悪魔の家

光子

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 ガタンゴトン

 ガタンッッ!!ゴトッッッ!!!!



「っ!」
 決してなだらかではない、明らかに整えられていな凸凹な山道を登る。これまた古いバスが、大きな音を立て揺れ動き、椅子に座っていた少女に大きな振動を与えた。
 少女は悲鳴をあげそうになるのを抑え、目をつぶった。
 セミロングまでの黒い髪、セーラー服に身を包む少女の顔はどこか青白く、薄いリュックサックをしっかりと抱きしめていた。
「大丈夫か?」
 後ろに座っていた男性が、そっと少女に声をかけた。
「これ、良かったら」
 男性は自分のリュックの中から、カーディガンを取り出すと、少女に差し出した。
 40代半ばだろうか、年齢より、若く、爽やかに見えた。
「……」
「いいから、受け取って」
 遠慮しているのか、受け取らず、ただ俯いているだけの少女に、もう一度、男性は今度は少し強引に受け取らせた。
「……ありがとう……ございます……」
 少女は、小さくお礼を言い、カーディガンを羽織った。
 バスの中は空調設備など無く、半袖のセーラー服の姿では寒い事は明白。
 男性は少女がきちんとカーディガンを羽織った事を確認すると、座席にきちんと腰掛けた。
「……」

 少女の名前は「あかり」。
 女子高生、16歳。幼い顔立ちで、全体的に細身。

「おい!もうちょっと丁寧に運転しろや!」
 ガンっっ!!と、大きな音と怒鳴り声が聞こえた。
 あかりの数席前方に座る、派手な金髪、耳にはピアス、腕には刺青を入れた男が、自分が座っていた前の座席を蹴り、運転手を怒鳴ったのだ。
「ちっ!」
 男は不機嫌に舌打ちをし、窓の外に目を向け直した。
 その男の通路を挟んだ隣の席には、あかりと制服の違う女子高生が2人。
 やばくない?
 と、目でのみ会話をし、問題事に巻き込まれないよう、2人は目を向けず、小さな声で、男の怒鳴り声で中断した会話を再開した。
「ーーたぁくん、こわぁい」
 そして、最後尾には、20代と見られる男女が、仲睦まじく手を握りしめていた。
 彼女が小声で甘えるような声を出したら、彼氏は女の長い髪を撫でた。
「本当だ。とても怖いね」
 薄い笑みを浮かべながら、彼女に応える。
 日も暮れかけ、辺りが暗くなるその前、古いバスは、あかり含めた7人を乗せ、補強されていない凸凹道を進んでいく。


 ガタガタ…ガタガタ…!!

「……?」
 あかりは、窓から外を覗いた。
 素早く過ぎる景色。
 (なんだか……速い……?)
 ぞくりと、背筋が冷えた。
 異変を感じたのは、あかりだけでは無い。
「ね、ねぇ、なんか速くない?」
「きゃあ!怖い!怖いんだけど!!!」
 2人組の女子高生も、お互いの体を抱きしめながら、悲鳴をあげる。
「おい!てめぇ何考えてんだよ!?」
 先程運転手を怒鳴った男が再度声を荒らげ、今度は揺れるバスの中、席を立った。
 運転手の方まで進んで行く。
 異様な空気である事を感じ取れ、あかりは、不安そうな表情を浮かべた。
「大丈夫か?」
 そんなあかりの肩に、後ろに座っていた男性は優しく触れ、気遣う声をかけた。
 いつの間にか席を立ち、あかりの席の隣の通路に立っていた。
「心配しないで、俺も様子を見てくるよ」
 そう告げると、男性も男の後について、運転席に向かう。
「おい!!!!」
 男が怒りの表情で運転席を覗く。
 男が来、怒鳴られた事にも動じず、運転手は前を見据え、ハンドルを握り締めていた。
「…ね…ね…」
 小さな声で、ポツリポツリと呟く言葉。
 その言葉は、ガタガタと揺れるバスの中では、誰の耳にも届かなかった。
「ああ?!何言ってんだてめぇは?!いいから止めろ!スピード落とせや!!」
「きゃぁああああ!!!」
 阿鼻叫喚。
 怒鳴り声や悲鳴が響く車内。
「君!アクセルを離して!ブレーキをかけなさい!」
 男性も追いつき、運転手に声をかける。
 男とは違い、怒鳴るよりも諭すような、ただ、運転手にも届くように大きな声を出した。
「…ね…ね…」
「え?今なんて……」


「ーーー死ね、死ねーーー皆ーー死ね」



 ドカカッッツツツツツ!!!!
 衝撃とともに、何かにぶつかったような大きな音がした。
「きゃあああああ!!!!」
 悲鳴が響く。
 あかりは、そんな、自分も悲鳴を上げて、泣き叫んでもおかしくない状況の中、遠い昔の事が、頭を駆け抜けた。
 それは、自分が1番幸せだった頃の記憶。
「ーーねーんねんーーころりよ、こぉろりよ」
 記憶にそって、あかりは口ずさんだ。
 小さな自分に、お母さんが優しく子守唄を歌いながら、トントンと、優しく寝かしつけてくれた記憶。
 自然と、涙が流れた。
「……ママ……会いたい……ママ……」
 あかりは、リュックサックを抱きしめながら、体を丸めた。








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