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8話 今日の議題は王太子の剥奪

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 王城、会議室――。

 グレゴリー国の重役達が一堂に集まる会議室。
 お集りの皆様も何となくは、本日、どんな議題が上がるのかを理解されているようで、人によっては喜ばしそうに、人によっては険しい表情を浮かべていた。

 まぁ、険しい表情を浮かべているのは王妃様よりの重役ばかりだけど。

 大半が喜ばしい表情を浮かばれている中で、険しい表情を浮かべているのは、大局を見極めず、愚かにも王妃様側に付き、アシュレイ殿下の王太子を推していた者達。あの馬鹿王子のどこをどう見て判断して、王太子の座に相応しいと思ったのか、時間があったら聞いてみたいわ、一ミリも興味ないけど。

「皆様ご存知のことと思いますが、私、リンカ=ガルドルシアは先日、アシュレイ殿下と離婚致しました。それも、彼の不貞が原因によるものです」

 私は丁寧に用意した不貞の証拠をまとめた資料を、皆様にお配りした。
 こんな物用意しなくても、ここに集まる重役の皆様は、アシュレイ殿下が浮気相手を王城に連れ込んでいると知っているのですが、念には念を入れて、作成しました。こんな事してるから、睡眠時間が削られるのでしょうね。

「王太子として相応しくない行為です。よって、彼の王太子の座を剥奪することを提案致します」

 提案と言っても、これは形だけ皆様にお伺いしているに過ぎない。本当は陛下との間で、アシュレイ殿下の王太子剥奪は決まっている。

「待って下さい!そんな……いきなり王太子の座を剥奪するなんて……国民にもアシュレイ殿下が王太子になったと発表した後ですし、もう少しチャンスをお与えになっても良いと思うのですが……」

 王妃様側の人間が、諦め悪く食らいついてくるけど、自分だって本当は分が悪い事に気付いているでしょう?私と離婚した時点で、あいつが王太子になれないのは確定してるの。何故なら、あいつが王太子になれたのは私のおかげだったから。私という後ろ盾のおかげだったの。それ以外にあいつに何の価値があった?今日だって想像通り、大切な会議にも出席しないような奴よ?自分の王太子の座が懸かっているとも知らずに、今日もまた浮気相手といちゃついてるのよ?
 馬鹿で愚かで仕方ない。まぁでも、そんな諦めの悪い人間には、もう一つ真実を教えてあげますね。

「浮気相手の名前はクイナ嬢と言いますが、彼女は妊娠しています」
「ええ!?」

 妊娠初期なだけあって、彼女の妊娠にはまだ気付いていない者が多い。
 それは私がとーーーーーっても根回しして、外に情報が漏れないようにしているというのもあるけど。

「王家の人間が婚姻を結んでいない女性と軽々しく外で子供を作ることがどれだけ愚かか……流石にお分かりでしょう?」

 不貞行為だけでも大スキャンダルなのに、子供の存在はもっと駄目、トップシークレット。
 王城の関係者以外、アシュレイ殿下の不貞は内密に、離婚の原因は夫婦のすれ違いによる円満離婚にしているし、子供の存在に関しては、その中でも限られた者しか知らない。
 まぁ?アシュレイ殿下の女癖の悪さは有名なので、皆様、薄々お気付きになられている方もいるとは思いますが、王家を気にして、表面上の離婚理由を受け入れている。裏で噂好きの貴族夫人達に色々言われてるとは思いますが、噂は噂。表立たなきゃ良しとします!
 子供の存在は、アシュレイ殿下が唯一言うことを聞く第一王妃様が誰にも漏らすなと伝えているから、あの馬鹿王子でも一応は、守っているようだ。最も、本人はそれを都合良く捉えて、子供が産まれてからのサプライズ発表にするんだな!なんて能天気な事を考えているようですけど。

「……子供……」

 ほら、黙るしかないでしょう?
 グレゴリー国の長い歴史の中で、愚王が他所で作った王族の血を引く子供が利用され、いざこざが起きたことがあった。この一連のいざこざは国民にも知れ渡ることになり、王家に対して強い反感をもたらした。
 それもあって、こんな大スキャンダルが国民に発覚したら、王家の信用問題に関わる!
 王族は産まれた時から婚姻していない女性と子供を作ることは絶対にしてはならないと教え込まれているのに、あの馬鹿な王子は……本当に去勢してやるべきでした。

 正直、アシュレイ殿下がどうなろうと知ったこっちゃないけど、この事実が国民にバレて、王家の反感を買うのは避けたい!この国の宰相として!

「子供が産まれたら、その子は王家の方で引き取り、然るべき場所で保護します」

 いつどこで利用されるか分からない子供の為にも、こちらで保護するのが最善だと思う。
 ただし――母親は必要は無い。

「クイナ嬢は子供が産まれ次第、国外へ追放します」

 子供さえいなくなれば、彼女を王城に閉じ込めておく理由は無い。余計なことをペラペラ話されてれても迷惑なので、国外追放が妥当でしょう。

「国外追放ですか……!?」

「極刑をお望みですか?投獄をお望みですか?」

 私も少し考えはしたのですが、そこまでは……と陛下とルイ殿下に説得されて、国外追放で手を打った。平和な世の中になったものです。愚王時代の母親は、有無を言わさず毒杯を飲まされたというのに。

「いえ……国外追放で良いと思います」

「そうですか、ではそのようにしましょう」

 他の重役達からも異論が無いようなので、話を進める。

「アシュレイ殿下の王太子剥奪に反対される方はもういませんね?では……アシュレイ殿下の王太子剥奪を可決します。正式に発表する場は、また後日取り決めることに致しましょう」

 元より、アシュレイ殿下が王太子になることに反対していた者達が多数いたこともあって、その場には自然と拍手が巻き起こった。
 ここまでは想定通り、問題はここから――。
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