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42話 帰って欲しくないなら

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「帰る? 嘘ですよねユウナお姉様? こんなに酷い大地を放置して帰るはずないですよね!? そんなの、酷過ぎます!」

「帰ります。エミルだって、気に食わないことがあったら聖女の義務なんて放置して帰ろうとしていたでしょう?」

 何を他人事みたいに言っているのかが分からない。自分だってしてきた当事者のクセに。

「本物の聖女がいるなら、私なんて必要無いでしょう? どうぞどうぞ、私のことなんてお気になさらずに、聖女の力で土地を救って下さい。私は、エミルの力を自分の手柄にしたりしませんから」

「ま、待ってよユウナお姉様!」

 私を捕まえようと伸ばすエミルの手を、レイン様が払った。

「ユウナに近寄るな」

「な……」

「行きましょうレイン様」

 アイナクラ公爵邸に帰るために、エミルを無視し、荷物を取りに宿に戻る。

「聖女ともあろう者が、土地を見捨てるなんて……! そんな我儘を言ってもいいんですか!? ユウナお姉様!?」

 盛大なブーメランだと言うことが、どうしてこの人達は分からないんだろう。

「……『えーん、折角、ファイナブル帝国の聖女である私が、こんな遠くて汚い辺境の町まで来たのに、こんな風に扱われるなんて、酷いです! 聖女である私は、もっと大切にされるべきなのに!』」

「! それって……!」

「『こんな酷い人達のいる土地、助けてあげたくありません、もう早く帰りましょう』」

 勿論、エミルの真似ですよ。似ているでしょう? お父様にやって効果があったので、エミルにもしてあげますね。

「お、お待ち下さいユウナ様!」
「今までの非礼をお詫びします! 申し訳ございませんでした!」

 今度は、アクアの住民達が勢揃いで、地面に頭をつけ、謝罪と制止の言葉を次々と口にした。

「エミル様の言葉を真に受け、今までユウナ様に酷い扱いをしていたことも、心より謝罪します!」
「ですからどうか! コトコリス領を見捨てないで下さい! お力をお貸し下さい! 助けて下さい!」

「どうして皆……!? 何でユウナお姉様なんかに頭を下げるの!? 今までは、ユウナお姉様を嫌っていたじゃない!」

「うるせぇ黙ってろ! お前の所為で、コトコリス領はめちゃくちゃになってるんだぞ!」

「っ!」

 領民達に怒鳴られたエミルは、目に涙を溜め、ビクリと大きく体を揺らした。

「……いいんですか? 今まで私の言うことなんて一つも信じなかったクセに、エミルでは無く私を信じて」

「お話を聞いて、ハッキリと目が覚めました! エミル様の言い分は矛盾があります! それに、皇室が正式にお認めになったユウナ様の方が聖女であるに違いありません!」
「偽物の聖女だったのはエミル様だったんです! 本当に申し訳ありません!」

 平謝りで私に土下座を続ける住民達。
 レイン様にも諭されて、やっと状況を理解することが出来たみたいですね。私を帰せば、どれ程大変なことになるかを。

「では、エミルではなく私が聖女だと認めるのね?」

「はい、勿論です! ユウナ様こそが、ファイナブル帝国の聖女です!」
「俺は最初から、エミル様なんかよりもユウナ様の方が聖女として素晴らしいと思っていました!」
「ユウナ様の方が隠しても溢れる気品がありました!」

 今までと打って変わって私に媚びを売る住民達。
 これはこれでムカつくけど、今はもういい。今は、まだ私が自分の元に戻って来ると勘違いしている妹に、ハッキリと伝えてあげなきゃ。

「――私がこの地を癒す条件は一つです。それは、コトコリス男爵がコトコリスの領民達の前で、ご自慢の娘が偽物の聖女であるとお認めになることです」

「……え……」

 まるで自分が最愛の姉に裏切られた悲劇のヒロインのように悲しみに暮れている妹。
 よくそんな自分が被害者みたいな顔が出来ますね。貴女に裏切られて傷付けられてきたのは、私の方なのに。

「嘘、ですよね、ユウナお姉様。そんなこと……そんな酷いこと、私にしないですよね? だって、そんなことしたら……私がまるで、嘘つきみたいじゃない……!」

 まるで、じゃなくて、正真正銘の嘘つきなんですよ。

「私が本物の聖女だとエミルは知っていたのに、私がエミルの力を奪っていたことにしてたじゃない」

「わ、私は、ユウナお姉様がいつ私のところに戻って来ても大丈夫なように――」

「私は二度とエミルのところには戻らない。もうエミルとは家族じゃないの。それなのに未だに姉と呼ぶ貴女が、死ぬほど嫌いです」

「――っぅ!」

 姉の力を奪い、聖女の名を語っていた大噓つきだと、大好きなコトコリスの領民達の前で、大好きな父親の手で、どうぞ暴かれて下さい。
 そしてどうぞ、今まで私が受けて来た冷たい視線や陰口を、今度は自分が受けて下さい。
 私はもう二度とエミルの影なんてしない。エミルのためになんて生きない。これはその、意思表示です。

「いつまでもコトコリス男爵はご自慢の娘を偽物だとお認めにならないので留まっていましたが、もう我慢の限界です。猶予は明日。明日の朝までにお認めにならなければ、私は帰ります。アクアの皆様の説得に期待していますよ」

「お、おい! 早くコトコリス男爵様のとこに行くぞ!」

「何が何でも認めてもらわねーと!」

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