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34話 お父様からの救援要請
しおりを挟むあんな家族を野放しに、自由に聖女の力を与えていた私にも、責任がある。
「本当に真面目で誠実な方ですね。何度も比べるのは失礼ですが、エミル夫人とは大違いです」
本っっ当にシャイナクル侯爵家で何してたのエミル? 聞いてみたい気もするけど、聞くのが怖い!
「ユウナが気に病む必要は無い。悪いのはあの愚かな父親と母親、そして姉の力を利用した妹だ」
「レイン様……」
「そうですよ、ユウナ様があの腐った家族のもと、素晴らしい人格者に育って頂いただけで救いです。彼等とは家族の縁をお切りになられたようですし、レインの言うようにお気になさらないで下さい」
「……はい」
エミルは私に、友人の一人も作ることを、許さなかった。私が少しでも誰かと話そうものなら、その相手のもとに行き、私から奪った。
『私、ユウナお姉様に虐められているんです。エミルは聖女じゃない、姉である自分が聖女だって嘘をついて、私を陥れようとするんです』
私を、聖女である妹に嫉妬して虐めをする酷い姉だと、周りに泣きながら吹聴したエミル。私はエミルを虐めていませんし、聖女が私なのは本当ですからね。
コトコリスの領民達は、お父様お母様同様、私が何を言っても信じてくれず、エミルを信じた。いつも私と妹を比較して、私の陰口を叩き、私を空気のように扱う。
だから私はずっと、一人ぼっちだった。こんな風に、私を信じて、擁護してくれる人なんて、誰一人いなかった。
今の私には、私を信じて、私を守ってくれる人達がいる。それがとても嬉しくて、幸せだと、心からそう思う。
このまま、エミルにもお父様にも関わらずに、穏やかに過ごしていければ――――そう思っていたけど、すぐに、その希望は儚く消えた。
「……ユウナ、陛下より聖女の依頼が届いた」
「分かりました」
ミモザ様との対話中、アイナクラ公爵邸の侍従に耳打ちされたレイン様は、いつものように、陛下からの聖女の依頼を、私に伝えた。
「……」
「レイン様?」
ただ、いつもと違うのは、表情がどこか重苦しくて、中々依頼内容を言わないことだった。
聖女の依頼は、基本、枯れ果てた土地の回復で、いつもはどこでどんな場所に行くかを、レイン様は丁寧に説明して下さる。それなのに、今日は中々口を開かない。
どうしたんでしょう? レイン様も知らない土地だったり? それなら、陛下やアイナクラ公爵様にお伺いしたり、私も自分で調べるのに……
「もしかして、土地の回復じゃないんですか? もっと大変なことですか?」
「……土地の回復の依頼で間違いないが、場所が……」
「凄く遠い場所ですか? 私なら大丈夫ですよ。移動するのも、旅をしているみたいで楽しいですから」
「本当にユウナ様は出来た方ですね。エミル夫人はコトコリス男爵邸からシャイナクル侯爵邸に来るまでの道中が遠すぎて疲れるから、もっと近い場所に引っ越せと言いましたよ」
……コトコリス男爵邸は辺境にあって、シャイナクル侯爵邸は帝都に近い場所にあるから、距離は当然ありますが……どこの暴君ですか?
婚家までの道のりが遠いから近くに引っ越せって、どんな暴挙よ。馬鹿なの?
エミルはルキ様と結婚してからも、私と離れないためにずっとコトコリス男爵邸にいましたけど、将来的にどうするつもりだったんですか? まさか、コトコリス領にシャイナクル侯爵家を引っ越しさせるつもりだったとか……いや、流石に無いですよね。由緒正しいシャイナクル侯爵家をエミルの我儘で引っ越しさせるなんて、そんな暴挙――エミルならしそうで怖い。
「元妹がすみません……」
「ユウナ様が謝る必要ありませんよ。マジでこの女頭いかれてんのか、とは思いましたけどね」
そうですよね、ミモザ様の仰る通り過ぎて頭が上がりません。
「依頼があったのは、その頭がいかれてる女の父親、コトコリス男爵だ」
「――コトコリス男爵?」
お父様からの依頼? ということは――
「場所は、コトコリス領ですか?」
「そうだ」
今までは聖女である私がいたことで、凶作なんて無縁の土地だったのに。
「おやおや、絶縁を叩き付けて追い出した娘に助けて欲しいと願い出るなんて、随分、厚顔無恥な父親なんですね」
「いや……コトコリス男爵はしつこく、ユウナを聖女だと認めず、妹の方が聖女だと言い張っていた。それなのにユウナに助けを求めるということは、それだけ苦しいんだろう」
私もレイン様の意見に同意します。
お父様は私を最後まで聖女だと信じなかった。私では無く、エミルを聖女だと信じていた。それなのに私に助けを求めるなんて、相当苦しいに違いない。
「どうする? ユウナ」
「え……」
「コトコリス領を助けるか?」
「……」
コトコリス領は、私が長い間過ごしてきた故郷だ。
でも――なんの愛情も持っていない。あそこは、私が辛い想いをしてきた場所。
生まれ育った故郷だけど、コトコリス領に戻りたいとも、ましてはもう一度そこで暮らしたいとも思わない、それどころか、二度と足を踏み入れたくないとすら思っている、大嫌いな故郷。
そして何よりも、コトコリス領を救うということは、間接的にお父様を助けることになる。
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