24 / 40
24話 薬師
しおりを挟む*****
アシュレイ殿下の生誕祭から数週間――。
グレゴリー国にはアシュレイ殿下の王太子剥奪と、ルイ殿下の王太子指名のニュースが駆け巡った。
アシュレイ殿下の不貞行為や、生誕祭でその不倫相手と婚約発表をする非常識な行動も知れ渡ることになり、ルイ殿下の王太子就任は好意的に受け入れられた。
元より、ルイ殿下の人気はアシュレイ殿下より高かったので、この結果は当然。
「ルイ殿下、今後ともこの国をよろしくお願いします」
「ルイ殿下が陛下の跡を継いで下されば、この国は安泰ですな!」
アシュレイ殿下の愚行の数々の所為で王家の信頼は下がる一方だったが、新しく王太子になったルイ殿下は熱心に公務をこなし、国民にも寄り添い、信頼は徐々に回復していった。
「――ルイ殿下、少しお休みになられてはいかがですか?昨日も遅くまで勉強していらしゃいましたよね?」
王太子となったルイ殿下と一緒に仕事をする機会も増えた私は、視察帰りの馬車の中で彼に声をかけた。
「大丈夫だよ。次は王城に戻って、サンランカン男爵令息と面会だよね?」
「そうですが……サンランカン男爵令息との面会は私だけで十分ですよ」
サンランカン男爵が領地で販売している薬の評判が良く、以前視察に訪れたのだが、その結果、サンランカン男爵家の薬師としての技術を評価し、サンランカン男爵令息を王城に呼び寄せることになった。
ガルドルシア公爵家も薬学に精通しているつもりではあったけど……サンランカン男爵家の方が遥かに優れていると、自ら視察をして改めて感じた。
特に、サンランカン男爵の息子であるイグールは、まだ12歳と若いにも関わらず、群を抜いていた。
「折角王城に来て、僕の力になってくれるんだから、僕からも挨拶をしておきたいんだ」
毎日毎日、王太子として熱心に公務をこなした後、寝る間も惜しんで勉強もしてるのに……本当、アシュレイ殿下にルイ殿下の爪の垢を煎じて吐くまで飲ませてやりたいわ。
アシュレイ殿下は王太子になってからも何も変わらず、公務は最低限、遊び歩いてばかりで一つも王太子としての勉強もされず、何の成長も見られなかった馬鹿で愚かな王子でしたからね……クイナ嬢と恋に落ちてからは、もっと酷くなっていったし。
「かしこまりました。では、その後は少しお休み下さい。予定は空けておきましたので」
「ありがとうリンカ」
無理矢理休みを入れておかないと、ルイ殿下は休まなそうですからね。
***
「よ、よろしくお願いします。ルイ殿下、リンカ様」
緊張しているのか、小声で目も合わせないまま、サンランカン男爵令息であるイグールは深く頭を下げて挨拶した。
そりゃあ、いきなり王城に呼び寄せられたと思ったら、王太子殿下とガルドルシア公爵令嬢兼宰相の私と面談ですものね……緊張するに決まっています。
「こちらこそよろしくね、イグール。君の活躍に期待しているよ」
「は、はい!王城で働けるなんて……まるで夢のようです!精一杯頑張ります!」
……なんか可愛い……って、12歳と言えど、親元を離れて一生懸命頑張ろうとしている男性にそんな風に思っては駄目ですよね。
「では、今から私が王城内をご案内しますね」
「ありがとうございますリンカ様!僕の事はどうぞ、イグールと呼んで下さい」
……やっぱり可愛い……!弟がいたら、こんな感じなのでしょうか……!
「ここが貴方が働く薬剤室、こっちが貴方に用意された部屋に、こっちが――」
王城内は広い。私は幼い頃から行き来していて、勝手知ったる王城だが、初めて王城を訪れた者は必ずといっても過言ではないくらい、迷う。
初めて王城に来た者はメモを取ったりして道順を覚えたりするのだが、イグールにその様子は無く、私の説明を飄々とした表情で聞いていた。
……頭の良い子ね。
決して覚える気が無いわけではない。一回の説明で全て暗記しているのだろう。流石、サンランカン男爵家で一番目を引いた優秀な薬師なだけあります。
「あとこちらは――失礼、案内する場所を変えます」
イグールに感心しながら王城内を歩いていると、前方から会いたくない人物の一人が見えて慌てて舵変更するが、時すでに遅し。
「――あら、リンカ様じゃありませんか」
……私の姿を見付けても声をかけないで欲しいわ。
「クイナ嬢……出来るだけ王城内を徘徊しないで欲しいとお願いしているはずですが?」
「部屋にこもりっきりなんて気がおかしくなりそうよ!全然ここから出してもらえないから遊びにも行けないし……!王城内だって、私は決められた場所しか行けなくなってるのよ!?」
当然でしょう、子供の存在はトップシークレットなんですから。
お腹もそろそろ目立ち始めているにも関わらず平気で王城内を薄着で出歩くクイナ嬢を警戒して、子供の存在を知っている者達だけがいる中心部以外は立ち入り禁止にしました。
薬師であるイグールは私達王族側がいる中心部に住まうことになるので、前もって子供の存在は伝えてありますよ。
1,801
お気に入りに追加
3,430
あなたにおすすめの小説
貴方の愛人を屋敷に連れて来られても困ります。それより大事なお話がありますわ。
もふっとしたクリームパン
恋愛
「早速だけど、カレンに子供が出来たんだ」
隣に居る座ったままの栗色の髪と青い眼の女性を示し、ジャンは笑顔で勝手に話しだす。
「離れには子供部屋がないから、こっちの屋敷に移りたいんだ。部屋はたくさん空いてるんだろ? どうせだから、僕もカレンもこれからこの屋敷で暮らすよ」
三年間通った学園を無事に卒業して、辺境に帰ってきたディアナ・モンド。モンド辺境伯の娘である彼女の元に辺境伯の敷地内にある離れに住んでいたジャン・ボクスがやって来る。
ドレスは淑女の鎧、扇子は盾、言葉を剣にして。正々堂々と迎え入れて差し上げましょう。
妊娠した愛人を連れて私に会いに来た、無法者をね。
本編九話+オマケで完結します。*2021/06/30一部内容変更あり。カクヨム様でも投稿しています。
随時、誤字修正と読みやすさを求めて試行錯誤してますので行間など変更する場合があります。
拙い作品ですが、どうぞよろしくお願いします。
俺はお前ではなく、彼女を一生涯愛し護り続けると決めたんだ! そう仰られた元婚約者様へ。貴方が愛する人が、夜会で大問題を起こしたようですよ?
柚木ゆず
恋愛
※9月20日、本編完結いたしました。明日21日より番外編として、ジェラール親子とマリエット親子の、最後のざまぁに関するお話を投稿させていただきます。
お前の家ティレア家は、財の力で爵位を得た新興貴族だ! そんな歴史も品もない家に生まれた女が、名家に生まれた俺に相応しいはずがない! 俺はどうして気付かなかったんだ――。
婚約中に心変わりをされたクレランズ伯爵家のジェラール様は、沢山の暴言を口にしたあと、一方的に婚約の解消を宣言しました。
そうしてジェラール様はわたしのもとを去り、曰く『お前と違って貴族然とした女性』であり『気品溢れる女性』な方と新たに婚約を結ばれたのですが――
ジェラール様。貴方の婚約者であるマリエット様が、侯爵家主催の夜会で大問題を起こしてしまったみたいですよ?
困った時だけ泣き付いてくるのは、やめていただけますか?
柚木ゆず
恋愛
「アン! お前の礼儀がなっていないから夜会で恥をかいたじゃないか! そんな女となんて一緒に居られない! この婚約は破棄する!!」
「アン君、婚約の際にわが家が借りた金は全て返す。速やかにこの屋敷から出ていってくれ」
新興貴族である我がフェリルーザ男爵家は『地位』を求め、多額の借金を抱えるハーニエル伯爵家は『財』を目当てとして、各当主の命により長女であるわたしアンと嫡男であるイブライム様は婚約を交わす。そうしてわたしは両家当主の打算により、婚約後すぐハーニエル邸で暮らすようになりました。
わたしの待遇を良くしていれば、フェリルーザ家は喜んでより好条件で支援をしてくれるかもしれない。
こんな理由でわたしは手厚く迎えられましたが、そんな日常はハーニエル家が投資の成功により大金を手にしたことで一変してしまいます。
イブライム様は男爵令嬢如きと婚約したくはなく、当主様は格下貴族と深い関係を築きたくはなかった。それらの理由で様々な暴言や冷遇を受けることとなり、最終的には根も葉もない非を理由として婚約を破棄されることになってしまったのでした。
ですが――。
やがて不意に、とても不思議なことが起きるのでした。
「アンっ、今まで酷いことをしてごめんっ。心から反省しています! これからは仲良く一緒に暮らしていこうねっ!」
わたしをゴミのように扱っていたイブライム様が、涙ながらに謝罪をしてきたのです。
…………あのような真似を平然する人が、突然反省をするはずはありません。
なにか、裏がありますね。
【完結】婚約破棄はしたいけれど傍にいてほしいなんて言われましても、私は貴方の母親ではありません
すだもみぢ
恋愛
「彼女は私のことを好きなんだって。だから君とは婚約解消しようと思う」
他の女性に言い寄られて舞い上がり、10年続いた婚約を一方的に解消してきた王太子。
今まで婚約者だと思うからこそ、彼のフォローもアドバイスもしていたけれど、まだそれを当たり前のように求めてくる彼に驚けば。
「君とは結婚しないけれど、ずっと私の側にいて助けてくれるんだろう?」
貴方は私を母親だとでも思っているのでしょうか。正直気持ち悪いんですけれど。
王妃様も「あの子のためを思って我慢して」としか言わないし。
あんな男となんてもう結婚したくないから我慢するのも嫌だし、非難されるのもイヤ。なんとかうまいこと立ち回って幸せになるんだから!
【完結】子供が出来たから出て行けと言われましたが出ていくのは貴方の方です。
珊瑚
恋愛
夫であるクリス・バートリー伯爵から突如、浮気相手に子供が出来たから離婚すると言われたシェイラ。一週間の猶予の後に追い出されることになったのだが……
婚約者様。現在社交界で広まっている噂について、大事なお話があります
柚木ゆず
恋愛
婚約者様へ。
昨夜参加したリーベニア侯爵家主催の夜会で、私に関するとある噂が広まりつつあると知りました。
そちらについて、とても大事なお話がありますので――。これから伺いますね?
無実の罪で聖女を追放した、王太子と国民のその後
柚木ゆず
恋愛
※6月30日本編完結いたしました。7月1日より番外編を投稿させていただきます。
聖女の祈りによって1000年以上豊作が続き、豊穣の国と呼ばれているザネラスエアル。そんなザネラスエアルは突如不作に襲われ、王太子グスターヴや国民たちは現聖女ビアンカが祈りを怠けたせいだと憤慨します。
ビアンカは否定したものの訴えが聞き入れられることはなく、聖女の資格剥奪と国外への追放が決定。彼女はまるで見世物のように大勢の前で連行され、国民から沢山の暴言と石をぶつけられながら、隣国に追放されてしまいました。
そうしてその後ザネラスエアルでは新たな聖女が誕生し、グスターヴや国民たちは『これで豊作が戻ってくる!』と喜んでいました。
ですが、これからやって来るのはそういったものではなく――
わたしの浮気相手を名乗る方が婚約者の前で暴露を始めましたが、その方とは初対面です
柚木ゆず
恋愛
「アルマ様っ、どうしてその男と手を繋いでいらっしゃるのですか!? 『婚約者とは別れる』、そう約束してくださったのに!!」
それは伯爵令嬢アルマが、ライアリル伯爵家の嫡男カミーユと――最愛の婚約者と1か月半ぶりに再会し、デートを行っていた時のことでした。突然隣国の子爵令息マルセルが現れ、唖然となりながら怒り始めたのでした。
そして――。
話が違うじゃないですか! 嘘を吐いたのですか!? 俺を裏切ったのですか!? と叫び、カミーユの前でアルマを追及してゆくのでした。
アルマは一切浮気をしておらず、そもそもアルマとマルセルはこれまで面識がなかったにもかかわらず――。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる