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34話 レイリン王妃とアシュレイ殿下
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「ああ! なんてことなの! 折角苦労してサセックスを王城に派遣させたのに、もうリンカに排除させられたなんて! ルイ殿下が病気のうちは大人しくしておきなさいと、あれだけ忠告しておいたのに!」
レイリン王妃の私室。
頭を抱えながら悲鳴にも似た声を上げる母親を、アシュレイは戸惑いながら見つめた。
「忠告って、ルイが弱ってる今こそ、あいつを貶めるチャンスなんじゃ――」
「駄目よ! ルイ殿下がいるから、リンカはまだ大人しくしてるのよ! ルイ殿下がいなくなってしまえば、あの女は容赦なく、どんな手を使っても邪魔者を排除していくのよ!」
数年前――レイリン王妃は留学の名目で、ルイ殿下を他国へ追いやった。
何かしらの理由をつけて戻って来られないようにし、その間にアシュレイを王太子に祭り上げるつもりだった。
しかし、結果はわずか一か月でルイ殿下を呼び戻すことになった。
「ルイ殿下というストッパーが無くなったリンカは、その一か月の間に、王城にいた私の味方を次か次へと排除して……私にまで、身に覚えのない不貞の疑惑が向けられるようになって!」
どんな汚いこともするようになったリンカは、平気で罪を捏造したり、ガルドルシア公爵家の権力をふりかざしたり、中には、忽然と姿を消した者もいた。
本人に自覚はないが、ルイ殿下がいるからこそ、リンカはまだ、正しくあろうと歯止めをかけているのだ。
「リンカはまだこの国に必要だから、必然的にストッパーであるルイ殿下もこの国に必要になるのよ!」
リンカは知らない。
ルイ殿下が長く不在の間、この王城内が不自然なほど平和になることを。王妃派の重役達が揃って口を閉ざし、レイリン王妃も部屋に閉じこもることを。ルイ殿下がいない日は大人しくしている日だと、王妃派の中では常識になりつつあることを。
「う、嘘だろ!? リンカにそんな力があるのか!?」
「アシュレイ、もう一度言うわ。王家の血を引く子供が産まれようが関係無いの、貴方が王太子になるには、リンカが必要なのよ。リンカは貴方が思っている以上に、強い力を持っているの。下手をすれば王家以上に……」
「そ、そんな……」
アシュレイは自分の王太子妃であったリンカの価値をやっと知り、自ら手放した存在の大きさを理解した。
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