悪魔の家

光子

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 押し切られる形で、あかりはけいじの言葉に甘える事にし、その場で横になった。
 目に映る火の光に、安心する。
 あかりは直ぐに眠りについた。



 夢を見た。

『ーーママ?』
 優しい笑顔で、自分を見つめてくれる、母の姿。
『ママーー大好き……ママ……』
 あかりは、ぎゅっと、母に抱きつき、母も、あかりを抱きしめ返した。
 1番幸せで、私の、心の拠り所、記憶ーー。
「………行かないで…ママ…」
「あかりさん」
「…!」
 最後の言葉は、声に出してしまっていたのか、心配そうに自分を見るあきとの姿が見え、あかりは慌てて起き上がった。
「濱田さんと僕で、川で魚を釣ったんです。食事、とれそうですか?」
 頬に伝う涙を拭う。
 あきとは気を使ってくれているのか、何も聞かずにいてくれるのが、ありがたかった。
「あかりちゃん、おはよう」
 もう辺りは真っ暗。
 流石に電気は通っていないので、囲炉裏の光だけが、優しく包み込む。
 囲炉裏には、けいじ、濱田、はな、あきと。
 傍には、火で調理された魚と、井戸で汲んだ水が用意されていていた。
「ごめんなさい…私、何もお手伝いしていなくて…」
 申し訳無く謝罪すると、はながギロリと睨みつけた。
「何それ?いい子ちゃんアピール?」
「え…」
「あかりちゃんもはなさんも、僕が休んでいいって言ったんだ。気にしないで」
 謝罪に対し、責められるとは思わなかったあかりが戸惑っていると、すぐにけいじが魚にかじりつきながら笑顔で答えた。
 どうやら、はなも休んでいたようで、あかりが謝罪すると、自分も悪くなってしまうと感じ、不機嫌になったのだろう。
「お前…ほんと、お人好しだな」
 濱田は呆れたように、けいじをそう評価した。
 この家に着くまでの間も、誰よりも寝ずの番を引き受け、歩き、火をつけ、食べれる食材かをチェックし、料理をする。
「これは僕が作りました。良かったら食べて下さい」
 そう言って、あきとは山菜ときのこのスープを、あかりに手渡した。
 今は、けいじから色々教わったあきとが、ある程度判別出来、料理も出来るようになったので、少し分担出来るようになった。
「あきと君は本当に学習能力が高いね」
 山菜も、きのこも、毒がある物、食べられる物、覚える能力が高い。
「いえいえ。まだ、火起こしはけいじさん程上手く出来なくて」
 感心するけいじに、あきとは恐縮した。
「……当然よ、たぁ君は本当に優秀なんだから♡ね、たぁ君♡」
「……」
 はながあきとに甘えるは久しぶりで、急な態度に、あかり含む全員が何故か息を飲んだ。
 あきとは彼女には答えず、無言で食事を進め、終わると、この家にあったであろう木の皿を手に立ち上がった。
「疲れたので、今日はもう休んでも大丈夫ですか?」
「あ、ああ」
「今日は濱田さんが寝ずの番でしたよね?途中で変わります」
「お、おお」
 けいじも濱田も、自分達には笑顔だが、はな完全無視の淡々としたあきとの態度に、何故かビクビクした。
 そのまま、隣の和室に向かうあきと。
「はなも一緒に休もーかなぁ」
 冷たい態度をとられてるにも関わらず、怯む事のないはなは、あきとと共に休もうとする。
「あ!っと、はなさん!」
 慌てて、けいじが制止すると、はなは不本意そうに立ち止まった。
「何よ」
「えーーーと」
 何か、はなを足止めする良い理由が無いかと思考を巡らせるも、何も出てこず、言葉に詰まる。
「アホかお前。あいつが迷惑がってんのが分かんねぇのか」
「濱田君?!」
 どストレートに物事を言う濱田に、けいじが動揺する。
「……たぁ君は照れてるだけよ」
 濱田の言葉に、はなは怒り、声を荒らげるかと思ったが、彼女は静かに答えた。
「たぁ君は、はなのなの。決まってるの」
 その表情には、うっすら笑みすら見える。
「ーーー」
 あかりは、そんなはなを見て、息を飲んだ。
 ドクンッ。
 心臓が痛い。

『ーーお前は、俺の物だ。永遠に』

 過去、似たような事を、自分も言われた事がある。
「……好きじゃ……」
 ポツリと、小さく、聞き逃してしまいそうなくらい、小さな声。
「好きじゃないくせに…」
「ーーー」
 あかりの、真っ青な表情から出た、小さな小さな呟きに、はなは、目を丸くし、言葉を詰まらせた。
「……あーあ。なんか興醒め。今日は、はなも普通に寝るわ」
 そう言うと、はなは和室であきととは距離をとり、横になった。
「なんだあいつ。好きじゃねぇの?意味分かんねぇ」
 濱田は頭を捻った。
「そうだねぇ」
 けいじは薄々感じていたのか、特にあかりの発言に驚く事は無かった。
 はなは、どれ程あきとに冷たくされても、本当に傷付いているようには、見えなかった。
 どちらかと言うと、執着に見えた。
 あきとは、自分の物。
「あかりちゃん、早く食べて、ゆっくり休みな」
 動きの止まっているあかりに、けいじは優しく言うと、自分も最後のスープを飲み干した。
「お前も寝ろよ」
 濱田は、誰よりも働いてるけいじを睨む。
「ほんっと、濱田君は意外と優しいんだな!」
 けいじは笑うと、濱田の肩をバンバンッと叩いた。
「いてぇな!」
 濱田はけいじの手を乱暴に払った。

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