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19話 私の邪魔をするなら容赦しません
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「俺は……俺は、誰よりもグレゴリー国の繁栄を願っている!その為にはどんな汚いこともしてみせるんだ!邪魔をしないで下さい!」
スミス様がグレゴリー国を思う気持ちは、十分理解しています。行き過ぎた行動も、それ所以のものだと。だからこそ、以前、レイリン王妃派であるピジョン様を亡き者にしようと暴走した時も、助けてあげた。
……まぁ、スミス様がルイ殿下派だと言うのは知れ渡っているので、余計な火の粉がルイ殿下に及ばぬように助けてあげたのが最大の理由ですが。
一度助けてあげたにも関わらず、スミス様はまた同じようなことを繰り返した。
それも詰めが甘い。やるならば完璧にしなければ陛下やルイ殿下に迷惑がかかると言うのに、スミス様は何も理解されていない。ガッカリです。
きっとスミス様は、また同じような事を繰り返すのでしょうね。
――――そうやって私の邪魔をする。それなら……スミス様はこの国に必要でしょか?
「……スミス様、その紅茶、美味しいですか?」
王城自慢の茶葉で淹れた紅茶。一仕事終えたと思った後に飲む高級な紅茶は、さぞかし美味しかったことでしょう。私も、仕事終わりに飲む美味しい珈琲は格別です。
「は?急に何を言って――」
「スミス様はこの毒を誰にも発見されていないものだと思っておられるみたいですが、実は、ガルドルシア公爵家は随分前からこの毒の存在を知っていたんですよね」
「……は?」
「即効性が無く、飲んだ後暫くは通常通りに過ごせ、長く苦しんだ後に死ぬ」
だから色々と使い勝手が良かったりするんですよね。飲ませた後にすぐに立ち去れば、アリバイにもなりますし、ガルドルシア公爵家も昔は随分活用したと聞きます。
「ま、まさか――ぐっ!」
「ああ、良かった。ちゃんと効いてきたみたいですね」
私は何の罪も無い人を巻き込むのは好きじゃない。
でも――それ以外なら、私の邪魔をする人なら、どうなってもいいと思っているんですよね。
「リンカ……様!まさか……俺に毒を……!?」
「スミス様が余計な真似をされるからです、私は忠告しましたよね?ルイ殿下の即位の邪魔をされるなら、容赦しないと」
例えそれが国のため、しいてはルイ殿下の為にされているとしても、私の邪魔をするなら一緒。
地面に膝から崩れ落ち、苦しそうに息をするスミス様。
こんな苦しそうな姿を見ても、特に何も思わない私は、やっぱり、いざとなったらどんな汚いことも平気でしてしまえる人間なのでしょうね。
私も、スミス様と本質は大して変わらないのでしょう。
「た、助けて……くれ!頼む……!」
「……貴方も知っていますよね?解毒剤が存在しない、未知の毒だと」
自分で用意していたのだから、当然知っているはずだ。知っていて、クイナ嬢を亡き者にしようと、毒を仕込んだ。
正直、クイナ嬢だけなら、また以前のピジョン様殺害未遂の時のように、高みの見学をしてあげても良かったんですけどね。貴方はお腹の子供も、王族の毒見役も道連れにしようとした。それは許せる範囲を超えている。
「――あった、これですね」
スミス様のポケットを漁ると、予想通り、毒が入っていたであろう小瓶が見つかった。
わざわざ私に犯行予告をしたり、悠長にこんな毒殺の証拠をいつまでも持ち歩いたり、本当に詰めが甘い。
「スミス様は私という存在を軽んじ過ぎです。私が貴方の思い通りに事を進めさせるとでも?浅はか過ぎて笑えますね」
ルイ殿下を王太子にするために、私がどれ程苦労していると思っているの?……そして、ルイ殿下自身も、どれ程の努力をされているか……それを軽んじる行為は許せない。
「第一、もし毒殺が上手くいっていたとしても、スミス様の思惑通りにはいきませんよ」
スミス様は大胆なことを考え、行動にまで移すわりに詰めが甘い。
「毒がクイナ嬢のもとに届いたとして、その毒で死ぬのは二人――アシュレイ殿下も、彼女と一緒に亡くなることになるでしょう」
暇さえあればイチャイチャしているあの馬鹿王子と浮気女は、食事中もお互いの食事を食べ合いっこしてイチャついている。クイナ嬢に毒が届くということは、即ち、アシュレイ殿下にも毒が届くことになる。
「そん……な……」
アシュレイ殿下を王太子にと考えているスミス様にとっては、全くの意味の無い行為になる。
そもそもが王族を殺害した時点で、死刑確定。スミス様個人だけでなく、スミス伯爵家全体に重い罰が与えられることでしょう。
食事風景くらい、前もって調べておきましょうね。
「私に感謝して下さいね。私のおかげで、スミス様の家に被害が出ることは防げたのですから」
「あ……ああ……あり……がとう」
もう虫の息ですね、そろそろヤバいか。
「リンカ様……へ、陛下と……ルイ殿下を……頼む……」
「……」
死の間際だというのに、最後に口にするのが陛下とルイ殿下とは……本当に、グレゴリー国の為を思っての行為なんですね。
やっていることは私にとってただの迷惑行為に過ぎませんが。まぁ、もういいでしょう
「スミス様、こちらをどうぞ」
「がぼっ!おい、何をする!死にかけたぞ!」
「実際毒で死にかけていましたからね」
「!そ、そうだ!俺は――」
「今飲ませのはこの毒の解毒剤です」
「解毒剤!?この毒にはまだ解毒剤は存在しないはずでは――!」
「さっき言いましたよね?ガルドルシア公爵家では随分前に毒の存在を知っていたと」
とても使い勝手の良い毒なので、どこにも公表せずにうちだけで使用していたのですが、遂に見つかってしましましたね。仕方ありません。いずれどこかで発見されるだろうなとは思っていましたし。
「解毒剤もとっくの昔に作ってあります。ガルドルシア公爵家は薬学にも精通していますので」
この毒は即効性が無く、毒を飲んでも長く苦しんだまま暫く生きるので、自白を促すさいとかにとても活用出来るんですよね。
「解毒剤があったのか……」
「はい」
このまま……殺してしまっても良かったのですが、ルイ殿下に手を汚すような事はしないで欲しいとお願いされましたし、スミス様の本質はルイ殿下を思う同志ですからね。今回のような形を取ることにしました。
程々の汚い事なら、ルイ殿下も許して頂けましたし、この位なら許して下さるでしょう。多分。
「スミス様、私が何を言いたいかお分かりですよね?私は、スミス様がアシュレイ殿下を毒殺しようとした証拠を持っています」
毒の入っていた小瓶に、ダメ押しでスミス様が毒を混入した場面を映した映像石も用意している。
「私は反省したんです、以前、スミス様が暴走された時に、もっと強く警告しておけば、こんな面倒なことは起きなかったのに、と」
陛下やルイ殿下に注意されただけでは、暫くは大人しくしていても、きっとまた忘れた頃に同じような事を繰り返してしまうのだろうと、スミス様のことを理解した。
「だから今回は、もう二度と余計な手間を増やさせないようにしようと思ったんです」
――今回の件を公にされたくなければ……死にたくなければ、二度と私の邪魔をするな――
私の言いたいことはきちんと伝わるでしょうか?
「ひっ!わ、分かった!もう二度と余計な真似はしない!すまなかった!」
「ご理解頂けて何よりです」
良かった。これで伝わらなければ、また違う手を考えなくてはいけないところでした。
さて、これで面倒事は片付きましたし、忠実な下僕――失礼、素敵な同志が出来たことですし、張り切ってアシュレイ殿下の生誕祭の準備に取り掛かりましょう。
この生誕祭で、いよいよアシュレイ殿下の王太子剝奪とルイ殿下の王太子就任が、正式に発表されることになるのだから――
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