悪魔の家

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 パチパチと、火の音だけが聞こえる静かな空間。
「ーーそう言えば、濱田君はこの先の町の出身だったよね」
 そんな静かな空間の中、けいじが口を開いた。
「ああ?」
「いや、釣りが好きだったり、虫が平気だったり、田舎の少年って感じが所々にするなって思ってね」
「馬鹿にしてんのか」
「まさか。田舎暮らしに憧れがあってね」
 けいじ的に、たわいの無い世間話の一環だろう。
「あんなくそド田舎、くそつまんねぇよ」
 以前も、速攻出てきた。と彼は口にしていた。
「でも里帰りする位だから、思い入れはあるんだろ?」
「……」
「……もしかして、お母様のお見舞いですか?」
 黙り込む濱田に変わって、あきとが口を開いた。
「!……何で……」
 知ってる。そう、続きそうな所で、濱田はまた口を閉ざした。
「僕がここに来た目的は医者が不足している地域でのボランティアなんですが、その名簿に、濱田って名前があったな。って思ってーーー何処にでもある苗字なので、あまり結び付けていなかったんですけど」
 んー。と考え込む素振りをした後、あきとは人差し指を立てながら、言った。
「確か、濱田 てる子さん」
「……なんだ、まだ生きてんのか」
 一瞬、黙るが、濱田はけっと、苦々しい表情で吐き捨てた。
「少なくとも、僕がカルテを貰った段階では生きてらっしゃいますよ」
「は!さっさとくたばれ!クソババア!」
 冷たく言い放つ濱田。
「母親と折り合いが悪かったのか?」
「うっせぇ!いちいち突っかかってくんな!」
 けいじの問いを吐き捨てると、今度こそ濱田はふて寝し、口を閉ざした。







「たぁ君がご飯用意してくれたの?はな、嬉しー♡」
 夕食時、水汲みから戻り、食事の支度が終えた頃、はなは居間に現れた。
 そのまま、自然とあきとの隣に座る。
「……」
 あきとは、終始無言で、はなと目線も合わせなかった。
 これも、隣に座らせまいと、けいじと濱田で固めた事があったが、都度喧嘩になるので止めた。
「はなさん、明日は俺と水汲みの仕事だから、頑張ろうな」
 食事をしながら、けいじが笑顔ではなに話しかけた。
「えぇ?!またぁ?なんではなばっかり!そっちの女は水汲みしてないじゃない!」
 はなはあかりを指しながら文句を吐き捨てる。
 1番の重労働とされる水汲みは、基本2名でしている。
 男性同士のペアでしていたが、はなの水浴び事件から、けいじとペアでのみ参加させるようになった。
「てめえが仕事サボるからだろーが!」
 けいじの目が無いと、彼女はすぐに仕事を放棄し、あきとの姿を探す。
「だーかーらぁ!はなは仕事しなくてもいーの!」
「しつけぇなぁてめぇは?!」
 何度も何度も同じ事を繰り返し口にするはな。
 濱田だけでは無い、あかりも、内心は腹が立っている。
 彼女のこの我儘のせいで、あきとへの執着のせいで、結果的に2人も亡くなっている。
 (もう止めて欲しい…)
「何よ、はなはね、本来、あんた達みたいな底辺の男が話しかけて良い女じゃないの!」
「俺も巻き込むの?!」
 言い争いしていたのは濱田との話なのに、あんた達。と巻き込まれた事に、けいじは突っ込んだ。
「当然でしょ?あんた達みたいな安っぽい男。どうせ対した職にもついて無いくせに!」
「酷いなー」
 はなの言い分に、けいじは笑いながら答える。
 傷付いた様子も怒っている様子も微塵も無いのは、彼女に何を言われても構わず、何も響いていないのだろう。
 けいじは、上手に受け流している。
「あぁ?!てめぇみたいなくそ女に言われる筋合いねーわ!」
 が、濱田は一切受け流せない。
「てめぇこそ絶対無職だろーよ!」
 濱田は決めつけるように言い、それは正しかった。
「だから、はなは働かなくていーの!」
 ギリッと、拳を握りしめながら、はなは怒鳴った。
 (働いたら、負けになる!)
 陰キャ眼鏡は、会社の社長になった。
 はなは、頭も良く無いし、そんなに働きなたくないし、どう頑張っても、社長にはなれない。
 だったら、働いたら負け!
 あくせく働くなんて、まっぴらごめんよ!!!
「はなは、たぁ君のお嫁さんになるの。だから、働くなんてしなくていーの」
「……え?」
 あきとはここまで、ずっと無視をしていたが、はなの台詞に、初めて反応し、首を傾げた。
「アホかお前。こいつの嫁になんかなれる訳ねーだろ」
 こんなに避けられてんのに。と、濱田は呆れて言うが、はなには聞こえない。
「はなは、高嶺の花なの。綺麗だし?美人だし?可愛いし!たぁ君に相応しいのは、はななの!」
 周りはそうやってチヤホヤしてくれる。
 はなは何でも1番なの!!


 あの女には、あの陰キャ眼鏡なんかに絶対負けない!!!


 その為には、はなに相応しい男が要る!




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