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11話 お父様来襲

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「お前っ! ユウナか!?」

「ご無沙汰しておりますお父様。ああ、もうお父様ではありませんでしたね。失礼しました、コトコリス男爵様」

 久しぶりの娘との再会だというのに、当のお父様に嬉しそうな様子は微塵も無く、強く私を睨み付けていた。
 何ですか? 私、何かしました?

「お前! こともあろうにお前が聖女の名を騙っているのか!?」

 ……ああ、お父様は私が聖女と呼ばれるのが気に食わないんですね。

「そうですね、私が聖女です」

「ふざけるな! いつまでも妹の足を引っ張りよって! 偽物の聖女の真似事などして、エミルの邪魔をする気か! 今まで散々世話になっておいて、この恩知らずが!」

 エミルの世話をしていたのは私の方ですけどね。私が四六時中、どのくらいエミルのお世話をしていたと思ってるの?
 まぁ、別にもう、どうでもいいですけど。二度とエミルのお世話はしませんから。

「偽物では無く、私が本物の聖女です。偽物はエミルの方では?」

「な――んだと! 出来損ないの姉の分際で!」

「私はもうエミルの姉ではありませんよ。良かったですね、邪魔な姉を追い出せて。おかげさまで、私は今とても自由を満喫して幸せです」

「な!」

 言いたいことを遠慮なく言えるのは気持ち良いですね。お父様の怒りで歪むその顔を見るのも最高です。

「いい加減にしろ! 折角、エミルが望むから、お前を連れ戻してやろうと思っていたのに!」

「誰が頼みました? 絶対に嫌です。お断りします」

 エミルはそりゃあ望むでしょうよ。双子の姉である私に執着していますからね。

「このっ!」
「コトコリス男爵、ユウナに手を出したら許しませんよ」

 私を守るように前に立つレイン様。
 レイン様の姿を見たお父様は、一瞬驚き、そしてまた、怒りで顔を歪ませた。

「どういうつもりだレイン! それが聖女の父親であるワシに対する態度か!? 偽物の聖女なんぞを守りよって!」

 おーーーい! アイナクラ公爵令息であるレイン様を呼び捨てかつタメ口かーい! 聖女の力を笠に好き勝手やってますねー!

「ユウナは偽物ではありません。ユウナこそが、本物の聖女です」

「アイナクラ公爵家ともあろうものが、何を馬鹿な戯言を! そんな偽物の聖女なんぞに騙されよって! いいのか!? ワシに逆らえば、コトコリスの聖女の恩恵が受けれなくなるのだぞ!」

「構いませんよ。聖女ならユウナがいます。ファイナブル帝国の聖女がね」

 こうやって聖女の力を笠に好き勝手してるんですね……聞いてはいましたけど、改めて見るとほんと、娘として情けない。親子の縁を切って良かったと、これから先、数百回も思うんだろうな。

「何がファイナブル帝国の聖女だ! ユウナが聖女なワケないだろう!」

「私はコトコリス男爵様にもきちんとお伝えしたことがあるはずですよ。妹ではなく、私こそが聖女だと」

「そんなはずあるか! お前は妹と違い、何の力も持たない出来損ないだ! 妹に嫉妬して自分が聖女だと吹聴するなど、どれだけ最低な姉なんだ!」

 昔と変わりませんね。
 お父様は昔も、私の話を妄言だと吐き捨て、可愛い妹を陥れようとする最低な姉だと罵った。

「エミルが可哀想だと思わんのか! エミルは、お前のような出来損ないにも愛を与えていたのに!」

「愛? 好きと言いながら私の婚約者を奪い、結婚までしていたのが、エミル様の愛だと言うのですか?」

「姉なら、可愛い妹に婚約者の一人や二人譲るものだ!」

 どんな理屈よ。倫理観破壊してんのか。

「エミル様を可愛いと思えないので私には無理ですね」

「ユウナっ!」

「ところで、コトコリス男爵様は目や耳が不自由なのですか?」

「は?」

「これだけ皆様が私を聖女だとお認めになっているのに、コトコリス男爵様だけが、私を聖女だとお認めにならないので、周りの反応や声が聞こえていないのかと思って心配になりました」

 広場に集まった人々は、私の聖女としての力を信じている。
 だからさっきからお父様の発言に、『あいつ頭おかしいんじゃない?』とか、『聖女様を出来損ない呼ばわりって、馬鹿なんじゃないか』とか、『娘の浮気を正当化するなんて、親として終わってますわ』とか、お父様を否定する言葉や冷ややかな視線が飛び交っている。
 コトコリス領では私が冷ややかな視線を向けられていましたが、今は立場が逆ですね。

 私の言葉でようやく自分に向けられた視線や言葉に気付いたお父様は、顔を真っ赤にさせ、屈辱に顔を歪め、私を見た。
 んーお父様のその屈辱的な表情、いい気持ちです。

「エミルはお前ごときを心配していたのに、まさか姉が自分に代わって聖女を名乗っていると知ったら、どんなに驚き、悲しむか!」

 この期に及んで出てくる台詞がそれですか? エミルが悲しもうが泣き喚こうが、私には全く響かないのに。
 それに、私が聖女だと名乗っていることに驚く? エミルが?


「エミル様は驚きませんよ。私が本物の聖女であること、から」


 知っていて、エミルは私に執着してるの。
 土地に力を与えることが出来ない妹は、私がいなくなれば、聖女の立場が失われることを知っている。エミルはね、全て承知のうえで、私に自分の影をさせたのよ。
 ね? 最低でしょう? そんな妹を――私が好きになれると思う? 無理に決まってるわ。
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