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6話 優秀な王子様と深夜の食事会

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 ***


 王城内のダイニングルーム。
 深夜の時間だが、数人の料理人とルイ殿下の侍従が簡単な料理を運ぶ。予め帰りが遅くなると、深夜でも重くならないスープなどを頼んでおいたのだろう。私もちゃんと自分の体の事を考えられるように見習わなくちゃ……。

「ご苦労様、深夜までごめんね。用意しておいてくれれば、帰っても良かったのに」

「いいえ!ルイ殿下が遅くまで頑張っておられるのですから、我々も少しでも出来たてを美味しく召し上がって頂きたいのです!」

 料理人の強い気迫を感じる……。
 ここでも、アシュレイ殿下とルイ殿下には雲泥の差がある。横暴で我儘なアシュレイ殿下は王城の使用人にとても嫌われているが、心優しく物腰の柔らかいルイ殿下はとても慕われている。

「リンカ様も夜遅くまでご苦労様です」

「ごめんなさいね、私の分まで用意して頂いて」

「お気になさらないで下さい!リンカ様にもいつもお世話になっているのですから、美味しい物を食べて、元気でいて頂かなくては!」

 王城の料理人の皆様は親切で、私が食事を忘れていることが多々あると知っているから、いつも決まった場所に夜食用のパンを用意してくれている。有り難いお話です……あの馬鹿王――アシュレイ殿下の所為で大分時間を食ってしまいましたが、これで、今からの仕事も頑張れます!

「今日は徹夜ですか?何かお手伝い出来ることがあれば遠慮せずに言って下さい」

「明日は昼まで休むつもりでいるので問題ありません。それよりも、ルイ殿下こそ大丈夫ですか?最近働き過ぎだと、侍従達から心配されていましたよ」

「あはは。そんなことないよ」

 これは嘘。
 浮気相手のクイナ嬢に入れ込んでいるアシュレイ殿下は、以前にも増して、公務も勉学もしなくなった。全てをほっぽり出して、浮気女との甘ーい時間を満喫している。そのツケは、同じ王子であるルイ殿下が全て引き受けている。

「……今後、陛下と相談してアシュレイ殿下には公務を割り振らないことにしました。ですので、ルイ殿下にしわ寄せがいくことは減ると思います」

 元より少ない公務を割り振っていたが、それすらしないのなら、もういっそのこと、全て取り上げてしまおうと陛下と相談し決めた。
 働かない、遊びまわるだけの王太子なんて、いらない――そう突きつけたも同義なのに、アシュレイ殿下は何も気にしておらず、寧ろ、『これでもっと自由に遊べる!クイナとの時間も気にせず取れるな!』と、喜んでいたと報告を受けた時には、陛下と二人で頭を抱えた。
 何なのあの人は。国王になったら仕事もせず、ただ遊んで暮らせるとでも思っているのでしょうか?自分は指示だけ出して、後は臣下にさせる。みたいな思惑ですか?ふざけんなよコラ。

「……僕のことまで気遣ってくれてありがとうございます、リンカ。本当に……なんでこんな素敵な人を、兄様は自ら手放したんだろうね。理解に苦しみます」

「恐れ入ります、私には勿体無いほどの評価です」

 ルイ殿下のような人にそうやって褒められたら、素直に嬉しい。本当に……ルイ殿下が真っ当な人で良かった……!

「私は、ルイ殿下こそが王太子に相応しいと思っています」

 将来国王陛下になられる方は、私が宰相として支えていくことになるお方。ルイ殿下なら……一緒にこの国を支えて行こうと思える。私は、ルイ殿下を選ぶ。その為なら――邪魔な第一王妃を退ける手段の一つとして、望まない結婚だってしてみせる。

「……こちらこそ、我が国自慢の宰相であるリンカにそんな高評価を頂けるなんて、身に余る光栄です」

 本当に嬉しそうに笑ってくれるから、こちらまで嬉しくなる。
 あんな馬鹿王子と比べたくないけど、アシュレイ殿下は私が何を言っても、『五月蠅い、黙れ!俺に指図すな!お前に評価される筋合いはねぇ!』なんて言って聞く耳持ちませんでしたからね。
 私は一応、教育係も務めていたんですけどね。私に敵意剥き出しで完全に無駄でしたけど。
 そもそも、アシュレイ殿下は最初から生真面目で堅苦しい私との結婚に納得されていなかった。ただ、第一王妃様がそう言うから、仕方なく私と結婚した。そんな感情を隠しもせずに態度に出す。王族に産まれた以上政略結婚なんて珍しくも無いんだから、愛せとまでは言わないけど、相手と上手く付き合っていく努力はすべきなのに、全くしない。
 この調子では、役に立たないクセに政略結婚の道具としても使い道が無い。はぁ……どうすればいいんだか。

「そう言えば、クイナ嬢は大人しくしてる?」

「体調が優れないみたいで、今は大人しくされていますよ」

 クイナ嬢には、王家から監視がついた。
 クイナ嬢が今も王城にいることが出来るのは、許されたからじゃない、王家の血を引く子供を宿してしまったから、逃がすことが出来なくなっただけだ。
 血の繋がり、世襲を大切にする王家の血を引く子供……このまま野放しには出来ないし、世に発覚すれば大々的なスキャンダルになるのは間違いない!《グレゴリー国第一王子、アシュレイ王太子殿下!不倫の末に子供が出来る!》なんて、止めてよね!誰が火消しすると思ってるのよ!
 彼女には無事に出産が終わるまで、雲隠れされては困る。
 まぁ、自分は王妃に迎え入れられると信じて疑っていないようだから、今の所逃げる選択肢はなさそうですけど。
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