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6話 謁見後

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 ***


「お疲れ様ユウナ」

「緊張しました……」

 皇宮から帰る馬車の中、緊張やら溜まり込んだ疲労やらで疲れ果てた私は、レイン様の前にも関わらず、壁に寄り掛かった。

「そう? 最後、堂々としていたように見えたよ」

「必死だっただけです」

 家族の、エミルの馬鹿さ加減に飽き飽きしたのもあります。
 聖女として人々を救っていると信じていたのに、まさかあんな風に、好き勝手しているとは思わなかった。

「あの、回復魔法を使える方を捜して頂けませんか? 私自身が魔法を使えるわけではないので、エミルの代わりがいるんです」

 私単体では、何の力もない。私の魔法は、相手がいてこそ真価を発するもの。

「回復魔法は僕が使えるよ」

「そうなんですか!?」

 レイン様が魔法騎士で、歴代最高の魔法使いだとは聞いていたけど、まさか回復魔法も使えるなんて。

 回復魔法は、他の魔法に比べて使える人間が少ない希少な魔法。それもあって、両親は希少な魔法が使えるエミルの方を聖女だと信じた。

「僕が聖女に頼み行ったのは、陛下が仰った土地の再生のことだよ。聖女――ユウナの妹は、一年前から聖女の活動を拒んでいてね。どうにか再開してくれないかと、頼みに行ったんだ」

 一年前……ルキ様とエミルが、結婚した年ですね。
 そう言えば確かに、エミルの聖女としての活動が減っていた気がする。私はそれを、今は平和なんだなって、呑気に思っていたけど、ただルキ様とイチャイチャする時間が欲しかっただけなのね。

「レイン様はエミルと会ったことは無いんですか?」

「無い。父様と陛下が率先して窓口を引き受けてくれた」

 私と妹は顔が良く似ているのに、初めて会った時も顔を知らない様子でしたもんね。

「実は昔、コトコリス男爵から、僕に縁談の申し入れがあったんだ」

「え?」

 妹の? お父様はエミルに良い縁談を望んでいたから、公爵家次男で歴代最高の魔法騎士と称されるレイン様とエミルの婚約を望んでも不思議じゃない。

「あの頃から聖女に良い噂なんか無かったし、そんな女と結婚なんて死んでもごめんだと思ってたんだけど、僕が結婚することで聖女と繋がりが持てるならと、了承しようとしたんだ」

 だが、それをレイン様の兄も父も、陛下ですら止めた。

「貴族に産まれた以上、愛の無い結婚も覚悟していたけど、止めてくれてホッとしたよ。だからせめて土地の再生だけは、例え地面に頭をつけることになろうが、コトコリス男爵にいいように使われることになろうが頼み込む気で、コトコリス領に向かったんだ。でも、ユウナと出会って、視界が一気に晴れやかになった」

 そう言うレイン様の表情は、とても優しくて、でも何故か、情熱的な熱を感じた。

「ユウナが聖女で良かった」

「あ、ありがとうございます」

 そんな風に言ってもらえるなんて、何だかこそばゆい気もするけど、嬉しい。 

「陛下より正式にアイナクラ公爵家でユウナの面倒をみる許可も頂いたし、ユウナの専属魔法騎士になる命も受けた」

「私の専属魔法騎士!? レイン様が!?」

「ああ、これからよろしく、ユウナ」

 アイナクラ公爵令息のレイン様に守って頂くことになるなんて、一気に自分が大物になった気分。

「今後、聖女の憂いは僕が全て取り払う。だからユウナも、遠慮なく僕を頼って欲しい」

「……はい、よろしくお願いします」

 まさか自分が、聖女として活動することになるとは思わなかったけど……今までは妹の影として、聖女の役立たずの姉として、生きてきた。


 ***

『聖女様が懸命に人々をお救いになっていると言うのに、姉の方はただボーっと突っ立ってばかりいて、本当に何のために双子の片割れとして産まれてきたのかしら』

『ねぇ、妹に良いところを全て奪われてしまったんでしょうね』

 エミルは聖女の活動に私を連れて行くのに、私には何もさせなかった。ただ、自分の傍にいてお世話をして欲しいからと、私を同行させた。それで私が周りからどう言われているかも、妹は知っていた。

『ユウナお姉様がまるで役立たずみたいに言われていますね、可哀想……でも、ユウナお姉様は何もしないで下さいね。ただ、私のためだけに生きて下さい』

 妹に付き添うのが、本当は嫌だった。でも、私が妹に力を与えないと、傷付いている人々は救えない。
 それに、家族だから――双子の片割れを、助けてあげないといけない。

『ユウナお姉様、大好きです』

 ――私は大嫌いよ。

 心の中でそう呟く。
 私はずっと、本心を隠して、我慢して、妹の影として生きてきた。

 ***


 そんな私が、今度は聖女として活動する。

 コトコリス領の皆様は私が聖女だと知ったら、驚くでしょうね。散々、私を妹と差別して蔑んできてくれたんだもの。
 いつか遠い辺境にあるコトコリス領にまで私の活躍が響き渡る日が来るのが、とても楽しみ。

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