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24話 薬師

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 アシュレイ殿下の生誕祭から数週間――。

 グレゴリー国にはアシュレイ殿下の王太子剥奪と、ルイ殿下の王太子指名のニュースが駆け巡った。
 アシュレイ殿下の不貞行為や、生誕祭でその不倫相手と婚約発表をする非常識な行動も知れ渡ることになり、ルイ殿下の王太子就任は好意的に受け入れられた。
 元より、ルイ殿下の人気はアシュレイ殿下より高かったので、この結果は当然。

「ルイ殿下、今後ともこの国をよろしくお願いします」
「ルイ殿下が陛下の跡を継いで下されば、この国は安泰ですな!」

 アシュレイ殿下の愚行の数々の所為で王家の信頼は下がる一方だったが、新しく王太子になったルイ殿下は熱心に公務をこなし、国民にも寄り添い、信頼は徐々に回復していった。

「――ルイ殿下、少しお休みになられてはいかがですか?昨日も遅くまで勉強していらしゃいましたよね?」

 王太子となったルイ殿下と一緒に仕事をする機会も増えた私は、視察帰りの馬車の中で彼に声をかけた。

「大丈夫だよ。次は王城に戻って、サンランカン男爵令息と面会だよね?」

「そうですが……サンランカン男爵令息との面会は私だけで十分ですよ」

 サンランカン男爵が領地で販売している薬の評判が良く、以前視察に訪れたのだが、その結果、サンランカン男爵家の薬師としての技術を評価し、サンランカン男爵令息を王城に呼び寄せることになった。
 ガルドルシア公爵家も薬学に精通しているつもりではあったけど……サンランカン男爵家の方が遥かに優れていると、自ら視察をして改めて感じた。
 特に、サンランカン男爵の息子であるイグールは、まだ12歳と若いにも関わらず、群を抜いていた。

「折角王城に来て、僕の力になってくれるんだから、僕からも挨拶をしておきたいんだ」

 毎日毎日、王太子として熱心に公務をこなした後、寝る間も惜しんで勉強もしてるのに……本当、アシュレイ殿下にルイ殿下の爪の垢を煎じて吐くまで飲ませてやりたいわ。
 アシュレイ殿下は王太子になってからも何も変わらず、公務は最低限、遊び歩いてばかりで一つも王太子としての勉強もされず、何の成長も見られなかった馬鹿で愚かな王子でしたからね……クイナ嬢と恋に落ちてからは、もっと酷くなっていったし。

「かしこまりました。では、その後は少しお休み下さい。予定は空けておきましたので」

「ありがとうリンカ」

 無理矢理休みを入れておかないと、ルイ殿下は休まなそうですからね。


 ***


「よ、よろしくお願いします。ルイ殿下、リンカ様」

 緊張しているのか、小声で目も合わせないまま、サンランカン男爵令息であるイグールは深く頭を下げて挨拶した。
 そりゃあ、いきなり王城に呼び寄せられたと思ったら、王太子殿下とガルドルシア公爵令嬢兼宰相の私と面談ですものね……緊張するに決まっています。

「こちらこそよろしくね、イグール。君の活躍に期待しているよ」

「は、はい!王城で働けるなんて……まるで夢のようです!精一杯頑張ります!」

 ……なんか可愛い……って、12歳と言えど、親元を離れて一生懸命頑張ろうとしている男性にそんな風に思っては駄目ですよね。

「では、今から私が王城内をご案内しますね」

「ありがとうございますリンカ様!僕の事はどうぞ、イグールと呼んで下さい」

 ……やっぱり可愛い……!弟がいたら、こんな感じなのでしょうか……!


「ここが貴方が働く薬剤室、こっちが貴方に用意された部屋に、こっちが――」

 王城内は広い。私は幼い頃から行き来していて、勝手知ったる王城だが、初めて王城を訪れた者は必ずといっても過言ではないくらい、迷う。
 初めて王城に来た者はメモを取ったりして道順を覚えたりするのだが、イグールにその様子は無く、私の説明を飄々とした表情で聞いていた。

 ……頭の良い子ね。

 決して覚える気が無いわけではない。一回の説明で全て暗記しているのだろう。流石、サンランカン男爵家で一番目を引いた優秀な薬師なだけあります。

「あとこちらは――失礼、案内する場所を変えます」

 イグールに感心しながら王城内を歩いていると、前方から会いたくない人物の一人が見えて慌てて舵変更するが、時すでに遅し。

「――あら、リンカ様じゃありませんか」

 ……私の姿を見付けても声をかけないで欲しいわ。

「クイナ嬢……出来るだけ王城内を徘徊しないで欲しいとお願いしているはずですが?」

「部屋にこもりっきりなんて気がおかしくなりそうよ!全然ここから出してもらえないから遊びにも行けないし……!王城内だって、私は決められた場所しか行けなくなってるのよ!?」

 当然でしょう、子供の存在はトップシークレットなんですから。
 お腹もそろそろ目立ち始めているにも関わらず平気で王城内を薄着で出歩くクイナ嬢を警戒して、子供の存在を知っている者達だけがいる中心部以外は立ち入り禁止にしました。
 薬師であるイグールは私達王族側がいる中心部に住まうことになるので、前もって子供の存在は伝えてありますよ。

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