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16話 忙しいのに余計な手間増やすなよ

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 あの波乱のお茶会から数日。
 緊急で開かれた会議にて、後日開かれるアシュレイ殿下の生誕祭の場で、国王陛下はアシュレイ殿下の王太子剥奪を告げ、ルイ殿下を王太子として指名されることとなり、ついでに、クイナ嬢の生家であるロスナイ子爵家の世襲の爵位継承権の剥奪も可決した。
 この会議には、陛下とルイ殿下からの最後の恩情で、部屋に監禁しているアシュレイ殿下に出席のためならばと部屋から出る許可を与えたが、『何で仕事のためだけに部屋から出なきゃなんねーんだよ!』と拒否された。ほんと、つくづく救いようのない方です。
 この会議では、王妃側の重役達も誰も反対の声を上げず、静かにスムーズに話が進んだ。
 誰もがお茶会でのアシュレイ殿下の失態を知っているし、当の本人が会議にも出席しないのだから、反対しても無駄だと察したのでしょう。賢明な判断です。

「リンカ様」

「……スミス様、何か御用でしょうか?」

 会議後、重役の一員であるスミス伯爵が声をかけてきたので、振り向いて応答する。
 嫌だなぁ……この人、色々と面倒臭いから話したくないのに……。

「アシュレイ殿下が王太子から剝奪され、ルイ殿下が王太子になることが決まりましたが、これで全てが上手くいくとお思いですか?」

「……と言うと?」

「王妃様とその後ろ盾であるブライアン公爵家ですよ!例えルイ殿下が王太子になったとしても、諦めるとお思いですか?必ず邪魔するのは目に見えています!」

 それはそうでしょうね。諦め悪そうですし、あの手この手を使ってくるのが目に見えているので、今から出来る限りは対策していますけど……。
 このスミス伯爵は、私と同じ、いわゆるルイ殿下派に属する。属するのだが――

「だから私は、一度あの馬鹿王子に政権を握らせ、一度国を滅茶苦茶にさせてから、満を持してルイ殿下が政権を取り戻した方が良いと思うのです!そうすれば、より一層ルイ殿下の素晴らしさが際立ち、誰からも邪魔されない政権が出来ると思うのです!」

 ――思いっきりはっちゃけた提案をしてくるんですよねぇ。

「……それだとアシュレイ殿下が政権を握っている間、国民に犠牲が出ると思うのですが……」

「未来の平和のために、多少の犠牲はつきものでしょう!?」

 それ自体は私も同じ考えですが……私とは合わないんですよねぇ。私どころか、温厚派な陛下とルイ殿下とも勿論合わない。

「何度も申し上げておりますが、私は無関係の人間を巻き込むのは嫌いです」

 私はアシュレイ殿下が王太子になった際も、アシュレイ殿下が馬鹿のままなら、離婚を言い渡されなくても、王太子の座を剥奪させるつもりだった。その手段もちゃんと準備していた。
 アシュレイ殿下やその他ブライアン公爵家がどうなろうと知った事ではありませんが、何の罪も無い者達にまで被害を受けるやり方は好きじゃない。
 どんな目にあおうが自業自得なのは、私の邪魔をした者のみ。
 スミス様とは目的や手段は同じなのに、根本的な考えの違いで気が合わない。悲しいことです。

「多少の汚れ仕事、この国の頭脳である貴女が担わなくてどうするんですか!?」

 その多少の汚れ仕事で、どれ程の国民の被害が出ると思ってるんだよ。
 あの馬鹿王子が国王陛下になったら、好きなだけ国のお金を私欲に使って財政が上手くいかなくなり、民に税を増やして苦しめる未来しか見えんわ。パッと思いついた事象ですら最悪なのに、もっと悲惨な真似するに決まってる。それこそ、ブライアン公爵が甥であるアシュレイ殿下を使って政権をぐちゃぐちゃにかき回す未来しか見えない……駄目だ、最悪過ぎてこれ以上考えたくない。

「最悪な未来にならないように、こうしてルイ殿下を王太子になるよう仕向けたじゃありませんか」

 一度レイリン王妃の望みを聞き入れてわざわざ結婚し、それでもどうにもならないと実証した。浮気相手まで連れて来て子供まで作るという余計な手間まで増やしたけど、おかげでルイ殿下を王太子にはし易くなった。
 不倫がこれで外にバレなきゃ最高だったんですけど、あの馬鹿王子が大っぴらに全部バラしやがって……!おかげでこっちは国民からの不信感の払拭に大忙しですよ!有力貴族達への説明や謝罪もあるし……いい加減にしろよマジで。
 一か月の監禁で済むだけ御の字だと思って欲しいくらい。本人達はブツブツ言ってるけど、知ったこっちゃない。知るか、部屋で二人で腰振って遊んでろ。大人しくそのまま一生私達の迷惑にならないように暮らせよ!

「ですから!まだ盤石じゃないと言っているんです!」

 お前もマジでうざいな。
 私もよく過激な発言して陛下とルイ殿下に止められるけど、お前も思いっきり止められてるからな。何なら、私の発言より、無関係な人間を巻き込む分、ちょっと怒られてるからね?

「リンカ様が動かないと言うなら、俺がルイ殿下のために動きます!必ずや、ルイ殿下に天下を取って頂くのです!」

 ……天下、ねぇ……その天下の意味はよく分かりませんけど、ルイ殿下を国王陛下にしたい気持ちは伝わりました。伝わりはしましたが……その為に、私の邪魔をするのは許さない。

「スミス様、言っておきますが、ルイ殿下の即位の邪魔をされるなら――貴方でも容赦しませんよ」

「なっ!」

 ルイ殿下を思う貴方の気持ちを汲んだ、私なりの忠告です。聞き入れて大人しくされるのが、スミス様の為だと思いますけど。

「う、五月蠅い!俺は俺で、この国の未来の為に好きにさせてもらう!」

 言いたいことだけを吐き捨て、その場を去るスミス伯爵。


 あれは何か絶対にやらかすな……以前も暴走して、王妃派の重役であるピジョン様を弓矢で亡き者にしようとしましたっけ……結局、手段がお粗末過ぎてバレそうになったのを私が助けてあげたんですけど、もう忘れたのか。陛下とルイ殿下にもこっぴどく怒られていたのに……
 私も、王妃側の重役なら死んでもいい。寧ろラッキーと思って、上手くいくか見守っていたのがバレて怒られましたけどね。
『助けたってことは、リンカはスミスが何をしようとしてたか知ってて、わざと放置してたってことだよね?』
 なんてルイ殿下に言われたものだから、正解です。と素直に吐いてしましました。ルイ殿下は私の事をよく理解されていますね――って、そうじゃない。それどころじゃない。ルイ殿下にとってこんな大切な時期に余計な真似されたらたまったものじゃない。最悪、スミス様の思惑通りにアシュレイ殿下が王太子に返り咲きでもしたら――

 ……もう!こんな忙しいのに余計な手間増やすなよ!ほんとマジでうざいなお前も!

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