上 下
30 / 40

30話 ルイ殿下のいない日

しおりを挟む
 

 *****



 レイリン王妃の私室――――

「母様!どうしてルイなんかが王太子に選ばれるんだよ!?絶対に俺様の方が王太子に相応しいのに!」

「そうね、そうに違いないわ!母様も貴方と同じ気持ちよ」

 レイリン王妃に膝枕されながら、理不尽だ!こんなの間違ってる!と、不満を次々と口にするアシュレイを、レイリン王妃は頭を撫でながら宥めた。

「ほんと……リンカがもう少しアシュレイの王太子妃としての自覚があったなら、こんな事にはならなかったのに!折角アシュレイの妻に選ばれたというのに、我儘な子よねぇ」

「母様!あんな女!初めから俺様の嫁に相応しくなかったんだ!あんな女なんかいなくても、俺様が王太子に戻れるようにしてよ!」

「まぁ……アシュレイの気持ちは分かるわ、あんな我儘で傲慢な女、アシュレイには相応しくないわ。でもそれでも、アシュレイが王太子になるには必要なのよ」

 自分の息子が可愛い、だから王太子にしてあげたい。
 でも、自分の息子が少し、出来が悪いことをレイリン王妃は知っている。自分の息子が自由に遊んで生きいきたいのも知っている。

(アシュレイは王太子として普段、頑張って振る舞っているんだから、ただ、ちょっと息抜きに自由に遊びたいだけなのよ。それなのに、アシュレイが公務をサボって遊びまわっているとか、皆好き勝手に言って……!アシュレイが働かないなら、臣下がその分働けばいいのよ!)

 自分達はグレゴリー国の王族なのだ。
 何故、国の中で一番偉い私達が働かなくてはならないのか、そんなもの、下々の者に任せて、アシュレイは国の顔としてドンっと居座っていればいい。それがレイリン王妃の考えだった。
 その為に、優秀な宰相であり、ガルドルシア公爵令嬢であるリンカに目をつけた。
 リンカなら、アシュレイの代わりに働き、アシュレイを王太子にするだけの公爵家の後ろ盾がある!そう思って何とか口説き落とし、アシュレイの王太子妃にしてあげたのだ。
 それを、たかが外で愛人を作って子供が出来たくらいで離婚して、折角手に入れた王太子の座まで剥奪させるなんて……!

(確かに子供まで作ったのは少しまずかったかもしれないけど、子供なんて隠すなり捨てるなりどうとでもすればいいのよ)

「母様!ルイなんて邪魔だよ!ルイなんていらないだろ!?ルイなんて産まれず、父様の子供が俺一人なら良かったんだ!それなら、俺様が自然と王太子になれたのに……!どうにかルイを消してよ!」

「!駄目よ!絶対にルイ殿下はこの国に必要なの!」

「か、母様?」

 てっきり母親は賛成してくれると思っていたのに、激しい勢いで否定され、アシュレイは驚いて数回瞬きを繰り返した。

「駄目よ、駄目なの……絶対にルイ殿下には元気でいてもらわないといけないのよ!」

 頭を抱え、怯えたようにガタガタと体を震わせるレイリン王妃に、アシュレイは意味が分からず、首を傾げた。

 そしてこの数週間後――その答えが嫌でも分かる日がくることになった。




 ***


 最近の会議はいわゆる王妃派と呼ばれる議員達も大人しく、平和そのものだった。苦労して手懐けるための道具(バレたら困る不正の証拠など)を揃えてチラつかせている成果かもしれない。
 だけど、その平和が乱れることになって、今日の私は少しイライラしている。

「やぁリンカ様!」

「……サセックス侯爵」

 原因はこいつ。完全王妃派のサセックス様の所為。
 どうやら私が王妃派の議員を次から次へと排除したり、弱みを握って大人しくさせていることに気付いたらしく、新しく議員の一員としてブライアン公爵家が派遣させてきた。ったく、面倒な相手を送りつけてきやがって……!

「今日はルイ殿下が会議にいらっしゃいませんでしたが、何かあったのですかな?」

「……公務が忙しく休みが取れていなかったので、お休みを設けただけです」

 本当は、ルイ殿下は数日前から少し体調を崩されている。
 公務が忙しくて休みが取れなかったのは本当。それに伴い、王太子の勉強もしているものだから、無茶をし過ぎて体を壊してしまったのだ。
 私がもう少し体調を気にしておくべきだった……私の落ち度です。

「おや、最近姿を見ないので、てっきり体調を崩されたのかと思いましたよ!王太子として、体が弱いのは心配ですねぇ。健康なアシュレイ殿下に王太子の座を譲り、大人しく療養された方が良いのではないですか?」

 誰の所為で激務だと思う?そのアシュレイ殿下が全く働こうとされないから、その分ルイ殿下が働いているんですけど?
 大体、そのアシュレイ殿下が王太子の時は、あいつは一切会議にも参加せず、遊びまくってたんじゃボケーーーー!っと、失礼しました。お口が悪過ぎましたね。

「ご心配には及びません。それよりも、サセックス様はその出過ぎた口を閉じることを覚えた方がよろしいのではないですか?」

「これは申し訳ありません!ルイ殿下を心配するあまりでた言葉ですので、お気を悪くしないで下さい」

 何が心配よ、嘘ばっかり。このままルイ殿下がいなくなればいいなんて思ってるくせに……まぁ私もアシュレイ殿下に同じような事を思ったことはありますが。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

貴方の愛人を屋敷に連れて来られても困ります。それより大事なお話がありますわ。

もふっとしたクリームパン
恋愛
「早速だけど、カレンに子供が出来たんだ」 隣に居る座ったままの栗色の髪と青い眼の女性を示し、ジャンは笑顔で勝手に話しだす。 「離れには子供部屋がないから、こっちの屋敷に移りたいんだ。部屋はたくさん空いてるんだろ? どうせだから、僕もカレンもこれからこの屋敷で暮らすよ」 三年間通った学園を無事に卒業して、辺境に帰ってきたディアナ・モンド。モンド辺境伯の娘である彼女の元に辺境伯の敷地内にある離れに住んでいたジャン・ボクスがやって来る。 ドレスは淑女の鎧、扇子は盾、言葉を剣にして。正々堂々と迎え入れて差し上げましょう。 妊娠した愛人を連れて私に会いに来た、無法者をね。 本編九話+オマケで完結します。*2021/06/30一部内容変更あり。カクヨム様でも投稿しています。 随時、誤字修正と読みやすさを求めて試行錯誤してますので行間など変更する場合があります。 拙い作品ですが、どうぞよろしくお願いします。

酷い扱いを受けていたと気付いたので黙って家を出たら、家族が大変なことになったみたいです

柚木ゆず
恋愛
 ――わたしは、家族に尽くすために生まれてきた存在――。  子爵家の次女ベネディクトは幼い頃から家族にそう思い込まされていて、父と母と姉の幸せのために身を削る日々を送っていました。  ですがひょんなことからベネディクトは『思い込まれている』と気付き、こんな場所に居てはいけないとコッソリお屋敷を去りました。  それによって、ベネディクトは幸せな人生を歩み始めることになり――反対に3人は、不幸に満ちた人生を歩み始めることとなるのでした。

【完結】え?今になって婚約破棄ですか?私は構いませんが大丈夫ですか?

ゆうぎり
恋愛
カリンは幼少期からの婚約者オリバーに学園で婚約破棄されました。 卒業3か月前の事です。 卒業後すぐの結婚予定で、既に招待状も出し終わり済みです。 もちろんその場で受け入れましたよ。一向に構いません。 カリンはずっと婚約解消を願っていましたから。 でも大丈夫ですか? 婚約破棄したのなら既に他人。迷惑だけはかけないで下さいね。 ※ゆるゆる設定です ※軽い感じで読み流して下さい

(完結)「君を愛することはない」と言われて……

青空一夏
恋愛
ずっと憧れていた方に嫁げることになった私は、夫となった男性から「君を愛することはない」と言われてしまった。それでも、彼に尽くして温かい家庭をつくるように心がければ、きっと愛してくださるはずだろうと思っていたのよ。ところが、彼には好きな方がいて忘れることができないようだったわ。私は彼を諦めて実家に帰ったほうが良いのかしら? この物語は憧れていた男性の妻になったけれど冷たくされたお嬢様を守る戦闘侍女たちの活躍と、お嬢様の恋を描いた作品です。 主人公はお嬢様と3人の侍女かも。ヒーローの存在感増すようにがんばります! という感じで、それぞれの視点もあります。 以前書いたもののリメイク版です。多分、かなりストーリーが変わっていくと思うので、新しい作品としてお読みください。 ※カクヨム。なろうにも時差投稿します。 ※作者独自の世界です。

無実の罪で聖女を追放した、王太子と国民のその後

柚木ゆず
恋愛
 ※6月30日本編完結いたしました。7月1日より番外編を投稿させていただきます。  聖女の祈りによって1000年以上豊作が続き、豊穣の国と呼ばれているザネラスエアル。そんなザネラスエアルは突如不作に襲われ、王太子グスターヴや国民たちは現聖女ビアンカが祈りを怠けたせいだと憤慨します。  ビアンカは否定したものの訴えが聞き入れられることはなく、聖女の資格剥奪と国外への追放が決定。彼女はまるで見世物のように大勢の前で連行され、国民から沢山の暴言と石をぶつけられながら、隣国に追放されてしまいました。  そうしてその後ザネラスエアルでは新たな聖女が誕生し、グスターヴや国民たちは『これで豊作が戻ってくる!』と喜んでいました。  ですが、これからやって来るのはそういったものではなく――

困った時だけ泣き付いてくるのは、やめていただけますか?

柚木ゆず
恋愛
「アン! お前の礼儀がなっていないから夜会で恥をかいたじゃないか! そんな女となんて一緒に居られない! この婚約は破棄する!!」 「アン君、婚約の際にわが家が借りた金は全て返す。速やかにこの屋敷から出ていってくれ」  新興貴族である我がフェリルーザ男爵家は『地位』を求め、多額の借金を抱えるハーニエル伯爵家は『財』を目当てとして、各当主の命により長女であるわたしアンと嫡男であるイブライム様は婚約を交わす。そうしてわたしは両家当主の打算により、婚約後すぐハーニエル邸で暮らすようになりました。  わたしの待遇を良くしていれば、フェリルーザ家は喜んでより好条件で支援をしてくれるかもしれない。  こんな理由でわたしは手厚く迎えられましたが、そんな日常はハーニエル家が投資の成功により大金を手にしたことで一変してしまいます。  イブライム様は男爵令嬢如きと婚約したくはなく、当主様は格下貴族と深い関係を築きたくはなかった。それらの理由で様々な暴言や冷遇を受けることとなり、最終的には根も葉もない非を理由として婚約を破棄されることになってしまったのでした。  ですが――。  やがて不意に、とても不思議なことが起きるのでした。 「アンっ、今まで酷いことをしてごめんっ。心から反省しています! これからは仲良く一緒に暮らしていこうねっ!」  わたしをゴミのように扱っていたイブライム様が、涙ながらに謝罪をしてきたのです。  …………あのような真似を平然する人が、突然反省をするはずはありません。  なにか、裏がありますね。

断腸の思いで王家に差し出した孫娘が婚約破棄されて帰ってきた

兎屋亀吉
恋愛
ある日王家主催のパーティに行くといって出かけた孫娘のエリカが泣きながら帰ってきた。買ったばかりのドレスは真っ赤なワインで汚され、左頬は腫れていた。話を聞くと王子に婚約を破棄され、取り巻きたちに酷いことをされたという。許せん。戦じゃ。この命燃え尽きようとも、必ずや王家を滅ぼしてみせようぞ。

【完結】婚姻無効になったので新しい人生始めます~前世の記憶を思い出して家を出たら、愛も仕事も手に入れて幸せになりました~

Na20
恋愛
セレーナは嫁いで三年が経ってもいまだに旦那様と使用人達に受け入れられないでいた。 そんな時頭をぶつけたことで前世の記憶を思い出し、家を出ていくことを決意する。 「…そうだ、この結婚はなかったことにしよう」 ※ご都合主義、ふんわり設定です ※小説家になろう様にも掲載しています

処理中です...