16 / 60
15話 思い出話
しおりを挟むルキ様とは、婚約者とは言っても名ばかりのもので、ろくに会話もしたことが無かった。
婚約当初、よく私に会いに来てくれると思っていたけど、それは私では無く、エミルに会いに来ていただけなんだと、今なら分かる。
私とエミル、ルキ様と三人で話している時、いつもルキ様は妹の近くにいた。妹にだけ話しかけ、妹にだけ微笑みかけ、妹にだけ優しくする。
妹を無事に手に入れ、結婚してからは、殆ど私に会いに来なくなった。たまに顔を見せに来たけど、あれはエミルに言われて、渋々見せかけの婚約者を続けるためのものだったんでしょうね。
話しかけても素っ気ない、無視される、ただ一緒の空間にいるだけの時間。それでも、私は忙しい時間に私に会いに来てくれていたんだと、嬉しかったのに……ルキ様にとって私は、本当にただの聖女との足掛かりに過ぎなかったんですね。
でも残念、苦労して手に入れたエミルがまさかの偽物の聖女だなんて、滑稽過ぎて笑えます。
「化けの皮が剝がれるのは時間の問題じゃし、現状、偽物の聖女だと立証することは難しい。放置しておくしかないのぉ」
その間、コトコリス男爵の犠牲者が出ようとも――
「いえ、陛下に一つご提案がございます」
「提案?」
ここまでお父様やエミルを野放しにしていた自分にも責任がある。
だから、エミルが聖女でないことを立証する。
「次、土地の回復が必要な町が出てきたら、そこにエミルも呼んで下さい」
「! それは……」
「そこでエミルが偽物の聖女だと証明してみせます」
エミルは、私が本物の聖女であることは知っているけど、私が既に力の制御を出来るようになったことと、本来の私の力が他者に力を与えるものということを知らない。
それを利用すれば、エミルの化けの皮を一気に剥がすことが出来る。
「だが、コトコリスの聖女は呼んでも来ないのではないか?」
「いいえ、エミルは私が来ると知れば、必ず来るはずです」
怖いくらい私に執着する妹は、必ず、私を連れ戻すためにやってくる。
「妹は私が力の制御が出来るようになったことを知りません。幼い頃と同じように、力が勝手に漏れ出していると思っているので、私の力を、自分のものとして話すでしょう」
悪びれる様子も無く、妹はいつも、私の力を自分のものとして話した。『私が、大地に力を与え、木々に癒しを、作物に実りを与えているんですよ』なんて、嘘ばっかり。でも、皆は妹の言い分を信じた。
「妹は私と違って回復魔法を使えました。それも、強力な奇跡と呼ばれるほどの回復魔法。対して、力を上手く制御出来なかった私は、何も証明出来ませんでした」
足元や手から勝手に流れた私の力は、瞬間的に効果を発揮するものでもなく、土地はゆっくりと回復し、実りが花開く。妹はそれを利用して、全て、自分の力だと話す。今回もきっと、同じことをする。
「土地の回復を自分の力だと言い、私が嘘を付いていると見せかけると思います。回復魔法を使える自分の方が、本物の聖女だと証明出来ると思っていますから」
あの人達は私を、聖女を騙る偽物だとし、糾弾する。でも、妹はきっとこういうでしょうね。
『ユウナお姉様、私は許します。だって、私はユウナお姉様が大好きですもの。だから、私と一緒に帰りましょう。ユウナお姉様、大好きです』
偽物の聖女を名乗る姉を許す、心優しい妹を演じる。そしてまた、大好きなんて都合の良い言葉を言って、私を自分だけのものにして閉じ込める。
なんて地獄。絶対に嫌。
「今は力の制御が出来ますから、私が聖女だと証明出来ます。妹なんて怖くありません。妹を聖女にしてあげていたのは、私の恩情です」
でも、それも枯渇した。今はもう、家族のために、妹のために生きていく気なんてこれっぽっちも無い。だから私が直接、引導を与えてあげますね。
覚悟して、エミルの大好きな姉は、もういないのよ。
*****
まだ私達が幼い頃――まだ私が、エミルのことを、好きだった頃――
『え? 土地に元気をあげているのって、ユウナお姉様なの?』
『う、うん。そうだと思う』
私は両親に話したように、エミルにも、自分が土地に力を与えていると話した。
『エミルも言ってたでしょう? 魔法を使う時、自分が使うって感覚がハッキリあるって。私も、あるの。自分が土地に元気をあげてるって、分かるの』
赤子の時から自然とあったその力が、皆の言う聖女の力だと気付いた時には、エミルの方が聖女だと称えられていた。
『土地に力を与える子のことを、皆、聖女って呼んでるんだよね? だから、それならエミルじゃなくて私の方が聖女だと思うの』
最初にエミルを聖女だと言い出したのは両親で、エミルは祭り上げられただけだった。
エミルはただ、私と自分の力の区別もつかず、ただ、両親に言われるがまま、祭り上げられているだけだと、そう思っていた。
『……ユウナお姉様は、聖女の力を自分のものだって証明出来るの?』
『え?』
その時のエミルの表情は、私が今まで見たことがないくらい、怖い顔をしていた。
2,640
お気に入りに追加
4,843
あなたにおすすめの小説

絶対に間違えないから
mahiro
恋愛
あれは事故だった。
けれど、その場には彼女と仲の悪かった私がおり、日頃の行いの悪さのせいで彼女を階段から突き落とした犯人は私だと誰もが思ったーーー私の初恋であった貴方さえも。
だから、貴方は彼女を失うことになった私を許さず、私を死へ追いやった………はずだった。
何故か私はあのときの記憶を持ったまま6歳の頃の私に戻ってきたのだ。
どうして戻ってこれたのか分からないが、このチャンスを逃すわけにはいかない。
私はもう彼らとは出会わず、日頃の行いの悪さを見直し、平穏な生活を目指す!そう決めたはずなのに...……。

偽物と断罪された令嬢が精霊に溺愛されていたら
影茸
恋愛
公爵令嬢マレシアは偽聖女として、一方的に断罪された。
あらゆる罪を着せられ、一切の弁明も許されずに。
けれど、断罪したもの達は知らない。
彼女は偽物であれ、無力ではなく。
──彼女こそ真の聖女と、多くのものが認めていたことを。
(書きたいネタが出てきてしまったゆえの、衝動的短編です)
(少しだけタイトル変えました)

妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢
岡暁舟
恋愛
妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢マリアは、それでも婚約者を憎むことはなかった。なぜか?
「すまない、マリア。ソフィアを正式な妻として迎え入れることにしたんだ」
「どうぞどうぞ。私は何も気にしませんから……」
マリアは妹のソフィアを祝福した。だが当然、不気味な未来の陰が少しずつ歩み寄っていた。

婚約破棄をしてきた婚約者と私を嵌めた妹、そして助けてくれなかった人達に断罪を。
しげむろ ゆうき
恋愛
卒業パーティーで私は婚約者の第一王太子殿下に婚約破棄を言い渡される。
全て妹と、私を追い落としたい貴族に嵌められた所為である。
しかも、王妃も父親も助けてはくれない。
だから、私は……。

妹と寝たんですか?エセ聖女ですよ?~妃の座を奪われかけた令嬢の反撃~
岡暁舟
恋愛
100年に一度の確率で、令嬢に宿るとされる、聖なる魂。これを授かった令嬢は聖女と認定され、無条件で時の皇帝と婚約することになる。そして、その魂を引き当てたのが、この私、エミリー・バレットである。
本来ならば、私が皇帝と婚約することになるのだが、どういうわけだか、偽物の聖女を名乗る不届き者がいるようだ。その名はジューン・バレット。私の妹である。
別にどうしても皇帝と婚約したかったわけではない。でも、妹に裏切られたと思うと、少し癪だった。そして、既に二人は一夜を過ごしてしまったそう!ジューンの笑顔と言ったら……ああ、憎たらしい!
そんなこんなで、いよいよ私に名誉挽回のチャンスが回ってきた。ここで私が聖女であることを証明すれば……。

なんで私だけ我慢しなくちゃならないわけ?
ワールド
恋愛
私、フォン・クラインハートは、由緒正しき家柄に生まれ、常に家族の期待に応えるべく振る舞ってまいりましたわ。恋愛、趣味、さらには私の将来に至るまで、すべては家名と伝統のため。しかし、これ以上、我慢するのは終わりにしようと決意いたしましたわ。
だってなんで私だけ我慢しなくちゃいけないと思ったんですもの。
これからは好き勝手やらせてもらいますわ。

裏切られた氷の聖女は、その後、幸せな夢を見続ける
しげむろ ゆうき
恋愛
2022年4月27日修正
セシリア・シルフィードは氷の聖女として勇者パーティーに入り仲間と共に魔王と戦い勝利する。
だが、帰ってきたセシリアをパーティーメンバーは残酷な仕打で……
因果応報ストーリー

どうやら婚約者が私と婚約したくなかったようなので婚約解消させて頂きます。後、うちを金蔓にしようとした事はゆるしません
しげむろ ゆうき
恋愛
ある日、婚約者アルバン様が私の事を悪く言ってる場面に遭遇してしまい、ショックで落ち込んでしまう。
しかもアルバン様が悪口を言っている時に側にいたのは、美しき銀狼、又は冷酷な牙とあだ名が付けられ恐れられている、この国の第三王子ランドール・ウルフイット様だったのだ。
だから、問い詰めようにもきっと関わってくるであろう第三王子が怖くて、私は誰にも相談できずにいたのだがなぜか第三王子が……。
○○sideあり
全20話
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる