6 / 40
6話 優秀な王子様と深夜の食事会
しおりを挟む***
王城内のダイニングルーム。
深夜の時間だが、数人の料理人とルイ殿下の侍従が簡単な料理を運ぶ。予め帰りが遅くなると、深夜でも重くならないスープなどを頼んでおいたのだろう。私もちゃんと自分の体の事を考えられるように見習わなくちゃ……。
「ご苦労様、深夜までごめんね。用意しておいてくれれば、帰っても良かったのに」
「いいえ!ルイ殿下が遅くまで頑張っておられるのですから、我々も少しでも出来たてを美味しく召し上がって頂きたいのです!」
料理人の強い気迫を感じる……。
ここでも、アシュレイ殿下とルイ殿下には雲泥の差がある。横暴で我儘なアシュレイ殿下は王城の使用人にとても嫌われているが、心優しく物腰の柔らかいルイ殿下はとても慕われている。
「リンカ様も夜遅くまでご苦労様です」
「ごめんなさいね、私の分まで用意して頂いて」
「お気になさらないで下さい!リンカ様にもいつもお世話になっているのですから、美味しい物を食べて、元気でいて頂かなくては!」
王城の料理人の皆様は親切で、私が食事を忘れていることが多々あると知っているから、いつも決まった場所に夜食用のパンを用意してくれている。有り難いお話です……あの馬鹿王――アシュレイ殿下の所為で大分時間を食ってしまいましたが、これで、今からの仕事も頑張れます!
「今日は徹夜ですか?何かお手伝い出来ることがあれば遠慮せずに言って下さい」
「明日は昼まで休むつもりでいるので問題ありません。それよりも、ルイ殿下こそ大丈夫ですか?最近働き過ぎだと、侍従達から心配されていましたよ」
「あはは。そんなことないよ」
これは嘘。
浮気相手のクイナ嬢に入れ込んでいるアシュレイ殿下は、以前にも増して、公務も勉学もしなくなった。全てをほっぽり出して、浮気女との甘ーい時間を満喫している。そのツケは、同じ王子であるルイ殿下が全て引き受けている。
「……今後、陛下と相談してアシュレイ殿下には公務を割り振らないことにしました。ですので、ルイ殿下にしわ寄せがいくことは減ると思います」
元より少ない公務を割り振っていたが、それすらしないのなら、もういっそのこと、全て取り上げてしまおうと陛下と相談し決めた。
働かない、遊びまわるだけの王太子なんて、いらない――そう突きつけたも同義なのに、アシュレイ殿下は何も気にしておらず、寧ろ、『これでもっと自由に遊べる!クイナとの時間も気にせず取れるな!』と、喜んでいたと報告を受けた時には、陛下と二人で頭を抱えた。
何なのあの人は。国王になったら仕事もせず、ただ遊んで暮らせるとでも思っているのでしょうか?自分は指示だけ出して、後は臣下にさせる。みたいな思惑ですか?ふざけんなよコラ。
「……僕のことまで気遣ってくれてありがとうございます、リンカ。本当に……なんでこんな素敵な人を、兄様は自ら手放したんだろうね。理解に苦しみます」
「恐れ入ります、私には勿体無いほどの評価です」
ルイ殿下のような人にそうやって褒められたら、素直に嬉しい。本当に……ルイ殿下が真っ当な人で良かった……!
「私は、ルイ殿下こそが王太子に相応しいと思っています」
将来国王陛下になられる方は、私が宰相として支えていくことになるお方。ルイ殿下なら……一緒にこの国を支えて行こうと思える。私は、ルイ殿下を選ぶ。その為なら――邪魔な第一王妃を退ける手段の一つとして、望まない結婚だってしてみせる。
「……こちらこそ、我が国自慢の宰相であるリンカにそんな高評価を頂けるなんて、身に余る光栄です」
本当に嬉しそうに笑ってくれるから、こちらまで嬉しくなる。
あんな馬鹿王子と比べたくないけど、アシュレイ殿下は私が何を言っても、『五月蠅い、黙れ!俺に指図すな!お前に評価される筋合いはねぇ!』なんて言って聞く耳持ちませんでしたからね。
私は一応、教育係も務めていたんですけどね。私に敵意剥き出しで完全に無駄でしたけど。
そもそも、アシュレイ殿下は最初から生真面目で堅苦しい私との結婚に納得されていなかった。ただ、第一王妃様がそう言うから、仕方なく私と結婚した。そんな感情を隠しもせずに態度に出す。王族に産まれた以上政略結婚なんて珍しくも無いんだから、愛せとまでは言わないけど、相手と上手く付き合っていく努力はすべきなのに、全くしない。
この調子では、役に立たないクセに政略結婚の道具としても使い道が無い。はぁ……どうすればいいんだか。
「そう言えば、クイナ嬢は大人しくしてる?」
「体調が優れないみたいで、今は大人しくされていますよ」
クイナ嬢には、王家から監視がついた。
クイナ嬢が今も王城にいることが出来るのは、許されたからじゃない、王家の血を引く子供を宿してしまったから、逃がすことが出来なくなっただけだ。
血の繋がり、世襲を大切にする王家の血を引く子供……このまま野放しには出来ないし、世に発覚すれば大々的なスキャンダルになるのは間違いない!《グレゴリー国第一王子、アシュレイ王太子殿下!不倫の末に子供が出来る!》なんて、止めてよね!誰が火消しすると思ってるのよ!
彼女には無事に出産が終わるまで、雲隠れされては困る。
まぁ、自分は王妃に迎え入れられると信じて疑っていないようだから、今の所逃げる選択肢はなさそうですけど。
1,605
お気に入りに追加
3,432
あなたにおすすめの小説
貴方の愛人を屋敷に連れて来られても困ります。それより大事なお話がありますわ。
もふっとしたクリームパン
恋愛
「早速だけど、カレンに子供が出来たんだ」
隣に居る座ったままの栗色の髪と青い眼の女性を示し、ジャンは笑顔で勝手に話しだす。
「離れには子供部屋がないから、こっちの屋敷に移りたいんだ。部屋はたくさん空いてるんだろ? どうせだから、僕もカレンもこれからこの屋敷で暮らすよ」
三年間通った学園を無事に卒業して、辺境に帰ってきたディアナ・モンド。モンド辺境伯の娘である彼女の元に辺境伯の敷地内にある離れに住んでいたジャン・ボクスがやって来る。
ドレスは淑女の鎧、扇子は盾、言葉を剣にして。正々堂々と迎え入れて差し上げましょう。
妊娠した愛人を連れて私に会いに来た、無法者をね。
本編九話+オマケで完結します。*2021/06/30一部内容変更あり。カクヨム様でも投稿しています。
随時、誤字修正と読みやすさを求めて試行錯誤してますので行間など変更する場合があります。
拙い作品ですが、どうぞよろしくお願いします。
俺はお前ではなく、彼女を一生涯愛し護り続けると決めたんだ! そう仰られた元婚約者様へ。貴方が愛する人が、夜会で大問題を起こしたようですよ?
柚木ゆず
恋愛
※9月20日、本編完結いたしました。明日21日より番外編として、ジェラール親子とマリエット親子の、最後のざまぁに関するお話を投稿させていただきます。
お前の家ティレア家は、財の力で爵位を得た新興貴族だ! そんな歴史も品もない家に生まれた女が、名家に生まれた俺に相応しいはずがない! 俺はどうして気付かなかったんだ――。
婚約中に心変わりをされたクレランズ伯爵家のジェラール様は、沢山の暴言を口にしたあと、一方的に婚約の解消を宣言しました。
そうしてジェラール様はわたしのもとを去り、曰く『お前と違って貴族然とした女性』であり『気品溢れる女性』な方と新たに婚約を結ばれたのですが――
ジェラール様。貴方の婚約者であるマリエット様が、侯爵家主催の夜会で大問題を起こしてしまったみたいですよ?
[完結]婚約破棄してください。そして私にもう関わらないで
みちこ
恋愛
妹ばかり溺愛する両親、妹は思い通りにならないと泣いて私の事を責める
婚約者も妹の味方、そんな私の味方になってくれる人はお兄様と伯父さんと伯母さんとお祖父様とお祖母様
私を愛してくれる人の為にももう自由になります
【完結】子供が出来たから出て行けと言われましたが出ていくのは貴方の方です。
珊瑚
恋愛
夫であるクリス・バートリー伯爵から突如、浮気相手に子供が出来たから離婚すると言われたシェイラ。一週間の猶予の後に追い出されることになったのだが……
【完結】もう辛い片想いは卒業して結婚相手を探そうと思います
ユユ
恋愛
大家族で大富豪の伯爵家に産まれた令嬢には
好きな人がいた。
彼からすれば誰にでも向ける微笑みだったが
令嬢はそれで恋に落ちてしまった。
だけど彼は私を利用するだけで
振り向いてはくれない。
ある日、薬の過剰摂取をして
彼から離れようとした令嬢の話。
* 完結保証付き
* 3万文字未満
* 暇つぶしにご利用下さい
婚約者様。現在社交界で広まっている噂について、大事なお話があります
柚木ゆず
恋愛
婚約者様へ。
昨夜参加したリーベニア侯爵家主催の夜会で、私に関するとある噂が広まりつつあると知りました。
そちらについて、とても大事なお話がありますので――。これから伺いますね?
原因不明の病気で苦しむ婚約者を5年間必死に看病していたら、治った途端に捨てられてしまいました
柚木ゆず
恋愛
7月4日本編完結いたしました。後日、番外編の投稿を行わせていただく予定となっております。
突然、顔中にコブができてしまう――。そんな原因不明の異変に襲われた伯爵令息フロリアンは、婚約者マノンの懸命な治療と献身的な看病によって5年後快復しました。
ですがその直後に彼は侯爵令嬢であるエリア―ヌに気に入られ、あっさりとエリア―ヌと交際をすると決めてしまいます。
エリア―ヌはマノンよりも高い地位を持っていること。
長期間の懸命な看病によってマノンはやつれ、かつての美しさを失っていたこと。今はエリア―ヌの方が遥かに綺麗で、おまけに若いこと。
そんな理由でフロリアンは恩人を裏切り、更にはいくつもの暴言を吐いてマノンのもとを去ってしまったのでした。
そのためマノンは傷つき寝込んでしまい、反対にフロリアンは笑顔溢れる幸せな毎日が始まりました。
ですが――。
やがてそんな二人の日常は、それぞれ一変することとなるのでした――。
わたしのことはお気になさらず、どうぞ、元の恋人とよりを戻してください。
ふまさ
恋愛
「あたし、気付いたの。やっぱりリッキーしかいないって。リッキーだけを愛しているって」
人気のない校舎裏。熱っぽい双眸で訴えかけたのは、子爵令嬢のパティだ。正面には、伯爵令息のリッキーがいる。
「学園に通いはじめてすぐに他の令息に熱をあげて、ぼくを捨てたのは、きみじゃないか」
「捨てたなんて……だって、子爵令嬢のあたしが、侯爵令息様に逆らえるはずないじゃない……だから、あたし」
一歩近付くパティに、リッキーが一歩、後退る。明らかな動揺が見えた。
「そ、そんな顔しても無駄だよ。きみから侯爵令息に言い寄っていたことも、その侯爵令息に最近婚約者ができたことも、ぼくだってちゃんと知ってるんだからな。あてがはずれて、仕方なくぼくのところに戻って来たんだろ?!」
「……そんな、ひどい」
しくしくと、パティは泣き出した。リッキーが、うっと怯む。
「ど、どちらにせよ、もう遅いよ。ぼくには婚約者がいる。きみだって知ってるだろ?」
「あたしが好きなら、そんなもの、解消すればいいじゃない!」
パティが叫ぶ。無茶苦茶だわ、と胸中で呟いたのは、二人からは死角になるところで聞き耳を立てていた伯爵令嬢のシャノン──リッキーの婚約者だった。
昔からパティが大好きだったリッキーもさすがに呆れているのでは、と考えていたシャノンだったが──。
「……そんなにぼくのこと、好きなの?」
予想もしないリッキーの質問に、シャノンは目を丸くした。対してパティは、目を輝かせた。
「好き! 大好き!」
リッキーは「そ、そっか……」と、満更でもない様子だ。それは、パティも感じたのだろう。
「リッキー。ねえ、どうなの? 返事は?」
パティが詰め寄る。悩んだすえのリッキーの答えは、
「……少し、考える時間がほしい」
だった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる