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33話 元気になって良かったです

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「……サセックス様、貴方の爵位は剥奪します。財産も全て没収し、彼女達の治療費に充てます。ご自身や娘の命が惜しいのでしたら、自分からグレゴリー国を去るのが賢明だと思いますよ」

 貴方達を恨んでいる相手は、沢山いる。それに、こちらにはルイ殿下毒殺未遂の証拠もある……捏造だけど。これを利用すれば、貴方達なんてすぐに消せるんだから。

「はい! はい! もう何も抵抗しません! ですから助けて下さい!」

 完全に降参したのを確認し終えた後、今度はヒュアナ嬢の様子を確認するために、足を進めた。髪を切られ、体を殴られ、火傷で苦しんではいるが、辛うじて息はしているようだった。

「復讐はもう結構ですか?」

「……はい、娘の仇は取りました。本当にありがとうございます、リンカ様」

「サセックス様は国外追放の処置を取りますが、よろしいですか?」

 ヒュアナに関していうなら、牢獄にでもぶち込んでもっと酷い目に合わせてやりたい所だが、彼女はその分の酷い火傷や、怪我を負った。財産も全て取り上げられるのだから、治療も受けられず、一生、その傷に苦しめられることになるだろう。

「はい、リンカ様に全てお任せします。本来、私達がこうして復讐なんて出来るはずがなかったところを、リンカ様に手を貸して頂き復讐が出来たこと、心から感謝しています」

「そうですか」

 本当は――――このままもっと苦しめて、消してしまうつもりだった――――
 その為に証拠を捏造したし、これを利用してレイリン王妃まで陥れようと考えていた、考えていたのに。

「私の気分が変わって良かったですね、サセックス様。おかげで、命拾いしましたよ?」

「ひぃ!」

 私が笑顔でそう告げると、サセックス様は表情を真っ青にして、小さく悲鳴を上げた。


 ***


「リンカ、迷惑かけてごめんね」

「いえ、お元気になられて良かったです。それよりも、まだ病み上がりなのですから、今はゆっくりと体を休めて下さい」

 王城に戻るや否や、私はルイ殿下の私室に顔を出した。
 部下からの報告通り、ベッドの上にはかろうじているが、起き上がって書類関係に目を通したりと、無茶をされていた。

「大丈夫だよ、ちょっと目を通すだけだから」

「お止め下さい」

 問答無用で書類を取り上げ、制止を言い渡すと、ルイ殿下は観念したように微笑んだ。

「リンカには敵わないな」

 ついルイ殿下に甘くなってしまっていた自分を反省しているんです。ルイ殿下が無茶をする性格なのは重々承知しているにも関わらず、彼の好きなようにさせてしまっていた。本当は、無理矢理にでも休ませなくてはならなかったんです。

「今後、きちんと休息を取らず、部屋で隠れて勉強などされるのでしたら、監視を置きます」

「うん、今度から絶対休むから止めて欲しいかな」

「そうですか」

 スミス様にでも監視を頼もうかと思いましたけど、それなら今の所は大丈夫でしょうか?

「僕が倒れている間、何か変わったことは無かった?」

「いいえ、何もありません」

 ちょっと王妃派のサセックス様が私の邪魔をされたので、始末――いえ、ご退場願い出て、快く了承して下さったくらいです。多少、乱暴な真似は働きましたが、因果応報です。命があるだけマシだと思って頂きましょう。

「……」

 つくづく思う、私は、いざとなったらどんな汚い手も使う人間なのだと。
 あれだけ傷付いたサセックス父娘を見ても、私は何も思わなかった。寧ろ、今まで自分達がしてきたことへの報いを受けるべきで、やり返されても当然だと思っていた。このまま消えても仕方が無い人間だと、思った。
 だから、罪を捏造してでも、始末しようと思った――なのに、私はしなかった。

(……どうして、急に駄目なんて思ったんだろう……)

「リンカ? どうかした?」

「いいえ、何もありません。ルイ殿下が元気になって良かったなと、そう思っただけです」

「リ、リンカずるいよ! 急にそんな可愛いこと言うなんて!」

「? 事実ですが」

 サセックス様を見逃した理由を考えてはみたが、自分では全く分からなかった。
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