42 / 60
41話 もう帰ります
しおりを挟む「――ユウナお姉様!」
タイミング良くと言えばいいのか、何も知らない能天気な妹は、笑顔でこの混沌とした場に登場した。
「良かった! やっとユウナお姉様に会えました! 私、何度もユウナお姉様に会いに来たんですよ? それなのに、何故かユウナお姉様のいる宿の中に入らせてくれなかったんです!」
「……貴女に会いたくなかったから、アイナクラ公爵家の方々に頼んで、入らせないようにしていたに決まってるでしょ」
「ユウナお姉様、その方は誰?」
レイン様に抱き締められている私を見たエミルは、何よりもその人物が気になったようで、真顔で、私に尋ねた。
嫌な予感がする。
妹は、私が自分以外の誰かと親しくなることを好まない。そして、私のものを何でも欲しがる。私から奪ってでも――
「君に名乗る必要が無い」
レイン様は私の代わりに妹にハッキリと冷たく断り、見せ付けるように抱き締める力を強くした。
「……そんなこと言わないで下さい、ユウナお姉様と随分親しそうだから、私とも仲良くして欲しいんです」
「断る」
「っ! ぐすっ、酷いです……私はただ、ユウナお姉様と同じように、親しくなりたかっただけなのに」
取り付く島もなく断るレイン様に、エミルは一瞬、唇を噛んで悔しそうな表情を浮かべたが、すぐにいつもの様に、目に涙を浮かべて、か弱い女性を演じた。
「ユウナお姉様、そんな人と仲良くしないで下さい! その人は、ユウナお姉様の大好きな妹に冷たくする、酷い人です! ユウナお姉様に相応しくありません!」
何言ってるの、こいつ……
今まで私の数少ない友人を奪ってきたくせに、奪えないと思ったら、仲良くするのを止めてって私に訴えるの? 馬鹿なんじゃない?
「私が誰と仲良くするかは、私が決めます。エミルには関係ない」
「そんなっ……酷いです、ユウナお姉様!」
どこがどう酷いのか説明して欲しいくらいだけど、絶対理解出来ないから聞くのは止めておきます。
「私に何の用ですか? エミル」
「え、ユウナお姉様を迎えに来たに決まってるじゃない!」
「はい?」
「ユウナお姉様、やっと私の元に帰って来てくれたんですよね? 嬉しい……! やっぱり、私とユウナお姉様は離れられない運命なんです!」
相変わらず、頭がお花畑なんですね。どうして私が戻って来るなんて発想になるの? こんなに私は、エミルが嫌いなのに。
「エミルの所に戻るなんて、嫌に決まってるでしょ! 絶対に戻らない!」
ノコノコと地獄に戻る馬鹿はいません。
「どうして……酷い……私、ユウナお姉様が私にした酷いこと、全部許そうと思っているのに……!」
「酷いこと? まさか、私がエミルの力を奪って、聖女だと偽っている話?」
「え? ああ、うん、そうですよ。そういうことにしておいた方が、今後の私達のためにも、良いでしょう?」
今まで私の聖女の力を自分のものにしていたのはエミルの方なのに、無邪気にそう言うエミルが嫌い。
「ユウナお姉様が私の元に戻って来て、私がコトコリスの聖女に戻った時に、そっちの方が話の辻褄が合わせやすいと思ったんです」
私がまた、エミルの影として生きることが決まっている言い方。
「ね? ユウナお姉様なら、私のために生きてくれますよね? 大好きです、ユウナお姉様」
「……嫌い」
「え?」
「嫌い! 私は絶対に、二度とエミルのために生きたりしない!」
この期に及んで、私を平気で傷付けるエミルが、死ぬ程嫌い!
「どうしてそんな酷いことを言うの……? 私は、ユウナお姉様が大好きなのに……!」
「酷い? 私の聖女の力をずっと自分のモノにしてたのはエミルのクセに! それを、私の所為にするの!? 私がしたことにするの!?」
「なっ! 止めて、ユウナお姉様! 皆が聞いているのに……!」
慌てたように私を止めるエミル。
平気で私のことは嘘をついて貶めるのに、自分のことは話されたくないなんて、最低!
「事実でしょう? 本物の聖女が私だったことは、正式に認められたんだから」
皇室からも認められた、正真正銘のファイナブル帝国の聖女が、私。偽物の聖女だと証明されたのが、エミルなの。
「ち、違います! ユウナお姉様がまた私に嫉妬して、酷いことを言っているんです! 私の聖女の力を自分の力のように振る舞って、私を偽物の聖女に仕立て上げたんです!」
「それはエミルの方でしょう? 幼い頃からずっと、私の聖女の力を自分のもののようにして、コトコリスの聖女を名乗っていたじゃない」
「違います! 皆、ユウナお姉様を信じないで下さい!」
必死になって訴えているけど、流石に、エミルの言い分をそのまま信じる人はもういなかった。
「エミル夫人、先程から好き勝手言っているが、ユウナが力を貸さなければ、コトコリスの大地は回復しない。それを理解しているのか?」
「っ! だからそれは、ユウナお姉様が私の元に戻って来てくれれば全部解決するんです! また、ユウナお姉様が私の傍で、私のためだけに生きてくれれば――」
そしてまた、私の聖女の力を奪って、華々しくコトコリスの聖女として復活するつもりだった? 馬鹿にするのも大概にしてよね。
こんなに嫌な思いをするなら、こんな所に来なければ良かった。お父様やエミル達を助けたくない。
本当にムカつく! だから――
「もう私、帰ります」
「え?」
エミルだけじゃなく、周りにいたアクアの住民達も、私の発言に、息も止まったように静止した。
2,832
お気に入りに追加
5,048
あなたにおすすめの小説
妹と寝たんですか?エセ聖女ですよ?~妃の座を奪われかけた令嬢の反撃~
岡暁舟
恋愛
100年に一度の確率で、令嬢に宿るとされる、聖なる魂。これを授かった令嬢は聖女と認定され、無条件で時の皇帝と婚約することになる。そして、その魂を引き当てたのが、この私、エミリー・バレットである。
本来ならば、私が皇帝と婚約することになるのだが、どういうわけだか、偽物の聖女を名乗る不届き者がいるようだ。その名はジューン・バレット。私の妹である。
別にどうしても皇帝と婚約したかったわけではない。でも、妹に裏切られたと思うと、少し癪だった。そして、既に二人は一夜を過ごしてしまったそう!ジューンの笑顔と言ったら……ああ、憎たらしい!
そんなこんなで、いよいよ私に名誉挽回のチャンスが回ってきた。ここで私が聖女であることを証明すれば……。
偽物と断罪された令嬢が精霊に溺愛されていたら
影茸
恋愛
公爵令嬢マレシアは偽聖女として、一方的に断罪された。
あらゆる罪を着せられ、一切の弁明も許されずに。
けれど、断罪したもの達は知らない。
彼女は偽物であれ、無力ではなく。
──彼女こそ真の聖女と、多くのものが認めていたことを。
(書きたいネタが出てきてしまったゆえの、衝動的短編です)
(少しだけタイトル変えました)
姉の所為で全てを失いそうです。だから、その前に全て終わらせようと思います。もちろん断罪ショーで。
しげむろ ゆうき
恋愛
姉の策略により、なんでも私の所為にされてしまう。そしてみんなからどんどんと信用を失っていくが、唯一、私が得意としてるもので信じてくれなかった人達と姉を断罪する話。
全12話
どうか、お幸せになって下さいね。伯爵令嬢はみんなが裏で動いているのに最後まで気づかない。
しげむろ ゆうき
恋愛
キリオス伯爵家の娘であるハンナは一年前に母を病死で亡くした。そんな悲しみにくれるなか、ある日、父のエドモンドが愛人ドナと隠し子フィナを勝手に連れて来てしまったのだ。
二人はすぐに屋敷を我が物顔で歩き出す。そんな二人にハンナは日々困らされていたが、味方である使用人達のおかげで上手くやっていけていた。
しかし、ある日ハンナは学園の帰りに事故に遭い……。
婚約破棄をしてきた婚約者と私を嵌めた妹、そして助けてくれなかった人達に断罪を。
しげむろ ゆうき
恋愛
卒業パーティーで私は婚約者の第一王太子殿下に婚約破棄を言い渡される。
全て妹と、私を追い落としたい貴族に嵌められた所為である。
しかも、王妃も父親も助けてはくれない。
だから、私は……。
なんで私だけ我慢しなくちゃならないわけ?
ワールド
恋愛
私、フォン・クラインハートは、由緒正しき家柄に生まれ、常に家族の期待に応えるべく振る舞ってまいりましたわ。恋愛、趣味、さらには私の将来に至るまで、すべては家名と伝統のため。しかし、これ以上、我慢するのは終わりにしようと決意いたしましたわ。
だってなんで私だけ我慢しなくちゃいけないと思ったんですもの。
これからは好き勝手やらせてもらいますわ。
本当の聖女は私です〜偽物聖女の結婚式のどさくさに紛れて逃げようと思います〜
桜町琴音
恋愛
「見て、マーガレット様とアーサー王太子様よ」
歓声が上がる。
今日はこの国の聖女と王太子の結婚式だ。
私はどさくさに紛れてこの国から去る。
本当の聖女が私だということは誰も知らない。
元々、父と妹が始めたことだった。
私の祖母が聖女だった。その能力を一番受け継いだ私が時期聖女候補だった。
家のもの以外は知らなかった。
しかし、父が「身長もデカく、気の強そうな顔のお前より小さく、可憐なマーガレットの方が聖女に向いている。お前はマーガレットの後ろに隠れ、聖力を使う時その能力を使え。分かったな。」
「そういうことなの。よろしくね。私の為にしっかり働いてね。お姉様。」
私は教会の柱の影に隠れ、マーガレットがタンタンと床を踏んだら、私は聖力を使うという生活をしていた。
そして、マーガレットは戦で傷を負った皇太子の傷を癒やした。
マーガレットに惚れ込んだ王太子は求婚をし結ばれた。
現在、結婚パレードの最中だ。
この後、二人はお城で式を挙げる。
逃げるなら今だ。
※間違えて皇太子って書いていましたが王太子です。
すみません
どうやら婚約者が私と婚約したくなかったようなので婚約解消させて頂きます。後、うちを金蔓にしようとした事はゆるしません
しげむろ ゆうき
恋愛
ある日、婚約者アルバン様が私の事を悪く言ってる場面に遭遇してしまい、ショックで落ち込んでしまう。
しかもアルバン様が悪口を言っている時に側にいたのは、美しき銀狼、又は冷酷な牙とあだ名が付けられ恐れられている、この国の第三王子ランドール・ウルフイット様だったのだ。
だから、問い詰めようにもきっと関わってくるであろう第三王子が怖くて、私は誰にも相談できずにいたのだがなぜか第三王子が……。
○○sideあり
全20話
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる