悪魔の家

光子

文字の大きさ
上 下
3 / 37

3

しおりを挟む






「皆さん、こんな状況だけど改めてーー俺の名前は(田村 けいじ)!よろしくね」
 あかりにカーディガンを渡してくれたり、バスを降りるのを提案したりと、優しさとリーダリップを見せていた男性が、バスの乗客達を前に、笑顔で最初に自己紹介をした。
「年齢とかも言った方がいいかな?年齢は43歳、好きな食べ物はーーー」
「いらねぇよ!てめぇの好きな食べ物とかいちいち興味ねぇんだよ!」
「おや、これは失敬。じゃあ次は君の番でいいかな?」
 けいじは、バスの運転手に怒鳴ったりと、乱暴な振る舞いをしてきた男に向かい、自己紹介を求めた。
「なんで俺がーー」
「俺達は運命共同体だ」
 けいじは、真剣な表情で男を見つめた。
「こんな状況になってしまった以上、力を合わせて行動するべきだと思うんだ」
「何がーー」
「同じ男として、頼りにしてるぞ!」
 反論しようとする男の背中をバンッと笑顔叩く。
「いってぇな!!!」
「さ!君の名前は?」
「ーー!くっそーーー俺は……………………(濱田…………しんのすけ)だ!」
「しんのすけ君か!宜しくな!」
「名前で呼ぶんじゃねぇ!濱田だ!ぶっ殺すぞ!」
 けいじは笑顔で挨拶したが、しんのすけーー濱田は、けいじの胸ぐらを掴み、睨みつけながら叫んだ。
「わ、私は(藤 みさと)です」
「(杉山 みさと)です」
 続いて、女子高生二人が挨拶した。
「へぇ、同じ名前なんだね」
「そうなんです。だから、お互い、ふじちゃん、すぎちゃんって呼んでて」
 けいじの人当たりの良さだろうか、女子高生2人は、けいじに対して早くも少し打ち解けたようで、緊張を解いているのが、会話で伝わった。
 藤は何かスポーツをしているのか、少し筋肉質で痩せ型で、反対に杉は、ぽっちゃりしていて、頬には沢山のそばかすがあった。
 2人は名前だけでなく、髪型もポニーテールで揃え、髪留めもお揃いの物をしていて、2人の仲の良さが伝わる。

「スギの葉なんかはとても燃えやすいから、見付けたら拾ってくれ」
 けいじの指示のもと、落ちている木の枝や葉っぱを、離れて迷う事が無いように近くの場所で集めながら、自己紹介が続く。
「私はたぁ君の彼女の(藤咲 はな)よ」
 金に近い茶色の髪、ピンクのマネキュア、ピンクほリップ、赤いピンヒール。
 ピンク系統の色に包まれたはなは、とても整った綺麗な顔をしていて、こんな田舎には似つかわしく無い都会の女性に見え、それは、彼氏にも言えた。
「僕は(面堂 あきと)と言います。よろしくお願いします」
 落ち着いた雰囲気のあきとは、笑顔を浮かべた。
 彼女とは違い黒髪で、ジャケット姿の爽やかなイケメン好青年。
「面堂……あきと……聞いた事あるな。まさかあの大病院の?」
 けいじの質問に、あきとは、はい。と肯定した。
「僕の父は東京の方で病院を幾つか経営していて、僕自身も、まだ若輩者ではありますが、医者です」
 あきとはけいじの頭の怪我にそっと触れた。
「対した事はなさそうですが、化膿したら大変です。消毒液持っているので、後で処置しましょう」
「おぉ……。準備がいいね」
「仕事柄でしょうか。色々持っておかないと不安になってしまうもので。それに、僕がここに来た目的は、医者がいないと言われている地域でのボランティア活動の一環ですから」
 あきとはそう言うと、大きめのリュックから包帯や絆創膏などを取り出して見せた。

「おい!集めたぞ!これでいーだろ?!」
 濱田は大量の木や葉っぱをドカっと乱暴にけいじ達の前に置いた。
「いっぱい集めてくれたんだね、ありがとう、しんのすーー」
「濱田って言えや!ぶち殺すぞマジで!!」
 名前を呼ぼうとするけいじの言葉を遮り怒鳴る濱田に、けいじは分かった分かったと、笑顔で返した。
「さ、とりあえずこれで火をたこう」
 皆で集めた木や葉を積み重ねていく。
 けいじは、濱田に手を出した。
「あ?」
「ライター貸してくれるかな?」
「……ちっ」
 濱田はポケットからライターを取り出し、けいじに乱暴に手渡した。
 濱田の体からは、煙草の特有の臭いがする。
 けいじはそこから、濱田がライターを持っている事を推察したのだろう。
 手際良く葉っぱや、自分の鞄に入っていただろう紙に火をつけ、木に火を移していく。
「手馴れてますね」
 藤と杉山は感心するように言った。
「趣味がアウトドアなんでね」
 辺りはもう暗く、寒い。
 木に灯る火に、光、暖かさを感じ安堵する。
「さ、最後だね」
 そう言って、けいじはあかりを見た。
「……」
 何となく、このまま空気のまま、自己紹介が流れないかな。と思っていたが、それは出来ないようだ。
「……(あかり)です」
 あかりは、短く自分の名前だけを小さな声で伝えた。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

本当にあった怖い話

邪神 白猫
ホラー
リスナーさんや読者の方から聞いた体験談【本当にあった怖い話】を基にして書いたオムニバスになります。 完結としますが、体験談が追加され次第更新します。 LINEオプチャにて、体験談募集中✨ あなたの体験談、投稿してみませんか? 投稿された体験談は、YouTubeにて朗読させて頂く場合があります。 【邪神白猫】で検索してみてね🐱 ↓YouTubeにて、朗読中(コピペで飛んでください) https://youtube.com/@yuachanRio ※登場する施設名や人物名などは全て架空です。

意味がわかるとえろい話

山本みんみ
ホラー
意味が分かれば下ネタに感じるかもしれない話です(意味深)

マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子

ちひろ
恋愛
マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子の話。 Fantiaでは他にもえっちなお話を書いてます。よかったら遊びに来てね。

生贄にされた先は、エロエロ神世界

雑煮
恋愛
村の習慣で50年に一度の生贄にされた少女。だが、少女を待っていたのはしではなくどエロい使命だった。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

意味がわかると怖い話ファイル01

永遠の2組
ホラー
意味怖を更新します。 意味怖の意味も考えて感想に書いてみてね。

小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話

矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」 「あら、いいのかしら」 夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……? 微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。 ※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。 ※小説家になろうでも同内容で投稿しています。 ※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。

処理中です...