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30話 ルイ殿下のいない日
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レイリン王妃の私室――――
「母様!どうしてルイなんかが王太子に選ばれるんだよ!?絶対に俺様の方が王太子に相応しいのに!」
「そうね、そうに違いないわ!母様も貴方と同じ気持ちよ」
レイリン王妃に膝枕されながら、理不尽だ!こんなの間違ってる!と、不満を次々と口にするアシュレイを、レイリン王妃は頭を撫でながら宥めた。
「ほんと……リンカがもう少しアシュレイの王太子妃としての自覚があったなら、こんな事にはならなかったのに!折角アシュレイの妻に選ばれたというのに、我儘な子よねぇ」
「母様!あんな女!初めから俺様の嫁に相応しくなかったんだ!あんな女なんかいなくても、俺様が王太子に戻れるようにしてよ!」
「まぁ……アシュレイの気持ちは分かるわ、あんな我儘で傲慢な女、アシュレイには相応しくないわ。でもそれでも、アシュレイが王太子になるには必要なのよ」
自分の息子が可愛い、だから王太子にしてあげたい。
でも、自分の息子が少し、出来が悪いことをレイリン王妃は知っている。自分の息子が自由に遊んで生きいきたいのも知っている。
(アシュレイは王太子として普段、頑張って振る舞っているんだから、ただ、ちょっと息抜きに自由に遊びたいだけなのよ。それなのに、アシュレイが公務をサボって遊びまわっているとか、皆好き勝手に言って……!アシュレイが働かないなら、臣下がその分働けばいいのよ!)
自分達はグレゴリー国の王族なのだ。
何故、国の中で一番偉い私達が働かなくてはならないのか、そんなもの、下々の者に任せて、アシュレイは国の顔としてドンっと居座っていればいい。それがレイリン王妃の考えだった。
その為に、優秀な宰相であり、ガルドルシア公爵令嬢であるリンカに目をつけた。
リンカなら、アシュレイの代わりに働き、アシュレイを王太子にするだけの公爵家の後ろ盾がある!そう思って何とか口説き落とし、アシュレイの王太子妃にしてあげたのだ。
それを、たかが外で愛人を作って子供が出来たくらいで離婚して、折角手に入れた王太子の座まで剥奪させるなんて……!
(確かに子供まで作ったのは少しまずかったかもしれないけど、子供なんて隠すなり捨てるなりどうとでもすればいいのよ)
「母様!ルイなんて邪魔だよ!ルイなんていらないだろ!?ルイなんて産まれず、父様の子供が俺一人なら良かったんだ!それなら、俺様が自然と王太子になれたのに……!どうにかルイを消してよ!」
「!駄目よ!絶対にルイ殿下はこの国に必要なの!」
「か、母様?」
てっきり母親は賛成してくれると思っていたのに、激しい勢いで否定され、アシュレイは驚いて数回瞬きを繰り返した。
「駄目よ、駄目なの……絶対にルイ殿下には元気でいてもらわないといけないのよ!」
頭を抱え、怯えたようにガタガタと体を震わせるレイリン王妃に、アシュレイは意味が分からず、首を傾げた。
そしてこの数週間後――その答えが嫌でも分かる日がくることになった。
***
最近の会議はいわゆる王妃派と呼ばれる議員達も大人しく、平和そのものだった。苦労して手懐けるための道具(バレたら困る不正の証拠など)を揃えてチラつかせている成果かもしれない。
だけど、その平和が乱れることになって、今日の私は少しイライラしている。
「やぁリンカ様!」
「……サセックス侯爵」
原因はこいつ。完全王妃派のサセックス様の所為。
どうやら私が王妃派の議員を次から次へと排除したり、弱みを握って大人しくさせていることに気付いたらしく、新しく議員の一員としてブライアン公爵家が派遣させてきた。ったく、面倒な相手を送りつけてきやがって……!
「今日はルイ殿下が会議にいらっしゃいませんでしたが、何かあったのですかな?」
「……公務が忙しく休みが取れていなかったので、お休みを設けただけです」
本当は、ルイ殿下は数日前から少し体調を崩されている。
公務が忙しくて休みが取れなかったのは本当。それに伴い、王太子の勉強もしているものだから、無茶をし過ぎて体を壊してしまったのだ。
私がもう少し体調を気にしておくべきだった……私の落ち度です。
「おや、最近姿を見ないので、てっきり体調を崩されたのかと思いましたよ!王太子として、体が弱いのは心配ですねぇ。健康なアシュレイ殿下に王太子の座を譲り、大人しく療養された方が良いのではないですか?」
誰の所為で激務だと思う?そのアシュレイ殿下が全く働こうとされないから、その分ルイ殿下が働いているんですけど?
大体、そのアシュレイ殿下が王太子の時は、あいつは一切会議にも参加せず、遊びまくってたんじゃボケーーーー!っと、失礼しました。お口が悪過ぎましたね。
「ご心配には及びません。それよりも、サセックス様はその出過ぎた口を閉じることを覚えた方がよろしいのではないですか?」
「これは申し訳ありません!ルイ殿下を心配するあまりでた言葉ですので、お気を悪くしないで下さい」
何が心配よ、嘘ばっかり。このままルイ殿下がいなくなればいいなんて思ってるくせに……まぁ私もアシュレイ殿下に同じような事を思ったことはありますが。
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