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15話 波乱のお茶会⑤
しおりを挟むアシュレイ殿下の尻拭いをしたのは、これが初めてではない。過去、何度も尻拭いをしている。
どこぞやの有権者の貴族令嬢に対して、この不細工が!と言い捨てたり、泥酔して平民に暴言を吐いたり、侍女に暴力を振るったり、女遊びを繰り返したり……ふざけんなよ!と思いながらも、今まで何度も対処してきた。
私は聖人君主かと思うくらい、今まで頑張ってきてあげた。
今回も、王家の恥をばら撒くワケにはいかないと、不貞の事実を隠し、円満離婚として処理したのに……まさか自ら不倫を暴露してくれるなんて、ほんとふざけんなよマジで。
「王太子になったことで余計に我儘が加速しているように思います。あの馬鹿を王太子にさせてしまった私の落ち度です。申し訳ありません」
「いやいや……あれはレイリン王妃のゴリ押しだったし……リンカ自身は、最初は拒否していたんだから」
「陛下に話して、アシュレイ殿下の王太子剥奪発表の場を早めます」
もういち早く王太子の座から引きずり落とした方がいい。
あとはアシュレイ殿下がやらかした不貞行為による王家の不信感の払拭に、お茶会での騒動の謝罪……私もヒートアップしてしまいましたものね、反省します。あとは何だろう……ああ、仕切り直しのお茶会の準備に、これからのことを話し合うために緊急の会議の場も設けなくちゃ。ああ、やることが多すぎて頭が痛い……!
「僕も手伝うから、遠慮なく言ってね」
「はい、申し訳ありませんが、手伝って頂かなくては終わりません。陛下にも覚悟して頂きます」
所詮私は宰相であって、王族とは違います。矢面に立てるのはアシュレイ殿下の身内だけ。あんな馬鹿のために頭を下げるのは心苦しいとは思いますが、やって頂くしかない。
「……相談ですが、無実の罪をでっち上げてアシュレイ殿下を殺――幽閉するのは、駄目ですか?」
「……うん、それだとグレゴリー国始まって以来の王家の恥になっちゃうけど、大丈夫?」
「……本当ですね。すみません、怒りでそこまで考えが及んでいませんでした」
詳しい罪の内容はまだ考えていませんが、王族が死刑になる程の罪だなんて、稀代の罪人が誕生してしまうことになりますね。つい、地下牢に入れられた時と同様に考えてしまいました。あのまま地下牢に入れられていたら、王家の恥とか関係無く実行しましたけど。
「気がついてくれたなら良かったよ」
「……でも、それでこれから先、あの馬鹿王子の尻拭いをしなくて良いなら――」
「……リンカが兄様に限界なのは伝わったけど、罪を捏造するのは止めようか。勿論、本当に罪を犯したなら罰は受けてもらうけど」
「……」
陛下とルイ殿下は誠実なお方ですね。あんな馬鹿な血縁のために、しなくてもいい苦労を背負い込んでいるというのに……。
国を平和に治める為ならば、強引で汚いこともするべきと考えるガルドルシア公爵家とは違う、清廉潔白の陛下とルイ殿下。この考えの相違から、お父様はブライアン公爵家の企みを阻止する事が出来ず、レイリン王妃を第一王妃として迎え入れることになってしまった。
ありとあらゆる手を使っていれば、お父様も防げたでしょうに……。
「かしこまりました。ルイ殿下がそう仰るのなら、そのように致しましょう」
「……リンカ、リンカがグレゴリー国のために一生懸命尽くしてくれているのは知ってるよ。とてもありがたいと思ってる。でも、それでリンカが手を汚すような事はして欲しくないんだ……」
――綺麗ごとですね、それで国は平和に回るでしょうか?
「はい、勿論です。ルイ殿下が望まないことはしませんよ」
これは嘘。私はいざとなったら、どんな汚いことでも平気でしてしまえる人間でしょう。今でも、念のためにアシュレイ殿下に被せる罪の候補を幾つか模索しておこうと考えてしまっている。
「良かった……ありがとう、リンカ」
心優しいルイ殿下。私がお仕えするに相応しい方だと、心から思う。だからこそ、私はルイ殿下こそを王太子とし、次の国王陛下にしてみせる。誰にも邪魔はさせない。
その為なら――
「ルイ殿下、多少の汚い事には目を瞑って頂けますか?」
「……程々にしてね」
程々……どの程度なら許されるのでしょうか?無実の罪を捏造して死刑にまで持っていくのは、程々には分類されないということですよね?
さて……処刑――アシュレイ殿下を退場出来ないなら、まだあの馬鹿王子達の相手をしなくちゃいけませんね……。
図々しくも自分こそが王太子に相応しいと勘違いしまくっているアシュレイ殿下が、この程度で大人しくなるはずがない。王太子である俺を部屋に閉じ込めるなんて、お前等全員クビにしてやる!と喚き騒ぐ姿が目に浮かぶようです。
早くお前はもう王太子じゃないんだよって発表の場を設けなくては。てか、誰も口頭でアシュレイ殿下に伝えていないのかしら?王太子ではなくなりますよーって。私は一々報告する義務が無いので伝えていませんが……どうせ私が伝えた所で信じないでしょうし、国民に伝わるのが最重要で、アシュレイ殿下なんてどうでもいいし。
騒ぎ立てて癇癪を起こされるの嫌で誰も伝えていないか、伝えても信じていないかの二択だな……。
まぁどちらでもいいです。どちらにせよ、私はあんな馬鹿で愚かなアシュレイ殿下を王太子になんかさせません。
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