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5話 優秀な王子様

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「――――はい、そこまでにしましょうか兄様、リンカ」

「ルイ!」

「ルイ殿下……」

 やば……深夜にも関わらず、少し騒がしくし過ぎましたね。主に五月蠅く騒いでいたのはアシュレイ殿下の方ですけど。

 白熱する私とアシュレイ殿下の口喧嘩を仲裁に入ったのは、アシュレイ殿下の弟君である、グレゴリー国第二王子ルイ殿下。
 兄とは違い、素晴らしく成長されたルイ殿下は、今、公務を終わらせて帰ってこられたところかしら。流石はルイ殿下、遊び歩いているアシュレイ殿下とは違って、こんな夜遅くまで真面目に公務をこなされているなんて、素晴らしいです……!まぁ、これが普通なんですけどね。
 笑顔を携え、私達の傍にまで来ると、ルイ殿下は私に向き直した。

「大丈夫リンカ?兄様がまた無礼な真似をしちゃってる……よね、ごめんね」

 よくお分かりで。流石は兄と違って優秀な弟は違いますね。兄がどれほど愚かで馬鹿なのかを、ちゃんと理解して、この騒ぎの原因を聞くまでもなく理解している。

「ルイ!偉大なる兄に向かって何て言い草だ!」

 おいおい、誰が偉大だよ。笑わせんなよ。

「兄様……陛下にあれだけ注意されたにも関わらず、またリンカにちょっかいをかけているんですね。リンカはこの国にとって必要不可欠だから、これ以上怒らせるなと言われたでしょう」

「あんなもの!ただの建前に過ぎない!父様は俺が本当に国王に相応しいか試しておられるんだ!何故俺達王族がたかがいち貴族相手の顔色をうかがわないといけない!それでも誇り高きグレゴリー国の王族か!だからお前は駄目なんだ!」

 ……こいつ、もう駄目だな。
 陛下も頑張って何とかアシュレイ殿下を更生させようと努力していましたけど、もう手遅れだと思います。陛下のお言葉を何も理解されていません。

「お願いですから、反乱だけは止めて下さいねリンカ。陛下が聞いたら卒倒しますよ」

「あら、聞こえちゃっていました?大丈夫ですよ、本心ではありません」

 今はまだ。アシュレイ殿下が即位されない限りは大丈夫です。間違って即位されるような事があれば……どうなるかは分かりませんが。

「おい!俺様を無視すんな!聞いてんのか!」

「夕食を食べ損ねてしまって、お腹が空いてしまったんです。何か食べる物があったら頂こうかと思って、執務室を出て来たのですが、そこを馬鹿王――アシュレイ殿下に絡まれてしまいまして……」
「それでしたら、僕のために料理人が用意してくれている食事があるので、一緒に頂きましょう」
「いいのですか?」
「ええ、大目に用意してくれていると思うので、是非」

「おい!ふざけてんじゃねーぞ!」

 これ以上馬鹿の相手はしたくない、その一心でアシュレイ殿下をガン無視する。
 私だけじゃなくルイ殿下も無視されているけど、これ以上、余計な言動で私の怒りを買いたくないから、一刻も早く私を兄から引き離したいのでしょうね。

「さぁ、行きましょうか」

「俺をないがしろにしていいと思ってんのか!?俺は将来、国王になる人間だぞ!いいのか!?俺が国王になったら、お前等二人共ここから追い出すなんて容易に出来るんだぞ!」

 本当にお前が国王になったら、ガルドルシア公爵家が総力を上げて反乱してやるよ。

「兄様……本当にいい加減にしましょうか。今日もまた、王族としての勉強や公務をサボって、あの女性と遊んでいましたよね?クイナと言いましたっけ?確かロスナイ子爵令嬢でしたね。これ以上、王家の名を汚すことがあれば、兄様でもただではすみませんよ」

「なっ!クイナを馬鹿にするな!クイナは俺様の子供を宿した、将来の王妃だぞ!」

 クイナ嬢を馬鹿にしているんじゃないんですよ。いや、クイナ嬢も愚かだとは思いますが、一番の問題は貴方なんです。

「……アシュレイ殿下」

「何だ!」

 馬鹿の相手なんてしたくないのに、つい鬱陶し過ぎるから口を開いてしまいます。だからさっきみたいに口論になるんでしょうね。

「クイナ嬢が王妃だなんて、そんな妄言、吐かない方がよろしいですよ?王妃としての教養も何もないただの子爵令嬢が調子に乗って王妃を夢見るなんて、恥ずかしいったらありません」

 私も王太子妃として何かしら教養は受けましたが、結構大変でしたよ。まぁ、私はガルドルシア公爵令嬢としてある程度英才教育を叩き込まれてきましたし、元から優秀なので何とかなりましたけど。

「っ!俺様の妻になるのだから、クイナが王妃になるのは決定事項だ!」

「そんな不貞女が王妃になる国、私は支えたいとは思いません」

「は……あ!?貴様……!なら出て行け!さっさとこの国から出て行け!貴様などいらん!目の前から消え失せろ!」

「誰がお前の命令なんて聞くか。追い出せるものなら追い出してみろ」

「なっ!お前っ!」

 ――馬鹿な王子様。
 お前の言うことなんて、私が聞くワケないじゃない。私は陛下から直接宰相に任命された由緒正しきガルドルシア公爵令嬢ですよ?陛下ですら、私には頭が上がらない立場にいるのに。

「兄様……」

 隣には、アシュレイ殿下の発言に頭を抱えるルイ殿下のお姿。こんな自分の立場を何も理解していない馬鹿が自分の兄だなんて、嫌ですよねー同情しちゃいます。

「仕事もまだ残っているので、これで本当に失礼しますね」

「あ、おい!さっさと王城から出て行けよ!いつまでも未練がましくしがみついてんじゃねーぞ!」

「……兄が本当に申し訳ありませんリンカ。お恥ずかしい限りです……!本当に……!」

「いいえ、ルイ殿下が謝ることではありません」

 駄目駄目なのはあの馬鹿王子ですから。
 本当、どうしてこんなに馬鹿な子に育ってしまったのかしら?残念で仕方ありません。ルイ殿下が誠実でマトモなのが救いです。もしこれでルイ殿下まで馬鹿だったらと考えると、この国の未来を嘆いて背筋が凍りますね。

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