悪魔の家

光子

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「ちっ」
「仕方ないよ。はなさんの靴はどう見ても山道を歩くには適して無いしね」
 舌打ちをする濱田に、けいじは優しく諭すように言った。
「あきと君、疲れたら代わるから言ってくれ」
 先頭から、けいじは最後尾にいるあきとに手を挙げながら声を上げ、彼等が歩き出したのを確認すると、ゆっくりと歩みを進めた。
「くすくす。やだぁ。何ではなが、あんなおっさんにおんぶしてもらわなきゃなんないんだろーね?はなは、たぁ君じゃなきゃ♡」
 はなは、あきとにだけに耳打ちしてるつもりなのだろうが、その声はあかりにも、近くにいた女子高生達にも聞こえた。
 あまり、いい気分はしない。
「すぎちゃんは大丈夫?」
「え?」
 あきとが、はなをおんぶする事により、逆に歩みが早くなった。
 先にいた女子高生達の集団に近付いたあきとは、杉に向かい尋ねた。
「杉ちゃんも、あんまり体力無さそうだから、大丈夫かなって思って」
「大丈夫です!」
「すぎちゃんには私がいますんで!」
 おんぶされている、はなの表情が一瞬で険しくなったのを見て、杉は一瞬で首を横に振り、藤も慌てて杉と腕を組み、2人して急ぎ足で先頭の2人の元に向かった。
「……」
 あかりは、そのまま自分のペースで進む。
 すぐ後ろには、あきとと、おんぶされているはな。
「すぎって子、ちょっと太り過ぎだよねぇ。ちょっと心配ー。はななら、あんな体型で人前に出れなぁーい」
 はなは甘えた声で、杉の体型の事を心配していると言いながら、悪く、話しているのが聞こえた。


「きゃあ!!」
「あきと君!」
 そんな中、前方から悲鳴が聞こえ、その後すぐに、けいじがあきとを呼んだ。
「はな、ちょっと降りて」
 あきとは、すぐにはなを下ろし、前方に走った。
「どうしました?」
「すぎちゃんが転んで、足を怪我してしまったんだ」
 ぬかるんだ土に足をとられ、転んだ先の岩にぶつけたのか、出血している。
「消毒して止血します」
 あきとは手際良く、自分のリュックから消毒液や包帯を取り出し、治療を始めた。
「ごめんね、私がすぎちゃんを急がせたからっ」
 藤は涙を浮かべながら、謝罪する。
 そんな藤に、杉は大丈夫だよ。と笑顔を返した。
「うん。もう大丈夫。でも、今日はもう無理しない方が良いかもね」
 治療を終えると、あきとは、はなを見た。
「はな、少し歩ける?次は怪我をしてるすぎちゃんを抱っこしたいんだけど」
「「「!」」」
 あきとの発言に、内心、絶対それ言っちゃ駄目なやつ!!!と、何名かは叫んだ。
「ーーーは?」
 予想通り、はなはとても不機嫌なオーラを醸し出し、杉を睨み付けた。
「わ、私歩けます!」
「無理したら駄目だよ、これは、医者命令」
 慌てて拒否する杉を、笑顔で注意する。
 空気が読めていないのか、あきとは、はなの不機嫌オーラを完全に無視した。
「何でよ!何ではなが我慢しなきゃならないのよ!」
「はな?」
「自分が勝手に転けて怪我したんだから、自業自得でしょ?!なんでそんなブスデブの為にはながーーー」
 パンパンッッ!!!
「はい、stopーー」
 大きな手拍子とともに、けいじが口を挟んだ。
「丁度日も暮れかけてるし、今日はここまでにして、また明日出発しよう。1日休んで、まだ足の怪我が酷いようなら、すぎちゃんは俺がおんぶするよ。それでいいかな?」
「え、そんなっ悪いです」
「大丈夫大丈夫」
 遠慮する杉に、けいじは笑って答えた。
「さ、火をつけよう。また落ち葉や木を集めて貰えるかな?」




 パチパチパチ
 火の周りに皆が集まっているが、穏やかな雰囲気では無かった。
 あの後、けいじ、杉、はなは、その場に留まり、落ち葉や木を集めるのに参加しなかった。
 けいじは火を起こす為と、足を怪我して動けない杉と、ピンヒールで足が痛いから動きたく無いと言い張るはなを、2人っきりにするのは良くないと判断したからだ。
 そんな3人に、サボりやがって!と濱田が吐き捨て、はなも言い返し応戦する、1悶着もあった。
 疲労もあり、藤と杉、はなはすぐに眠りについた。

「田村さん、今日は僕が火の番をしますから、寝て下さいね」
「あ…私も…出来ます。私…します」
 昨日寝ずに火の番をしてくれたけいじを気ずかい、あきとと、あかり、2人が申し出た。
「でもーー」
「2日続けて寝ずの番して倒れられるほーが迷惑だろーよ」
 遠慮するけいじに、濱田は吐き捨てるように言った。
「でもな、女の子相手にそんな事はさせれないしな」
「ーー俺にしろ?って言ってんなてめぇ」
 チラチラと自分を見ながら言うけいじを、濱田は睨み付けた。
「ちっ!すればいーんだろ!すれば!」
「ありがとう!濱田君はやっぱり意外と良い奴だな!」
 けいじは、濱田の背中をバンッと強く叩いた。
 結局、火の番は、あきとと濱田がそれぞれ交代で担当する事になり、お言葉に甘え、あかりは眠りにつく事になった。
 (疲れた…)
 正直、体調も悪く、疲労も溜まっているので、気遣いは有難かった。
 それにーーー
 あきとを発端に起こる、はなの態度にも、辟易としていた。
 自分だけでは無い、杉も藤も、けいじも、気を使っているだろう。
 (明日は…何も無いと…いいな)
 そんな事を思いながら、あかりは眠りについた。

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