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24話 コトコリスの聖女の失脚
しおりを挟むコトコリスの聖女の失脚は、瞬く間に各地に広がった。元からコトコリスの聖女の評判が良くなったことも手伝って、それそれは、酷い話として、各地を巡った。
《コトコリスの聖女は、本物の聖女である姉の力を横取りし、あたかも自分が聖女であると振舞い、我儘放題をし尽くした。
その家族であるコトコリス男爵、男爵夫人も、帝国を守るため、聖女の機嫌を損ねれない皇帝陛下にまで、その傍若無人な態度を貫いた。そして事もあろうに、本物の聖女であるファイナブル帝国の聖女に絶縁状を叩き付け、家から追い出した。
コトコリス男爵家は、最低最悪な家族である》
「わー、滅茶苦茶書かれていますね」
アイナクラ公爵邸でのお気に入りのテラス。
メルトでの聖女の活動も終わり、アイナクラ公爵邸でいつものように休息、新聞を片手に珈琲を飲む私は、一面に書かれている内容に他人事のように呟いた。
いや、実際、もう赤の他人だから他人事で正解なんですけど。
「コトコリス男爵は当然だが、君の元妹も大分難がある性格だからな。悪く書かれても仕方が無い」
私の向かいには、レイン様の姿。
レイン様も本日はお休みで、今は一緒に朝のひと時を過ごしている最中。
お父様は直接、報酬の上乗せを要求したり、上位貴族や陛下に対しても横柄な態度をしていたが、エミルの我儘は、またそれとは少し違う。
自分が特別扱いされるのが当然と思っているから、特別扱いをされないと機嫌を損ね、泣いてしまう。泣いて、聖女の活動を止めてしまう。だから聖女の力を求める者は、エミルの機嫌を損ねないよう、エミルを最大限に接待しなければなからなかった。
エミルの望む言葉をかけ、エミルの欲しがる贈り物をし、エミルに快適な環境を整える。世界で一番お姫様扱いをしなくてはならなかった。
「食事一つとっても注文が厳しかったようだから、皆、辟易していたよ。その点、ユウナは一切文句を言わないからな」
聖女の力を求めるほど困っている土地に行っているのに、何故にそんな接待を求めるのか、意味不明です。私達の方が助けに行ってるの分かってます?
コトコリスの聖女の失脚が広がるのと比例して、私――ファイナブル帝国の聖女の噂も、各地に広がった。
《ファイナブル帝国の聖女はその地を歩くだけで大地を蘇らせる正真正銘の聖女であり、全ての人々に優しく気遣いの言葉をかけ、泥だけの野菜を喜んで受け取るような、まさにファイナブル帝国の聖女の名に相応しい、心優しく清らかで美しい女性。
ファイナブル帝国の聖女はコトコリスの聖女とは違い、素晴らしい本物の聖女である》
「……こんなに褒められると恥ずかしいのですが……」
新聞に書かれている自分の記事があまりにも賞賛されていて、萎縮してしまう。
大丈夫ですか? こんなに大袈裟に良いように書かれて、実際に会ったらガッカリなんてことになりませんか?
「間違ったことは書いていないと思うが」
本当ですか?
これって、以前の聖女が酷過ぎるから相乗効果で私の評判がうなぎ登りになっている気がするんですけど……だって、歴代の聖女の書籍を読んだけど、私となんら変わらず、土地を救っていましたよ?
「本来、聖女は無条件で賞賛されるものだ。君の元妹やコトコリス男爵がおかしい」
吐き捨てるように言うレイン様の言葉に、私はもう一度、新聞に視線を落とした。
《コトコリスの聖女はファイナブル帝国の聖女を悪者にしていた大嘘つきだ》
コトコリスの聖女の肩書を失ったエミルとお父様の評判は、瞬く間に地に落ちた。
今までは唯一の聖女だからと、見逃されていた、我慢してきた彼女達の行動は、偽物の聖女であると分かった瞬間に、表面に炙り出された。
今、コトコリス男爵家は領民を巻き込んで大変なことになっているだろう。
「全て、自業自得ですね」
そんな感想しか、私の口からは出なかった。
エミルを偽物の聖女だと証明すれば、あの人達がどんな目に合うのかを、私は理解していた。理解した上で、妹は聖女ではなく、本物の聖女は私だと証明した。
聖女の力に飲まれ、私利私欲に走ったあの人達には当然の末路です。
「コトコリス男爵家に多額の援助をしていた貴族達も見切りをつけ始めているらしいよ」
「と言うと、ルキ様……シャイナクル侯爵家もですね」
「シャイナクル侯爵家はコトコリス男爵家への援助や支援をいち早く切ったよ。まだ、ルキは夫人と離婚はしていないみたいだけど」
「そうなんですね」
意外。こんなことになった以上、ルキ様はすぐにエミルと離婚すると思っていたのに。
ルキ様はメルトで傷付いたエミルを放置し、一人、コトコリス男爵邸ではなく、生家であるシャイナクル侯爵邸に戻った。エミルと結婚してからというもの、長い間コトコリス領に留まっていたのに、今になって、急にシャイナクル侯爵家に戻ったのだ。妻であるエミルを残して――
ルキ様がエミルに興味を失ったのは、明白だった。
分かってはいたけど、私を捨てて選んだエミルとの愛は、結局聖女の力目当ての偽物だったのだ。あれだけ愛されていると思っていた夫に捨てられるなんて、可哀想なエミル。
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