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21話 アシュレイ殿下の生誕祭②

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 私がアシュレイ殿下とクイナ嬢を部屋に閉じ込めるよう命じた期間は一か月(勿論、後日陛下から正式に大人しくしているよう通達してもらいましたよ)。
 その一か月は、アシュレイ殿下の生誕祭まで期間。

 どうせ反省なんてしないでしょうけど、反省を促すために罰として与えたこの一か月は、あの馬鹿二人に邪魔をされないためでもある。
 ただでさえ忙しいのに、これであの馬鹿二人、アシュレイ殿下とクイナ嬢がまたしゃしゃり出て来て余計な真似をされていたら……例え陛下やルイ殿下が止めようと、私は本気で何をしていたか分からない。

 今日、アシュレイ殿下の生誕祭で、あの二人の罰は解かれることになる。つまり、部屋から出て来れるようになった。そして今日の主役はアシュレイ殿下。
 出来ることなら一生その顔は見たくないけど、今日ばかりはあの馬鹿王子が主役……滞りなく祭典を進めるためには、心の奥底から嫌だけど、アシュレイ殿下と関わるしかない。


「馬鹿王――アシュレイ殿下、お久しぶりですね」

「あ、てめ!よくも一か月もこの俺様を部屋に閉じ込めやがったな!ふざけんじゃねーぞ!」

 ……一か月ぶりにご尊顔を拝見しましたが、相変わらず五月蠅いですねー弱い犬ほどよく吠える。

「お元気そうで残念です」
「てめぇ……!」

 病気か何かにかかって弱ってそのまま……なんてことになっていたら一番平和だったんですけど、そう上手くはいきませんか。

「この国の王太子である俺様にこんな真似しやがって、ただじゃすまさねぇからな!今日の俺様の生誕祭で、お前を叩きのめしてやるよ!」

「……参考までに、何をされる気なのか聞いてもよろしいですか?」

 聞いても素直に答えるはずないか。私なら、企みを相手に教えたりしないもの。

「ふん!いいかよく聞け!今日ここでクイナとの婚約を発表し、お前が俺様に捨てられた惨めな負け犬だと、世間に知らしめてやる!」

 あ、素直に言うんだ。そう言えば馬鹿でしたね。

「兄様……一か月も部屋に籠っていたのに、全く反省していないんですか?」

 私と一緒に馬鹿二人を迎えに来たルイ殿下は、全く反省もせず、いつものようにキャンキャン喚く兄を見て頭を抱えた。
 こんなに愚かな兄を持って、呆れるやら情けないやら、どうしようもない気持ちで一杯でしょうね。

「反省するのはお前だ!こんな女にいいように使われやがって!だからお前は王太子になれなかったんだ!」

「兄様……兄様は王太子の座を剥奪され、次の王太子は僕になると陛下から聞かされたでしょう?」

「そんなワケあるか!嘘をついて俺様を惑わそうとしてもそーはいかねぇんだよ!俺様みたいに優秀で格好良くて強い男こそが、王太子に相応しいんだよ!」

 どこから来るんだその自信、自己肯定感の塊か。
 てか、お前が不貞を働いたことは知れ渡っていて、私が可哀想な被害者だとはもう認識されているんだけど……ただ、何故それで私が叩きのめされることになるのかは理解不能。
 不貞を働いたお前等の方が恥だというのに、それすら理解出来ないんですね、お可哀想な頭。

「クイナ嬢との婚約発表は、アシュレイ殿下のお好きにすれば良いと思いますよ」

 どーせ政略結婚も貴方の我儘で傲慢な性格上出来ないでしょうし、約立たずなアシュレイ殿下が誰と婚約しようが、正直どうでもいい。

「はっ!リンカ、強がってんのがバレバレだぜ!俺様が好きで仕方なくて!俺様を失った悲しみから嫌がらせしてんのはもう分かってんだよ!」

 ――寝言は寝て言え?
 だぁーれが!お前みたいな馬鹿王子を好きで仕方ないって!?政略結婚じゃなかったらお前みたいな馬鹿王子なんて人類が滅んで二人きりになったとしても選ばねーわ!

「リンカ様……お可哀想……!愛する人を失い、王太子妃の座まで失ってしまったんだもの……!悲しみから、往生際の悪いことをしてしまう気持ちは分かります!」

 クイナ嬢まで入ってくんな、面倒臭い。

「もうどうでもいいです。お二人とも、生誕祭の準備がありますのでさっさと行って下さい」

「おっと、そうだ!てめぇ等の相手して、生誕祭の主役である俺様が遅れるわけにはいかねーからな!」

「クイナ嬢には陛下よりドレスのプレゼントが届いておりますので、そちらを着て生誕祭にお越し下さい」

「陛下から!?やだぁ、嬉しい!お義父様は私のことを王太子妃と認めて下さっているんですね!」

 何がお義父様だ。正式に婚約もしていないのに国王陛下をお義父様呼びするなんて……引くわ。
 そのドレスは、貴女のお腹が目立たないようにと、私が用意させたんですよ。私からでは絶対に受け取らないでしょうから、陛下のお名前をお借りしたまでです。

「ふふ、私が王太子妃になった暁には、この国の宰相であるリンカ様に、私をお祝いする盛大な宴でも開催して頂こうかしら。リンカ様は私の家来になりますものね」

 ――誰が開くか、ばーか。


「……リンカ、本当にクイナ嬢を生誕祭に参加させてもいいの?」

「心底嫌ですけど、今日だけは構いませんよ」

 五月蝿い二人を侍女と侍従それぞれに任して、ルイ殿下と二人、外廊下を歩く。
 お腹の大きさ的にも、クイナ嬢が公の場に参加出来るのは、今日まで。これ以上お腹が目立てば、どれだけドレスで隠しても子供の存在がバレてしまいますからね。

「クイナ嬢には、社交界最後の宴をしっかりと楽しんで頂きましょう」

 本当はルイ殿下が心配するように、生誕祭に参加させるべきじゃないのでしょうが、優しい私は、彼女に現実をきちんと教えてあげようと思い、今日に限って参加を許した。
 子供が産まれた後は国外追放されるとも知らずに、呑気に王太子妃を夢見るお姫様は、今のご自身の立場すら理解されていない。隣にいる王子様の立場も理解していない。

 この生誕祭で、どうぞ現実を味わって下さい。
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