悪魔の家

光子

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 昨日つけた焚き火を見ると、つい先程消えたのか、小さく煙が上がっていた。
「ずっと……火を見ていたんですか?」
「うん。火が森に燃え移ったら大変だからね」
 笑顔で返答するけいじに、あかりは後ろめたさを感じ、目を伏せた。
「ごめんなさい」
 自分は何も考えず、そのまま眠りにつき、火の管理を、けいじ1人に任せてしまった。
「いやいや、大丈夫!徹夜には慣れてるし、俺は元気だから!」
 謝罪するあかりに、けいじは慌てたように言った。

「おはようございます、田村さん、あかりさん」
 次にあきとが目を覚まし、2人に挨拶した。
「おはよう。良く眠れたか?」
「はい。お陰様で。昨日はありがとうございました」
 頭を下げ、丁寧にお礼をする。
 会話の内容から、あきとは、けいじと火の番を話し合って、けいじが引き受けたのだと推測出来た。
「ん…たぁ君?もう起きるのー?もう少し寝てよーよ。おじさんが火の番するって言ってんだからさぁ」
 あきとの隣で寝ていたはなは、横になったまま、あきとの袖を引っ張った。
「おじさん……」
「僕はもう充分寝たから大丈夫だよ。田村さん、僕が代わりますから、少し寝てください」
 はなの発言に涙を拭う素振りをするけいじ。
 あきとは、引っ張っているはなの手をそっと外し、けいじに向かい、体を休めるように促した。
「気持ちは嬉しいよ。でも大丈夫。それより、何か木の実とか山菜とか、何か食べれるものでも無いか探してこようかと思ってね。あ、勿論、遠くには行かないよ。この森でそれは自殺行為だからな」
 けいじは持っていた鞄の中身を、二人に見せた。
「これ……キャンプ用具ですか?」
 中にはナイフやバーナー、軍手、水の入ったペットボトルなど、様々な物が入っていた。
「俺がここに来た目的はアウトドアだからね。勿論、森に入る手前ね。ここは自然豊かだと聞くから、1度行ってみたかったんだ」
 アウトドアが趣味だけあって、山で食べられるきのこや山菜にある程度知識があるのだろう。
 寝ずの番のさいも、近くに生えていたきのこや木の実が目に入ったのか、何本か近くに集められていた。
「頼もしいですね」
「こちらも、医者の卵がいてくれると心強いよ」
 2人はそれぞれ、称賛の言葉を送った。


 朝が来、辺りが明るくなった頃、残りのメンバーも起き始め、それぞれがけいじの提案で、食べられそうな山菜やきのこを集める事になった。
 遠くには行かず、必ず見える位置で探す事。
 きのこ等には毒性があるものもあるので、勝手に食べる事はせず、必ず知識のあるけいじを呼ぶ事。
 あかりも、辺りを捜索し、食べられそうな草などや、また、火を起こす為の木や葉っぱ等を集めた。

「……っぅ」
 眩暈がする。
 あかりは、散策していた手を止め、その場にうずくまった。
 (…気持ち……悪…)
「大丈夫?顔色悪いよ?」
 そんなあかりの様子に気付いたのか、藤が心配そうに声をかけた。
「うん……大丈夫」
 正直大丈夫では無いが、あかりは笑顔でそう答えた。
「気分も悪くなるよね……こんな事になっちゃったんだもん」
 そう言った藤の顔色も良くない。
「大丈夫?」
 あかりは、逆に聞き直した。
「うん。ちょっと体調悪い日で…」
「ーああ」
 それだけで、女性特有の日だという事を理解した。
「…………面堂さん……お医者さんだよね?色々持ってきてるって言っていたし……お薬あるか聞いてこようか?」
 あかりはそう言うと、あきとの姿を探す為に、周りを見渡した。
「あ、大丈夫!凄い酷い訳じゃないから」
 慌てて、藤はあかりを止めた。
「ありがとね」
「……本当に無理になったら、言ってね」
 心配だったが、あかりは本人の意思を尊重する事にした。
「お、中々見つかったな」
 皆が集めた山菜やきのこを次々と確認していくけいじ。
 隣には、既に集め終わった濱田の姿もあった。
 日も完全に上り、今は正午だが、木々がひしめくこの森では、あまり日は当たらず、薄暗いまま。
 崖の上の様子も、ここからでは分からず、自分達が事故にあった事が騒ぎになっているのか、助けようとしてくれているのか、何も分からない。

「おい」
「何かな?」
 濱田は、既についている火を見、けいじを睨みつけた。
「てめぇ火つけれんのかよ!」
「ああ。これがあるからね」
 けいじは火をつける為の道具になった火打ち石を濱田に笑顔で見せた。
「そんなんあるんなら昨日のライターいらねぇだろうが!」
「これで火をつけるの、結構大変なんだよ?」
 こんな状況下でも、雰囲気が凄く暗くならないで済むのは、間違いなくけいじのお陰だろう。
 皆の中心に立ち、少しでも明るくなるように、笑顔を絶やさない。
「あーん、もー疲れたぁ」
 現れたはなは、履いていたヒールを脱ぎ捨て、その場に座り込んだ。
「てめぇ何もしてねぇだろ」
「仕方ないでしょ!ヒールなんだから!歩いてると痛いの!」
 戻ってきたはなの手には山菜も木の枝何も無く、濱田は睨みつけた。
「こんな場所にヒールで来るとか、頭おかしいのかてめぇは」
「こんな事になるなんて思わなかったんだから仕方ないでしょ!」
「あほか!こんな事にならなくても、あんなしみったれた町に行くのにそんなケバケバしくて歩きにくい格好する意味がわかんねーわ!」
「まぁまぁ。良く似合ってるもんな」
 言い争いを始める濱田とはなの間を、けいじが割って入った。
 確かに、こんなど田舎、舗装もされていないだろう場所に行くのに、はなの格好は似つかわしく無いと言える。
「はなは、たぁ君の付き添いで来ただけだもん。彼氏に1番綺麗な姿を見せたいと思うのは当然でしょ」




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