悪魔の家

光子

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「はなさん、stop」
 すぐにけいじが立ち上がり、はなを止める。
「ちょっと!またあんた?!いい加減にして!はなとたぁ君の邪魔しないでよ!」
 喚き散らすはな。
 けいじがゆっくり休めないのは、はなが原因だった。
 目を離せばあきとに擦り寄るはな。
 なるべくあきとを1人にさせないようにと、濱田と一緒に行動させたりもしててみたが、そうすれば、濱田とはなの壮絶な喧嘩に発展する。
 あかりでは役不足。
 そうなれば、上手く場を収められるのはけいじだけになる。
「仕事は?」
「だから!何ではながーー」
 ここで言う仕事とは、山菜集めや洗濯の事。
「可愛いとか関係無いの。生き残る為には、しなきゃならない」
 はなは可愛いんだから、しなくていい。
 この常套句も聞き飽きていて、言われる前にけいじは吐き捨て、はなの体を回れ右し、玄関に向ける。
「ちょっと!」
「仕事は絶対。はい、行ってらっしゃい」
 半ば強引に、けいじははなを外に追いやると、扉を閉めた。
 生き残る事に対してなら、彼女もまだ応じるので、けいじは何度もその言葉を使用する。
「ーー本当に……すみません」
「大丈夫。あきと君は全く悪くないからね」
 申し訳無さそうに謝罪するあきとに、けいじは笑顔で手を振った。
「それに、別れをまだ切り出さないで欲しいってお願いしてるのはこっちだからな」
 彼女の執着は異様。
「生きて戻った時も、絶対に警察に相談した方が良い」
 彼女の執着の域は、最早ストーカーに近い。
 この森の間だけで無く、生き残った後もーーー生き残って社会に戻った方が、彼女の執着は酷くなるだろう。
「密閉されたこの空間で別れを切り出してしまえば、何をするか分からない。用心しよう」
「……」
 あかりは、以前、ストーカー被害のすえの殺人事件を、ニュースで見たのを思い出した。
「はい」
 あきとは神妙な趣でうなづいた。
 あかりは何も言わなかったが、迷惑はしている。
 けいじがフォローしているが、はなは仕事をしたら負けだとでも思っているのか、あかりに仕事を押し付けようとする事(可愛くないあんたがやるべきとかなんとか)もあった。
 彼女のせいで、濱田が怒り、雰囲気が悪くなる。
 あきと本人も、決定的な別れの言葉は使用していないものの、拒絶しても拒絶しても効果の無い、はなに、どうすれば良いのか戸惑っているようだった。
 (あの人さえいなければ……上手くいくのに……)
 そう、思わずにはいられなかった。
「濱田君はまだ魚釣り?」
「はい。濱田さんの場合は、もう趣味ですね」
 今晩分は釣れたのだが、濱田はのんびりと魚釣りをするのが好きなようで、まだ残っているらしい。
 家を拠点にして数日。
 この家の周り、川や井戸のある場所なら、霧が深く無い限り、迷う事は無く戻ってこれる為、1人でも行動する事が出来るようになった。
 生活も整いつつあり、移動も無い分、忙しくなく動いていた時間に余裕が出来た。
「ただ、もう戻ってくると思いますよ」
「くそが!!!」
 バンっっっ!!!!と、再度大きな扉の開け閉めの音が響く。
「お帰り濱田君」
 あきとの予想通り、濱田が苛苛した表情で戻って来たので、けいじが迎えた。
「あー、ああ?てめぇ、また早く起きてきやがったな!」
「あはは。所で、どうかした?」
 話を変えるように誘導するけいじ。
 濱田の苛苛の理由なんて、全員が聞かなくても理解してる。
「あのくそ女に決まってんだろ!」
 (((でしょうね)))
 濱田は、はなに対する苛苛を全く隠さない。
「俺が釣りしてるにも関わず、水浴びに来やがって…!あいつ、今日も仕事してねぇだろ!!」
 濱田が怒るのも無理は無い。
 無理は無いが、何度注意しても、促しても、結局サボってしまう。
 そのうち、あきとに近寄らないようになれば良いとシフトチェンジしてしまった。
「くそ女がーー!」
「うん。苛苛は最もだ。いつも我慢してくれてありがとうな、濱田君」
 けいじは濱田の背中に触れながら、笑顔でお礼を言った。
 そう。
 けいじが居なければ、きっともっと酷い事になっている。
 けいじが、全員の間を取り成してくれている。
「外は寒いでしょう?どうぞ、暖まって下さい」
 あきとがけいじを囲炉裏の傍にと、座布団を用意すると、濱田はぶっきらぼうだが、その場に座った。
「そう言えば、この火を付けたのはあきと君か?」
 けいじは囲炉裏の火を指しながら尋ねた。
「はい」
「火を付けるの上手くなったな」
 火付け石での火起こしはコツがいて、当初けいじしか火が起こせなかったが、今ではあきともマスターしている。
「嬉しいです」
 食べれる山菜やきのこの見分けもほぼマスターしていて、彼の元からの頭の良さが伺えた。
「夕食も僕が用意したので、楽しみにして下さい」
 あきとは笑顔で答えた。



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