上 下
79 / 82

79

しおりを挟む

「2人とも、止めて下さいね」
「かしこまりました、聖女様」
「……くそっ!分かった、リーシャ」

 2人とも、リーシャの言う事は素直に従う。
「てか……お姉ちゃんが聖女って事は、お姉ちゃんの元・仲間の2人もーー魔王討伐時の英雄ってこと?」
 サクヤは恐る恐る、事実を確かめた。
「そうだな。改めて名乗ろう。俺は魔王討伐メンバーの1人、騎士ノルゼス。レナルドは、魔法使いだ」
「やっぱり?そうだよね。2人とも強いはずだよね!」

 2人が只者では無い事に気付いてくれてありがとうございます。これで、後にこの村に他の冒険者が来ても、比べられる事は無いでしょう。
 魔王討伐に選ばれた冒険者と、一般的な冒険者では、雲泥の差が有りますからね。

「リーシャはんが冒険者なのに何も出来へんかったんわ、リーシャはんの守護の魔法で、大勢の付き人同行で旅してたからやねんな」
「私の周りは、ある意味、どこかの街にいるより安全でしたから」
 魔王を討伐する前は、魔物の動きは活発で、強かったですし、色々な街や村で被害が横行していましたからね。

「それが、聖女様を窮屈に思わせてしまっていたなんて思いもしませんでした……本当に申し訳ございません」
「そんな…!私も、受け入れてしまっていましたし……あの頃は、聖女として、そうあるべきだと思っていましたから」
 再度、深く深く頭を下げるノルゼスに、リーシャは慌てて首を振った。

「ただ、これだけは言わせて下さい、聖女様。貴女はーー聖女として生きてきた自分には、何も無いと思われているかもしれませんが、聖女様に救われた人達は、沢山います」

 魔物に怯えていた時代に、突如現れた希望。
 聖女として相応しく、人々に寄り添い、守り、強くあるその姿に、魔物との戦いで辟易していた人達に、勇気を与えた。
「貴女を慕う者は、この世に沢山います。私もその1人です」
「ノルゼス…」
「あそこにいるレナルドも、貴方にまた救われた者の1人です。貴方が、大き過ぎる魔力を持って産まれた故に、魔力の暴走で苦しんでいた少年を救った」

 ここと同じような、小さな村。
 違いは、ここ、ヘーゼルとは違い、村人達はレナルドに冷たかった。幼いレナルドは、魔力の暴走で、家屋を破壊し、人々を傷付け、自分自身も、傷付けた。

「僕と同じ、魔力の暴走……それで…!」
 だから、同じように魔力の暴走で苦しんだサクヤに、優しくなったのだと確信する。

「あんな地獄みたいな場所で、俺を信じて手を差し伸べてくれたリーシャだけが、俺の全てだ!」
「レナルド…」

 そう言えば、まだ聖女として振る舞い始めた頃、冒険で立ち寄った村に、ボロボロの男の子がいた。あの子がレナルドだったのですね……ごめんなさい。全く気付いていませんでした。


「何にせよ、あの馬鹿王ーー王子様は、この私が責任を持って王都まで連れ帰ります。聖女様の正体がこの村に広まってしまった事は、本当に申し訳無くーー」
「大丈夫ですよ。王様にも、王都の守護の魔法を解こうとは思っていませんと伝えて下さい」
「はい。本当に申し訳ございませんでした。そして、もう1つ、1度、レナルドも連れ戻してもよろしいですか?」
「はぁ?!ふざけんな!何で俺が!!」

 急に自分も城に連れ戻すと言われ、キレるレナルド。
「お前、ここら辺一帯の魔物だけじゃなく、ここに来るまでの道中でも、魔物を殺しまくっただろ」

 ギクッと、レナルドの体が揺れる。
「……まさか、他の村でも、狩りが出来なくて困っている事になっているのですか?」
 現状、魔物も立派な食料源になっていて、この村でも、レナルドが魔物を殲滅し過ぎて、肉が取れず、今は魚で代行しているが、この村はまだ、川が近くにあり、魚を取りに行ける人材がいるから良い。
「はい」
 リーシャの問いに、ノルゼスはこくんと頷いた。
「待て!それと俺が城に戻る事に何の意味がーー!!」
「城に戻れとは言っていない。ただ、迷惑をかけた村の人達の生活が安定するまでは、お前が率先して、食料を届けるなりしろ!」

 この村には、まだイマルやサクヤがいて、何なら、元・聖女として絶対的守護の力を持つリーシャがいる。

「いいか?他の村には、そんな戦えたりする人材がいない場所もあるんだ!それなのにお前は!人畜無害な魔物まで殺してーー!!」
「わ!ワザとじゃない!喧嘩を売ってきたからー!!」
「巻き添えを食らった魔物も沢山いたなぁ?!」
 ギャギャーとまた言い争いが始まる。

「……ルド。行って来て下さい。村の人達に迷惑をかけるのは駄目ですよ」
「…っ…分かった…」
 鶴の一声であるリーシャの言葉で、観念したように、レナルドは項垂れながら、了承した。


 まだ馬車の中で、『俺の聖女に、俺以外に好きな人なんて出来る筈が無い!嘘だ!あれは嘘だ!』と泣き叫ぶ王子と、『絶対に帰ってくるからな!』と吐き捨て乗り込んだレナルド、そして、それ等を引率して連れ帰るノルゼス。

 村の人達は、突如現れた国の王子、英雄達を受け止めきれないまま、彼等をお見送りしたーーー。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

美形軍人に連行された少女の末路 ~辿り着く先は見知らぬ夫の元か、投獄か!?~

当麻月菜
恋愛
『アルベルティナ・クラース。悪いが何も聞かずに、俺たちに付いてきてもらおうか』  パン屋で店主を泣かせるほど値切った帰り道、アルベルティナことベルは、突然軍人に囲まれてしまった。  そして訳がわからないまま、鉄格子付きの馬車に押し込まれどこかに連行されてしまった。  ベルを連行した責任者は美形軍人のレンブラント・エイケン。  人攫い同然でベルを連行した彼は人相が悪くて、口が悪くて、いささか乱暴だった。  けれど、どうやらそうしたのは事情があるようで。  そして向かう先は牢屋ではなく、とある人の元らしくて。  過酷な境遇で性格が歪み切ってしまった毒舌少女(ベル)と、それに翻弄されながらも毒舌少女を溺愛する他称ロリコン軍人(レン)がいつしか恋に発展する……かもしれない物語です。 ※他のサイトでも重複投稿しています。 ※2020.09.07から投稿を始めていた作品を加筆修正の為取り下げ、再投稿しています。

お兄様の指輪が壊れたら、溺愛が始まりまして

みこと。
恋愛
お兄様は女王陛下からいただいた指輪を、ずっと大切にしている。 きっと苦しい片恋をなさっているお兄様。 私はただ、お兄様の家に引き取られただけの存在。血の繋がってない妹。 だから、早々に屋敷を出なくては。私がお兄様の恋路を邪魔するわけにはいかないの。私の想いは、ずっと秘めて生きていく──。 なのに、ある日、お兄様の指輪が壊れて? 全7話、ご都合主義のハピエンです! 楽しんでいただけると嬉しいです! ※「小説家になろう」様にも掲載しています。

幼妻は、白い結婚を解消して国王陛下に溺愛される。

秋月乃衣
恋愛
旧題:幼妻の白い結婚 13歳のエリーゼは、侯爵家嫡男のアランの元へ嫁ぐが、幼いエリーゼに夫は見向きもせずに初夜すら愛人と過ごす。 歩み寄りは一切なく月日が流れ、夫婦仲は冷え切ったまま、相変わらず夫は愛人に夢中だった。 そしてエリーゼは大人へと成長していく。 ※近いうちに婚約期間の様子や、結婚後の事も書く予定です。 小説家になろう様にも掲載しています。

完)嫁いだつもりでしたがメイドに間違われています

オリハルコン陸
恋愛
嫁いだはずなのに、格好のせいか本気でメイドと勘違いされた貧乏令嬢。そのままうっかりメイドとして馴染んで、その生活を楽しみ始めてしまいます。 ◇◇◇◇◇◇◇ 「オマケのようでオマケじゃない〜」では、本編の小話や後日談というかたちでまだ語られてない部分を補完しています。 14回恋愛大賞奨励賞受賞しました! これも読んでくださったり投票してくださった皆様のおかげです。 ありがとうございました! ざっくりと見直し終わりました。完璧じゃないけど、とりあえずこれで。 この後本格的に手直し予定。(多分時間がかかります)

つがいの皇帝に溺愛される皇女の至福

ゆきむらさり
恋愛
稚拙な私の作品をHOTランキング(7/1)に入れて頂き、ありがとうございます✨ 読んで下さる皆様のおかげです🧡 〔あらすじ〕📝強大な魔帝国を治める時の皇帝オーブリー。壮年期を迎えても皇后を迎えない彼には、幼少期より憧れを抱く美しい人がいる。その美しい人の産んだ幼な姫が、自身のつがいだと本能的に悟る皇帝オーブリーは、外の世界に憧れを抱くその幼な姫の皇女ベハティを魔帝国へと招待することに……。 完結した【堕ちた御子姫は帝国に囚われる】のスピンオフ。前作の登場人物達の子供達のお話に加えて、前作の登場人物達のその後も書かれておりますので、気になる方は是非ご一読下さい🤗 ゆるふわで甘いお話し。溺愛。ハピエン♥️ ※設定などは独自の世界観でご都合主義となります。

身代わりの公爵家の花嫁は翌日から溺愛される。~初日を挽回し、溺愛させてくれ!~

湯川仁美
恋愛
姉の身代わりに公爵夫人になった。 「貴様と寝食を共にする気はない!俺に呼ばれるまでは、俺の前に姿を見せるな。声を聞かせるな」 夫と初対面の日、家族から男癖の悪い醜悪女と流され。 公爵である夫とから啖呵を切られたが。 翌日には誤解だと気づいた公爵は花嫁に好意を持ち、挽回活動を開始。 地獄の番人こと閻魔大王(善悪を判断する審判)と異名をもつ公爵は、影でプレゼントを贈り。話しかけるが、謝れない。 「愛しの妻。大切な妻。可愛い妻」とは言えない。 一度、言った言葉を撤回するのは難しい。 そして妻は普通の令嬢とは違い、媚びず、ビクビク怯えもせず普通に接してくれる。 徐々に距離を詰めていきましょう。 全力で真摯に接し、謝罪を行い、ラブラブに到着するコメディ。 第二章から口説きまくり。 第四章で完結です。 第五章に番外編を追加しました。

追放された悪役令嬢はシングルマザー

ララ
恋愛
神様の手違いで死んでしまった主人公。第二の人生を幸せに生きてほしいと言われ転生するも何と転生先は悪役令嬢。 断罪回避に奮闘するも失敗。 国外追放先で国王の子を孕んでいることに気がつく。 この子は私の子よ!守ってみせるわ。 1人、子を育てる決心をする。 そんな彼女を暖かく見守る人たち。彼女を愛するもの。 さまざまな思惑が蠢く中彼女の掴み取る未来はいかに‥‥ ーーーー 完結確約 9話完結です。 短編のくくりですが10000字ちょっとで少し短いです。

不能と噂される皇帝の後宮に放り込まれた姫は恩返しをする

矢野りと
恋愛
不能と噂される隣国の皇帝の後宮に、牛100頭と交換で送り込まれた貧乏小国の姫。 『なんでですか!せめて牛150頭と交換してほしかったですー』と叫んでいる。 『フンガァッ』と鼻息荒く女達の戦いの場に勢い込んで来てみれば、そこはまったりパラダイスだった…。 『なんか悪いですわね~♪』と三食昼寝付き生活を満喫する姫は自分の特技を活かして皇帝に恩返しすることに。 不能?な皇帝と勘違い姫の恋の行方はどうなるのか。 ※設定はゆるいです。 ※たくさん笑ってください♪ ※お気に入り登録、感想有り難うございます♪執筆の励みにしております!

処理中です...