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49話 ユウナの新しい婚約者
しおりを挟むコトコリス男爵家から絶縁され、貴族令嬢では無くなったが、皇帝陛下からファイナブル帝国の聖女としての称号を授かり、唯一無二の確立した地位を手に入れたユウナ。
ファイナブル帝国の聖女として、ユウナの名は帝国中を駆け巡り、エミルの影として暮らしていた時と一転して、一躍、注目の的になり、コトコリスの聖女とは違い、心まで美しいと話題になり、老若男女問わず人気者になった。
そして今、最も帝国内で注目されているのが、ユウナの婚約者のことだった。
「ユウナ、また其方に縁談の申し入れが来ておる」
……またですか。
今日は陛下との謁見の日。
ファイナブル帝国の聖女である私の預かり先はアイナクラ公爵家なのだが、何故かこうして、縁談の申し入れは皇室に届く。
「断って下さい」
「う、うむ、分かった」
私が何か言うよりも前に、レイン様が含みを込めた笑みを浮かべながら断わり、それに陛下が若干たじろぎながら了承する。
この光景を最近、何度見ただろう。
「レイン、ユウナ様の意思を尊重しなさい」
「ユウナ、断ってもいいよな? だってユウナは、僕の恋人なんだから」
「……っ、は、はい」
「だそうですよ? 父様」
レイン様の父親であるアイナクラ公爵様がレイン様を窘めるのも、いつもの光景。
皆様が私の預かり先のアイナクラ公爵家では無く、皇室に縁談の申し入れをするのは、レイン様を気にしてのことだった。レイン様と私はパートナーとして既に何度か社交界に参加している身。
それでも私との婚姻を諦め切れずに縁談を申し込む先が、レイン様のいるアイナクラ公爵家ではなく、次に私と繋がりが強い皇室だった。
「はぁ……息子の独占欲が強く申し訳ありません、ユウナ様」
「い、いえ! そんな……迷惑だなんて思ったことありませんから」
あれだけエミルに独占されるのは嫌だったのに、不思議なことに、レイン様からの独占欲は嫌じゃなかった。
今、ファイナブル帝国内で私の婚約が注目されていることは、気付いてる。
ファイナブル帝国の令嬢は、早ければ十二歳で婚約が決まる。かくいう私も、十五歳の時にルキ様との婚約が決まった。今の私は婚約適齢期より少し遅れた歳なので、誰が聖女との婚約を勝ち取るのかと、ただ今話題沸騰中。
「もうキリがないので、さっさと其方達の婚約を進めようと思うが、異論は無いか?」
「僕がユウナの婚約者でもいい? ユウナ」
先程アイナクラ公爵様に私の意志を尊重しろと言われたからか、私に尋ねるレイン様。
「あ……は、はい。その、私でよろしければ……」
「僕はユウナがいい」
「!」
レイン様はあれから、ストレートに想いを伝えてくれるようになった。
嬉しいのですが、恋愛初心者の私にはまだ慣れず……人目を憚らず好意を伝えてくるレイン様に、いつも真っ赤になってしまう。
「では、二人の婚約の手続きは進めておく」
「よろしくお願いします」
「お、お願いします」
こうして、私の新しい婚約が決まった。
ルキ様との婚約の時は、ルキ様は少しも、私との婚約に喜んでいる様子は無くて、嫌々なのを隠そうともしなかった。お父様もお母様も、私の婚約を喜んでくれなかった。ただ、シャイナクル侯爵家との繋がりのための道具として、私と婚約を結ばせただけ。
レイン様と婚約なんて……嬉しい……!
隣にいるレイン様は、私の視線に気付くと、優しく、とても嬉しそうに微笑んでくれて、私との婚約を心から喜んでくれているのが伝わった。
「全く、専属魔法騎士ともあろう者が、聖女に恋をするなど」
「まぁ良いではないか、アイナクラ公爵。ユウナとレインが幸せなのは、ワシも喜ばしい限りじゃ」
「まぁ、それは……」
陛下もアイナクラ公爵様も、レイン様が国のためにコトコリスの聖女との縁談を受けようとしていた時、彼の幸せを考え、反対した人達。二人がレイン様を大切に思っているのは明らかで、同じように、私の幸せを喜んでくれているのも、感じる。
こんな風に、私の幸せを、まるで自分のことのように喜んでくれる。そんな経験初めてで、とても嬉しい。
ああ、私……ここに来て本当に良かった。
陛下との謁見を終えた私とレイン様は、皇宮を出ると、馬車でアイナクラ公爵邸に向かった。
聖女としての活動もいち段落し、最近はゆっくりと過ごすことが多くなった。時折、各地を回って大地の様子を見まわるが、皆、平和に過ごされているようで安心する。
コトコリス領にだけはあれ以降足を踏み入れていないが、視察に行った人からの情報によると、これ以上の聖女の力をあてに出来ないと分かり、何とか土地の状態を維持し、頑張っていると聞いた。以前までと違い、常に豊作ではないものの、毎日を暮らしていけるだけの生活は送れているようなので、凶作に嘆いていた過去に比べれば、良いものだろう。
これからは自分達だけの力で努力していくことを願うばかりです。
「ユウナ、婚約者として、改めてよろしく」
「はい、こちらこそよろしくお願いします」
レイン様と手を繋いで、見つめ合っている時間が、嬉しくて、とても幸せ。
エミルの傍にいる時とは違う、私は毎日を平和に、安らかに過ごしていた。このままずっと平和に、幸せに暮らせればいいのに。
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