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20話 ファイナブル帝国の聖女の力
しおりを挟む私の力に即効性は無い。
足元や手から勝手に流れた私の力は、瞬間的に効果を発揮するものでもなく、土地はゆっくりと回復し、実りが花開く。妹のように光を放つとか、そう言ったパフォーマンスも一切出来ない。
妹はそれを利用して、自分こそが土地に力を与えていると信じ込ませた。
「どうか皆様、姉に騙されないで下さい。姉は私を妬んで、聖女の名を騙りましたが、姉は聖女なんかではありません、偽物なんです! でも、どうかユウナお姉様を責めないで下さい。ユウナお姉様は、ただ、聖女である私に嫉妬してしまっただけなんです。同じ双子なのに、こうも出来が違ってしまった姉妹の……悲しい物語なんです。私は、ユウナお姉様が大好きです!」
集まった人達に向かい、涙ながらに語るエミル。
いつもそう、エミルは大好きと愛を囁きながら、私を貶める。はた目には姉を思いやる妹と見せかけて、私を蹴落とす。
「ユウナお姉様、私は、嘘をついたユウナお姉様を許します。だから、私の元に戻って来て下さい。大好きです、ユウナお姉様」
そうやって、私をずっと手元に置く気なの? エミルの栄光の裏で、私がどんな扱いをされているかを知っているクセに。
何が大好きよ、最低で最悪、気持ち悪い。
エミルが好きなのは、何でも自分の言いなりになる、自分のためだけに生きるお姉様でしょう? 残念だねエミル。そんなお姉様は、もういなくなるんだよ。
私が今日、貴女の化けの皮をこの手で剥がすんだから――
「……そうだエミル。私、エミルに言ってなかったことがあるの」
「何ですか? ユウナお姉様」
自分が勝つと疑っていない、その余裕そうな顔が嫌い。だからその顔を、今からくしゃくしゃに歪めてあげる。
「私、聖女の力を制御出来るようになったの」
「……え?」
一歩一歩、聖女の力を解放して、足を踏み出す。
「これって……!」
私が歩いた先から、土地の乾燥は瞬く間に癒え、その土からは、芽が吹き出した。
昔は聖女の力を一切制御出来なかったけど、今の私はこうして、瞬間的に効果を発揮させることも出来るんだよ? 範囲も自分の意志で決められるし、威力だって自由自在。ほら。
立ち止まり一点に聖女の力を集中させると、その場所からは大きな大木が生まれた。
コトコリス男爵家を出て、レイン様と聖女の活動を行ってきた中で力の使い方も十分勉強も出来ましたし、今は自分が聖女だと完全に証明出来るの。
残念でしたね? 今までと同じように、私を嵌められなくて。
大地を蘇らせ実りを与える力、これこそが紛れも無い、聖女と呼ばれる力。
周りからはエミルの時よりも桁違いな歓声が響いた。
枯渇した大地での生活は、とても苦しかったことでしょう。こちらの都合で土地の回復を遅らせてしまった分、精一杯、力を送り込みます。
「嘘……ユウナお姉様が、聖女の力を制御出来るようになっていたなんて……」
茫然自失のエミルは、涙を浮かべながら、私を見た。
「どうして? 酷いよユウナお姉様! 約束したのに……!」
約束? はて、何のことでしょう。幼い頃に貴女が一方的に告げた、『家族のために、私のために、生きろ』ってやつでしょうか。
「もう家族じゃなくなったんだから、時効でしょう」
ずっとずっと、私はエミルの影として生きてきた。 誰からも愛されない、大切にされない、守ってくれないのに、私はずっと、家族のために生きてきたの。
『家族の幸せのためだから』『大好き』なんて都合のいい言葉で私を縛ったエミル。
それももう、お終い。
家族じゃなくなったんだから、もう助ける義理は無いでしょう?
「聖女は妹ではありません、本物の聖女は、私の方です」
エミルが私を偽物の聖女だと告げた時のように、私も、エミルが聖女でないと、集まった人達に向かい、決別の意味を込めてハッキリと断言した。
「お疲れ様、ユウナ」
「ありがとうございます、レイン様」
ある程度土地を回復し終えた所で、一旦休憩。一気に土地に力を与えるのはとてもしんどいんですよね。
「なぁ、これって、コトコリスの聖女は偽物だったってことだよな?」
「ユウナ様もそう仰っていたし、そうなんだろう」
「あれか? 実は妹が聖女である姉の力を横取りしてたってことか? そう言えば、エミル様は我儘で、ちょっとでも自分が気に食わない態度を取られると活動しないって泣き出したりして、評判が悪いって聞くな」
「姉の力を悪用するなんて、最低な妹だ」
ざわざわと周りから聞こえる雑音。うんうん、いいですよ。そうなんですそうなんです。エミルって最低なんです。
『ユウナ様はエミル様の足手まとい』
『ユウナ様は妹に嫉妬してエミル様を虐めてるんだ』
『妹の力をさも自分の力だと言って偽物の聖女を語るなんて、最低な姉だぜ』
昔、私がコトコリス領で皆に言われていたことです。しっかりとエミルも受け止めてね。
「や……! ち、違います!」
周りからの冷ややかな視線や言葉に耐えられなくなったエミルは、否定の言葉を口にした。
「あ、その……ユウナお姉様にも聖女の力があったなんて、知らなかっただけです! ただそれだけで、私は偽物じゃありません!」
あくまでエミルは、自分も聖女というスタンスで貫き通す気なんですね。
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