悪魔の家

光子

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「こんな状態で騒ぎは勘弁して欲しいんだけどな」
 けいじの表情には、疲労が伺えた。
「……」
 (なんて、勝手な人なんだろ…)
 美しさから、周りがチヤホヤした結果が、彼女の甘えを増長したのかもしれない。
 でも、そう思わずには、いられなかった。


「たっだいーーー」

「てめぇふざけんじゃねぇぞ!!!」
「ーーーま」
 家に入り、帰宅の挨拶を言い終わる前に、濱田の怒号が響き渡った。
「うるさいうるさい!なんなの?!別にいーでしょ?!」
「はいはい。何の騒ぎかな」
 けいじは最早慣れた様子で、仲裁に入った。
「このアホ女!汲んできた水で体洗いやがったんだよ!」
「何よ変態!いーでしょ別に?!体がベタベタだったから洗いたかったの!」
「……」
 要約すると、体を洗ってスッキリしたかったはなが、皆が一生懸命汲んだ水を勝手に使ったらしい。
「えっと…川で水を浴びれば良かったんじゃ」
 実際、はなを除く全員が、川で簡易な水浴びをした。
 家には五右衛門風呂が備え付けられていたが、今は生きる為の水の確保や、食べ物の確保を優先する為、使用していない。
「寒いじゃない!室内のほーが暖かいし!」
 井戸から水を汲むのは、大変な重作業であり、時間もかかる。
「ふざけんじゃねぇ!対した仕事もしてねぇくせに!」
 こう言った重作業の殆どを、男性側が行っている。
 加えて、はなは山菜集めやきのこ集め、食事作りなども、殆どをあかりに任せており、その補填を、代わりにけいじがまかなっていた。
「何言ってんの?そんなの、男がするのが当然じゃない。はなは可愛ーんだから」
 (また…)
 彼女は自分の容姿に絶対の自信があり、何度もそれを口にする。
 あかりは飽き飽きしていた。
「頭おかしいのかお前。んな可愛くねーからな」
「ーーーは?」
 どストレートに言う濱田の言葉に、はなは目を丸くした。
「てめぇみたいな我儘クソ女、誰が可愛いと思うんだよ。アホか!ここにいる誰も、お前みたいなクソ女可愛いなんざ思ってねぇわ!」
 (濱田さん……すっごくハッキリ言うなぁ……)
 気持ち良い程自分の気持ちを真っ直ぐ言う濱田を、あかりは遠い目
 で見た。
「はーーはなは、高嶺の花なのよ!?はながお願いすれば、男は皆、何でもゆー事聞いてくれるんだから!」
「?誰がてめぇのゆー事聞いてんだよ」
 濱田は頭を傾げながら、心底、頭がおかしいと思っている女を見た。
 自分を初め、けいじも、今はあきとも、誰もはなに心酔しているように、濱田には見えない。
 なんなら厄介者扱いされている。
 なのに、自分は可愛いと、可愛がられて当然だと主張する、はなを、本気で頭がおかしい女だと思っている。
「は、はなはーー」

 はなは可愛い。

 だって皆がそう言うもの。

 ちょっと甘えた声で、上目遣いをしたら、何でも言う事きいてくれる。


 はなは何でも1番。







『ーーちゃん、すごーい!頭良いねぇ』
 中学生の頃、眼鏡の陰キャが、そうやって仲間内、陰キャ同士で称えあってるのが目障りで、優等生キャラで先生に贔屓されてるのが鬱陶しくて。

 バシャッ!!

 ポタ…ポタ…

『あ、ごめんねぇ。
 そこにいたの気付かなくて、はな、花瓶の水捨てちゃったぁ』
 花瓶の水を頭からかけて、ケタケタと、仲間内で笑い合う。
 男の子は皆はなの味方。
 陰キャは何も言い返さなくて、ただ、やられるだけ。
 可愛くない女が、超絶美人で可愛いはなに楯突くなんて、絶対許されないもの。
 全部が全部、easyモード。
 可愛くない女より、可愛い女の方が、圧倒的に贔屓されて、生きやすいの。
 それが全て。


 はなは何でも1番。




 ーーーなのに


『えー!凄い!ーーちゃん、今〇〇会社の社長なのー?』

 数年後の同窓会。
 中心でいるべきは、はなのはずなのに、また、あの女がしゃしゃり出る。
 眼鏡では無くなって、ちょっと垢抜けたのかもしれないけど、全然!はなより格下!はなの方が可愛いのに!!



 バシャッ!!

 ポタ…ポタ…


 中学の頃と同じように、今度は大人だし、同窓会の会場にあった赤ワインを頭からかけてやった。
『……藤咲さん、変わってないのね』
 陰キャは鞄からハンカチを取り出すと、顔を拭いた。
 何よ!落ち着き払って!ムカつく!
 昔は真っ青な顔して震えてたくせに。
『ごめんねぇ、わざとじゃないのぉ』
『人に赤ワインをかけることが?わざとじゃない?そんな言い訳、通じると思う?』
『はぁ?!何、はなに歯向かう気?!陰キャ眼鏡のくせにー!』
『今はコンタクトで、眼鏡じゃないわよ』
『人の揚げ足取らないでよ!』
『ーー!?どうした?大丈夫か?!』
 騒ぎを聞きつけたのか、陰キャの名前を呼びながら、急いで近付く
 男。
 その男には、見覚えがあった。
『ーー君!』
 はなは目を輝かせながら、先程までとは打って変わって、笑顔を浮かべる。
 同窓会に来た目的は、彼。
 大手企業の御曹司!!
 中学の頃から格好良くて、成績優秀、スポーツ万能!
 女子の注目の的で、はなとも勿論仲が良かった。
 はな達が構内を揃って歩けば、美男美女と称され、お似合い!って噂されてた事も知ってる!





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