私と離婚して、貴方が王太子のままでいれるとでも?

光子

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3話 ガルドルシア公爵家

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 普通、結婚すれば夫になる方と一緒に暮らすことになると思うが、私はアシュレイ殿下と結婚してからも、生家であるガルドルシア公爵家から王城に通っていた。
 王城に夫婦の部屋は用意されたが、アシュレイ殿下は結婚初夜から私を部屋に入れようとせず、そこら辺の廊下にでも寝とけ!と言い放った。
 それなら家に帰ろう。と、有り難く受け取った。

「ただ今戻りました」

「お帰りなさいリンカ」

 いつも優しい笑顔で私を迎えてくれるお母様。
 当初、私が王城に住まず、こちらに帰ってくることを心配していたが、仕事の一環ですと説明したら、意味は分からずとも納得して下さった。日頃から私が仕事人間だと思われている所以でしょうね。
 私にとってアシュレイ殿下との結婚は、仕事の延長に近い感覚だった。

「遅かったな。陛下の調子でも悪かったか?」

 私よりも帰りが遅いことがあるお父様も、今日は早く家に帰れたようで、玄関で私を出迎えて下さった。

「はい、私がアシュレイ殿下から浮気相手を紹介され、離婚を突き付けられたと報告したら、途端に顔色が悪くなり、作業効率が下がりました」

 仕事がひと段落ついた後で言うべきだったと後悔した。今日の反省点はそこね。

「そうか。アシュレイ殿下が浮気相手を――何だと?」

「浮気相手が妊娠したので、私はもう用なしだから出て行けと言われました」

 淡々と今日あった出来事を報告する。
 お父様とは宰相の引継ぎのさいや見習いの時に仕事で関わっていたことが多かったから、未だに仕事感覚で報告してしまうクセがある。家族なんだから、もっとフランクに話してもいいんだぞ、と、この前お父様に寂しそうに言われましたっけ。

「子供……孕んだ?浮気相手?出て行け?離婚?」

 お母様は片言で私が報告した内容を復唱される。まるで壊れた玩具みたい……どうされたのかしら?

「あ――のクソ王太子殿下!私達の大切な娘になんてことをしてくれたんだ!」

 お父様?

「許さないわ!今すぐ王家の援助を全て打ち切って、ガルドルシア公爵家を敵に回した恐ろしさをその身に知らしめて差しあげます!」

 いつも温厚なお母様まで!?

「待って下さい!私は大丈夫です!アシュレイ殿下はどうなっても構いませんが、グレゴリー国に被害が出るのは駄目です!」

 その被害を収拾するのは誰だと思ってます?陛下も頑張らせますが、間違いなくこの国の宰相である私ですよ!

「しかしだな!あんな馬鹿なあんぽんたんに私達の大切な娘をコケにされて黙っていられるか!?」

「だから私は反対したのよ!あんなあんぽんたんな王子にリンカをお嫁に出すのは嫌だって……!」

 馬鹿なあんぽんたんであることには激しく同意しますが、お願いなので少し落ち着いて欲しい!私はこの状況に歓喜しているんです!喜んでいるんです!本当はアシュレイ殿下の馬鹿さ加減を矯正出来たらと思っていましたが、結構早い段階で無理だと判断したので、離婚を突きつけられるのを今か今かと楽しみにしていたんです。
 まさか浮気相手を夫婦の部屋に連れ込んで、『子供が出来たから用なしだ!離婚する!』とまで言い渡されるとまでは思っていませんでしたが、予想を遥かに超える馬鹿さ加減に、いっそ清々しくて気持ち良いとすら思いました。再三言いますが、私は全く傷付いていないんです。思惑通り以上の展開に、浮気相手の女性にお礼をお伝えしたいくらいなんです!


「――そうか、王太子の座は剥奪されるのだな」

「はい、お父様。陛下も心より謝罪して下さいました」

 なんとか両親を落ち着かせ、事の顛末をお伝えする。

「ほんと……アシュレイ殿下にも呆れるけど、アシュレイ殿下を甘やかしてばかりの王妃様にもほとほと愛想が尽きるわ……!昔はあそこまで酷い性格じゃなかったのに……」

 お母様は王妃主催のお茶会にも何度か参加されて、顔見知りですものね。昔はよくお喋りしていらしたのに、最近は必要最低限しか話さなくなったと聞きます。

「子供が出来て、様子がおかしくなったんだろう。第二王妃の存在もあるしな……」

 当初、陛下の結婚相手はこの第二王妃だけだったが、第二王妃に中々子供が出来ず、跡継ぎを作るためにと、他貴族からの要望も有り、第一王妃を迎え入れた。第二王妃の方が先に結婚していたが、身分差を考慮し、第一王妃が正妻の形をとることになり、王妃の順位も入れ替わった。

「自分の子供に後を継がせたいのだろう。第二王妃の息子であるルイ殿下は、アシュレイ殿下とは比べ物にならないくらい優秀だと聞くしな」

 中々子供に恵まれなかった第二王妃は、第一王妃が子供を産んだ二年後に妊娠した。
 その頃から、第二王妃は様子がおかしくなり始め、ルイ殿下が優秀だと評価されるほど、狂っていった。

「アシュレイ殿下を国王にしたいからって、リンカと結婚させるなんて、ふざけてるわよ!そりゃ、私達の娘は優秀だし可愛いし素敵で度胸もあるから王妃に誰よりも相応しいとは思うけど!」

 お母様、それは言いすぎだと思います。いわゆる親馬鹿というやつでは?

「どちらにせよ、宰相の仕事は少し休んだらどうだ?今はそのクイナという浮気女を王城に置いているんだろう?」

「いえ、大丈夫ですよ。明日も王城へ行きます」

「大丈夫なのか?」

「はい、あんな人達のために私が宰相の仕事を休むことは、グレゴリー国の損失です、無駄です」

 どうして私があんな馬鹿な人達の顔色をうかがって仕事を休まないといけないの?私が仕事を休むことが、どれ程国の損失になると思う?アシュレイ殿下みたいな、何もしない、出来ない、馬鹿な王子様とは私は違うのよ。
 アシュレイ殿下が王太子になれたのは、私という、(自分で言うのもなんですが)後ろ盾も強い優秀な妻を手に入れたからだと、周りから見ても一目瞭然だった。なのに、あの馬鹿王子……アシュレイ殿下は、自ら私を手放した、捨てたのだ。本当に惨めに捨てられるべきなのはお前のクセに、捨てられて途方に暮れるのはお前のクセに。あーおかし。

 色恋に狂って自ら王太子の座を捨てた王子様、どうぞその身に不幸が降り積もるその日まで、儚い幸せを噛み締めていて下さいね。

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