3 / 44
2話 幸運の出会い
しおりを挟むコトコリス男爵邸を出た後、少ない荷物を手に、私は長年住み続けたコトコリス領を出た。コトコリス男爵に出て行けと言われた以上、コトコリス領に留まることは出来ない。
「これからどうしようかな」
勢いで家から出て来たものの、行くあては無い。
私には頼れる親族も、仲の良い友人もいない。
もとより、コトコリス領での私の扱いは、妹の影響もあってか、酷いものだった。いつも私と妹を比較して、優秀な妹と比べて出来損ないの姉だと陰口を叩き、私を空気のように扱った。親族は全て無条件に聖女であるエミルの味方だし、幼い頃の数少ない友人もエミルに奪われてきたから、誰にも頼れず、行く場所も無い。
「お金は少しだけどあるから、これでどこかで家を借りて、働く場所も見付けて……」
貴族令嬢として生きてはきたが、両親に冷遇されていた私は、家の使用人達にも舐めた態度を取られていた。誰も私の世話に来ないことは当たり前で、洗濯、食事、掃除など、一通りの家事は自分で出来るようになった。
働く場所も、学校には妹が『私は聖女の役割があって学校に通わないから、ユウナお姉様も通う必要無いですよね』なんて言って通わせてもらえなかったけど、ずっと独学で勉強は続けて来た。計算も出来るし、字も綺麗に書けるから、何かしらの仕事は見つかると思う。
自分のことは自分で出来るし、働く場所さえ見つかれば、生活は出来るはず。
「うん、きっと大丈夫」
これからどうなるんだろうって不安は勿論あるけど、気持ちは晴れ晴れしてる。
私を邪険に扱う両親も、私に執着する妹も、もういない。完全に家族の縁が切れ、私達は赤の他人になった。家族がいなくなってもちっとも悲しくないのは、もう、私の心が限界だったんだと思う。
私はこれから自由。妹に縛られることなく、好きに生きて行ける。もう、気持ちを押し殺して、家族のために生きなくていい。
「気分爽快!」
私は自由を求めて、顔を上げ、足を進めた。
「ん?」
どこか近くの町にでも行こうかなと考えていたら、前方に地図を片手、どう見ても道に迷っていると思わしき風貌の男性を見つけた。
(綺麗な顔……こんなに綺麗な顔をした男の人、初めて見た)
目の前に現れた男性は、端正な顔立ちをした不思議な空気を纏う男性で、こちらの視線に気付くと、どこか鋭く射貫くような綺麗な瞳で、私を見返した。
「ねぇ」
「は、はい。私ですか?」
急に声をかけられ、ビックリする。
「聖女がどうして、こんなところで一人でいるの?」
「――え?」
ドキッとした。
(どうして、私が聖女だと……)
今まで誰にも聖女だと気付かれたことないのに、一目見ただけで、気付かれた。
「あの、何か勘違いされていませんか? 聖女は私ではなく、妹の方で――」
「君から不思議な匂いがする。間違いなく君が、僕が会いに来たコトコリスの聖女だ」
「!」
こんなに的確に、私の力を見極めた人は初めて。
「……あの、貴方は?」
「レイン。《レイン=アイナクラ》」
「アイナクラって……まさか、アイナクラ公爵様のご令息……ですか!?」
「そう、アイナクラ公爵の次男に当たる」
嘘でしょう!? どうしてこんなところに、アイナクラ公爵家の次男が!? 確かに、平民にしては高価な服を着られているなとは思いましたけど……
アイナクラ公爵家と言えば、代々皇帝陛下に仕える由緒正しき家。しかもアイナクラ公爵家のレイン様と言えば、まだ若いにも関わらず、歴代最高と言われる魔法騎士だと聞いたことがある。
「聖女に会いにコトコリス領に来たんだが、まさか途中で出くわすとは思わなかった」
「ア、アイナクラ公爵家のレイン様だとは気付かず、ご挨拶が遅れ申し訳ありませんでした」
「別にいい。それで、どうして聖女がここにいる? 確かコトコリス男爵は娘である聖女を過保護過ぎるくらい過保護にしていると聞いていたけど」
「……」
歴代最高の魔法騎士ともなると、人を見ただけで特別な力を見極められるんですね。
自分が聖女だったことは、別に隠すつもりはない。聞かれたら答えようとは思っていたし、新しい土地で力が必要なら、遠慮なく使おうとも思っていた。
「コトコリス男爵は、もう私の父ではありません。私は、コトコリス男爵家から絶縁され、領を追放されました」
「追放? 聖女をか?」
「父――コトコリス男爵は、私では無く、妹を特別な力を持つ聖女だと信じています」
コトコリスの聖女は、大地に活力を与え、実りを与える特別な魔法を持つとされている。でも実際は、少し意味合いが違う。私の力は本来、《他者に力を与える魔法》
「私はその力を使って、大地や草木に力を与えていただけです」
正確には人以外にも作用する魔法は、私が産まれた時から、勝手に発動された。
今はもう力を制御出来るけど、私はずっと、家族の為に、妹にも力を与えてきた。エミルは他の魔法に比べて使える人間が少ない回復魔法を使えるが、その奇跡とも呼ばれる驚異的な回復魔法の威力を上げていたのは、私。
妹の驚異的な回復魔法も、大地に活力や実りを与えてきたのも、全て私。
「聖女は妹ではありません、本物の聖女は、私の方です」
妹は、聖女でもなんでもない。それなのに皆、妹を聖女だと崇めて、ほんと馬鹿みたい。
1,862
お気に入りに追加
6,175
あなたにおすすめの小説
その聖女、娼婦につき ~何もかもが遅すぎた~
ノ木瀬 優
恋愛
卒業パーティーにて、ライル王太子は、レイチェルに婚約破棄を突き付ける。それを受けたレイチェルは……。
「――あー、はい。もう、そういうのいいです。もうどうしようもないので」
あっけらかんとそう言い放った。実は、この国の聖女システムには、ある秘密が隠されていたのだ。
思い付きで書いてみました。全2話、本日中に完結予定です。
設定ガバガバなところもありますが、気楽に楽しんで頂けたら幸いです。
R15は保険ですので、安心してお楽しみ下さい。
何を間違った?【完結済】
maruko
恋愛
私は長年の婚約者に婚約破棄を言い渡す。
彼女とは1年前から連絡が途絶えてしまっていた。
今真実を聞いて⋯⋯。
愚かな私の後悔の話
※作者の妄想の産物です
他サイトでも投稿しております
【完結】「私は善意に殺された」
まほりろ
恋愛
筆頭公爵家の娘である私が、母親は身分が低い王太子殿下の後ろ盾になるため、彼の婚約者になるのは自然な流れだった。
誰もが私が王太子妃になると信じて疑わなかった。
私も殿下と婚約してから一度も、彼との結婚を疑ったことはない。
だが殿下が病に倒れ、その治療のため異世界から聖女が召喚され二人が愛し合ったことで……全ての運命が狂い出す。
どなたにも悪意はなかった……私が不運な星の下に生まれた……ただそれだけ。
※無断転載を禁止します。
※朗読動画の無断配信も禁止します。
※他サイトにも投稿中。
※表紙素材はあぐりりんこ様よりお借りしております。
「Copyright(C)2022-九頭竜坂まほろん」
※小説家になろうにて2022年11月19日昼、日間異世界恋愛ランキング38位、総合59位まで上がった作品です!
【完結】奪われたものを取り戻したかった
白崎りか
恋愛
「妹を虐げて殺した君は、聖女にふさわしくない。婚姻の約束はなかったことにする」
アルフレッド王子が宣言した。その隣には、悲し気な顔を作った聖女オディットがいた。
リリアーヌに愛を語った優しい王子は、もういない。
全て、聖女オディットに奪われてしまった。
リリアーヌは生まれつき、魔力を生み出す魔力核に欠陥があった。そのため、妹から魔力を奪って生きてきた。アルフレッド王子の隣に立つために、妹の魔力核を奪って聖女になろうとした。
しかし、移植手術が終わった後、リリアーヌとして目覚めたのは妹だった。
他のサイトにも投稿しています。
愛されなければお飾りなの?
まるまる⭐️
恋愛
リベリアはお飾り王太子妃だ。
夫には学生時代から恋人がいた。それでも王家には私の実家の力が必要だったのだ。それなのに…。リベリアと婚姻を結ぶと直ぐ、般例を破ってまで彼女を側妃として迎え入れた。余程彼女を愛しているらしい。結婚前は2人を別れさせると約束した陛下は、私が嫁ぐとあっさりそれを認めた。親バカにも程がある。これではまるで詐欺だ。
そして、その彼が愛する側妃、ルルナレッタは伯爵令嬢。側妃どころか正妃にさえ立てる立場の彼女は今、夫の子を宿している。だから私は王宮の中では、愛する2人を引き裂いた邪魔者扱いだ。
ね? 絵に描いた様なお飾り王太子妃でしょう?
今のところは…だけどね。
結構テンプレ、設定ゆるゆるです。ん?と思う所は大きな心で受け止めて頂けると嬉しいです。
将来を誓い合った王子様は聖女と結ばれるそうです
きぬがやあきら
恋愛
「聖女になれなかったなりそこない。こんなところまで追って来るとはな。そんなに俺を忘れられないなら、一度くらい抱いてやろうか?」
5歳のオリヴィエは、神殿で出会ったアルディアの皇太子、ルーカスと恋に落ちた。アルディア王国では、皇太子が代々聖女を妻に迎える慣わしだ。しかし、13歳の選別式を迎えたオリヴィエは、聖女を落選してしまった。
その上盲目の知恵者オルガノに、若くして命を落とすと予言されたオリヴィエは、せめてルーカスの傍にいたいと、ルーカスが団長を務める聖騎士への道へと足を踏み入れる。しかし、やっとの思いで再開したルーカスは、昔の約束を忘れてしまったのではと錯覚するほど冷たい対応で――?
あなたをかばって顔に傷を負ったら婚約破棄ですか、なおその後
アソビのココロ
恋愛
「その顔では抱けんのだ。わかるかシンシア」 侯爵令嬢シンシアは婚約者であるバーナビー王太子を暴漢から救ったが、その際顔に大ケガを負ってしまい、婚約破棄された。身軽になったシンシアは冒険者を志して辺境へ行く。そこに出会いがあった。
王妃様は死にました~今さら後悔しても遅いです~
由良
恋愛
クリスティーナは四歳の頃、王子だったラファエルと婚約を結んだ。
両親が事故に遭い亡くなったあとも、国王が大病を患い隠居したときも、ラファエルはクリスティーナだけが自分の妻になるのだと言って、彼女を守ってきた。
そんなラファエルをクリスティーナは愛し、生涯を共にすると誓った。
王妃となったあとも、ただラファエルのためだけに生きていた。
――彼が愛する女性を連れてくるまでは。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる