聖女は妹ではありません。本物の聖女は、私の方です

光子

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59話 《完》聖女

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「ユウナ」

「レイン様」

 日が経過し、私達はいつもの日常に戻った。

 エミルの事件は、聖女を殺害しようとした重罪としてファイナブル帝国中に知れ渡り、エミルには重い罰が望まれた。
 レイン様から事件の説明をされた陛下も激高し、予想通り、エミルには重い罰が与えられた。

「ユウナ、ダンスが上手くなったな」

「特訓に付き合って頂きありがとうございます、レイン様」

 いつも通り、聖女として土地を癒す活動の合間、アイナクラ公爵邸でのんびりと過ごす時間。
 ダンスの特訓をしている私に付き合ってくれたレイン様と、アイナクラ公爵邸にある舞踏室で二人っきりでダンスを踊る。

「正式に婚約者になったし、そろそろレインと呼んで欲しいんだけどな」

「あ……ごめんなさい……レイン」

「うん、いいね」

 まだ慣れないし恥ずかしいけど、レインが嬉しそうだから、それなら頑張らなきゃ、なんて思ってしまうのは、私がレイン様を好きだからでしょうか。
 誰かのために何かをしてあげたい、そんな気持ちを普通に持てることが、嬉しい。

「……ユウナは、本当に大丈夫か?」

「何がですか?」

「いや、エミル嬢もそうだが、コトコリス男爵夫妻のことも……」

「全然大丈夫ですよ、自業自得です」

 実はあれから、お父様とお母様にも、一波乱あった。
 私の名前を利用し、聖女の両親だと周りに言いふらし、以前のような傲慢な態度を取り始めた。
 私は不在だったけど、帝都まで足を運んでは、『聖女の父親はワシだ! 聖女の力が欲しくば、ワシの爵位を上げろ! コトコリス男爵家に多額の援助をしろ!』と、騒ぎ立てたらしい。

 本当に……家族の縁を切っていて良かった。

 陛下はすぐにコトコリス男爵夫妻を捕え、数々の罪の罰として爵位を剥奪した。
 どうも、以前までの豪遊が忘れられなかった両親は領民の税だけではお金が足りず、多額の借金をしていたようで、私の父親だと言ってお金を騙し取るなど、凝りもせずに罪を犯していたらしい。
 晴れて平民に落ちたお父様とお母様は、借金元に連れ去られ、今は行方知らずだという。
 まさに自業自得。

 私には血の繋がった家族はいなくなってしまったけど、元からあの人達のことを家族だとは思っていない。だから、私は大丈夫。それに――

「私には、レインがいますから」

 私には新しい家族が出来る。
 レインだけじゃない、陛下もアイナクラ公爵様も、皆、私を大切にしてくれる。
 今、私は幸せだと、胸を張って言える。

「ユウナ、絶対に大切にする。君が好きだよ」

「はい……私も、レインが大好きです」

 好きの言葉は、私にとって呪いの言葉だった。でも、今は違う。
 今はとても幸せな言葉。

 私は今、とても幸せです。

 これからも聖女として、ファイナブル帝国をレイン様と一緒に守りながら、私自身も、幸せになります。








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