男ばっかり)
 はなは少し含みのある笑いをした後、すぐに答えた。
『ダーリンだから♡』
『ん?』
 意味が分からないと聞き直すけいじの事を、もう一度、バカな男。と、はなは心の中で微笑した。
『ダーリンだから、だぁ君、そこから、たぁ君になったの』

 そんなのーーー
 他の男といる時に、呼び間違えないよう、呼び名を統一する為に、決まってるじゃないーーー




「くさってんな…」
 濱田は呆れ果てて、怒る気力も沸かず、吐き捨てた。
「嫌…嫌…!もう嫌!!!」
 はなはその場に座り込み、うずくまった。


「大丈夫かい?あきと君」
 うずくまり動かないかない、はなから離れ、あきとを心配し、駆け寄るけいじ。
「平気です。口の中を少し切りましたけど」
 話してる間も、けいじは、はなから目線を逸らさなかった。
「すまない。力を緩めてしまって…」
 頭を押さえながら謝罪するけいじ。
「けいじさん…顔色が…悪いです…!」
 あかりは、真っ青になっているけいじの顔色に驚いて、彼の背を支えた。
「体調、悪くなってきましたか?」
「ああ、少し……」
 あきとの問いに、けいじは小さく答えた。
「なぁどーするこのくそ女」
 濱田は、うずくまり泣きじゃくる、はなを指しながら尋ねる。
「はは。どうしようか…」
 顔色が悪いまま、けいじはんー。と、頭を悩ませた。
 密室のこの空間では、一緒にいるしか道は無い。
「もー放り出そうぜ」
「それは出来ないよ…」
 濱田の言葉に、けいじは首を横に振った。
 はなをこの家から放り出すのは、彼女の死を意味する。






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