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18話 スミス様の暴走②

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 アシュレイとクイナは、お茶会での失態の罰として、部屋で一か月の監禁を言い渡された。
 食事も外に出ることは許されず、料理を運び、部屋の中で食事をする。妊婦であるクイナ嬢は、お腹の子供のためにと、栄養のある食事内容に変更されており、どれが彼女の食べる料理なのかは、一目瞭然だった。
 スミスは、そんな彼女の料理に毒を仕込む。ただそれだけで良かった。

「これであの女がいなくなれば、アシュレイ殿下も新しい妻を迎えるしかなくなるだろう」

 スミスは王城に用意された部屋に戻ると、優雅に遅めのティータイムの時間を過ごした。王城自慢の紅茶は、一仕事終えた後には格別の旨さだった。

 クイナがいなくなれば、お腹の子供の存在がバレる心配もしなくて良くなる。まさに一石二鳥。

「我ながら良い毒を発見したものだ」

 偶然的にも発見したこの毒は、一口、口にすれば徐々に息が出来なくなり、苦しみながら死んでいくしかない強力な毒。
 即効性が無く、ゆっくりと症状が進行していくこの毒は、まだ世間に見つかっていない新種のもので、解毒剤も存在していない。

「こんな事をした俺を陛下もルイ殿下もお怒りになるだろうが、最後には感謝されるはずだ」

 全てはグレゴリー国、しいては、陛下やルイ殿下の為なのだから――。



「――失礼しますスミス様、リンカです。中に入ってもよろしいでしょうか?」

「!」

 リンカ様……?今まで俺の部屋にお見えになったことなんて一度も無いのに……さてはさっきの件で釘でも差しに来たのか?ふん、もう手遅れだというのに。

「どうぞお入り下さい」

「失礼します」

 幾らリンカ様がグレゴリー国始まって以来の優秀な宰相と名高くても、未知の毒には対処出来ないだろう。

「それで、何か御用ですかな?」

「単刀直入に言いますが、あまり勝手な真似をされては困ります」

「な、何のことでしょうか?」

「クイナ嬢を亡き者にしようとした件です」

「!」

「わざわざ新種の毒まで持ち出すなんて……スミス様にしては、珍しく用意周到ですね」

 ――クイナ嬢が倒れたのか!?いや、しかし何故、新種の毒のことまで知っている!?それに、俺の仕業だと断言もしているが……!い、いや、はったりかもしれない。ここは誤魔化して……

「リンカ様が何を仰っているのか分かりませんが……まさか、クイナ嬢に何かあったのですか?」

「いいえ、何もありませんよ。今頃お二人で仲良く夕食をお召し上がっている最中だと思います」

「な!そんな馬鹿な!俺は確かに……!」

「……はぁ、本当に詰めが甘い方ですね。残念ですが、そんなに簡単に食事に毒を入れられるような甘い警備はしていません。特に、お茶会や宴会、会議などで多くの方が来訪される日は」

「な――」

「好きに泳がせてあげただけですよ。まさか毒殺を目論むとは思っていませんでしたが、クイナ嬢は今監禁されている身ですから、以前のように弓で遠くから狙うなんて強引で陳腐でお粗末な真似が出来なくて、苦労して毒を手に入れたということでしょうか」

「おい!言い過ぎだろう!」

 スミスの狙いは、アシュレイ殿下の王太子剥奪の阻止。
 陛下が正式に発表する前にことを進める必要があり、苦労して新種の毒を手に入れた。それなのに――!

「何故邪魔をされるのですか!?クイナ嬢がいなくなった方が、リンカ様にとっても喜ばしいことでしょう!?」

「あんな女の子供でも、一応は王家の血を引く子供です。それを殺そうとされるなんて、許されることではありませんよ?」

「くっ!」

 まさか、こんな簡単に俺の企みを阻止されるとは――!
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