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「ならいい。いいか?何か言われたら直ぐに俺に言え。俺がそいつ等を八つ裂きにしてやる」
「し!しなくて良いよ!大丈夫だから!」
 発言は一々怖いのもあるが、何故急に、サクヤに対し態度が甘々に変わったのか、2人には意味不明である。
「えっと……ルドはんは、同じ魔法使いが好きって事か?」
 サクヤが魔法使いだと分かってから、態度が変化した気がすると、イマルはレナルドに尋ねた。
「ああ?!魔法使い?前一緒に旅してた魔法使いの奴等は屑で最低のお荷物魔法使いだったぜ!」
 ーーーどうやら推測は違うらしい。
 だとすれば、魔力の暴走。それが、レナルドの態度を変化させた言葉かも知れない。
「何にせよ、サクヤはんーーカリンの事は、絶対に隠してな」
「勿論だよ!僕の性で八つ裂きなんて嫌だよ!」
 2人は小声で、犠牲者を出さないよう大切な事を確認し合った。


「時にルドはん、俺のこともそろそろ名前で呼んでや」
 魚も焼け、流れで3人で食べている最中、自分だけお喋り男と命名されていることに不満のあるイマルは、レナルドに自己談判した。
「黙れお喋り男」
「ひっどいわー」
「……イマル兄ちゃんって、折れないよね。そゆとこ、お姉ちゃんとそっくりじゃない?」
 冷たい対応を取られていてもめげずに向かうイマルの姿を、何度も告白を断られても諦めないリーシャの姿と重ねたのだが、リーシャを指す名称を言った途端、隣のレナルドはギロリと殺意の籠った目でイマルを睨み付けた。
「……ちょっと……止めてくれへんかな?何?俺、八つ裂きにされんの?」
 レナルドが本気を出せば、一瞬で塵になる。
「したい所だがーーそれは出来ねぇ!殺れば、確実にリーシャに嫌われるからな!」
「いや、止めてくれる?!何でそんなに俺に敵意剥き出しなん?俺、何かしたか?」

「それは!お前がリーシャを誑たぶらかしたからだーー!」
 以前も同じ質問をし、前回は途中で口を閉ざしたが、今回は最後まで言い切った。

「誑たぶらかすて……俺、リーシャはんに好きじゃないって言われたやんか」
「あんな嘘が俺に通じると思うのか?!第1、後日親切丁寧に、嘘でした!好きです!って言いに来たさ!」
「……っ」
「うわー。お姉ちゃん、相変わらず素直だね。良かったね!イマル兄ちゃん!」
 自分に対するレナルドの態度が軟化したからか、いつもの様子が戻って来たサクヤは、満面の笑みでイマルを見た。

「ちっ!こんなお喋り男のどこが良いんだか!」
「万年反抗期の男に言われたくありまへん」
「ああ?!」
「ほら、そゆとこでっせ。リーシャはんにも何度も注意されてるやろ。すぐ怒鳴らんと、人と会話しぃ」

 (いちいち、このお喋り男は、俺に関わってくる!)

「……俺の事なんて放っておけば良いものをー!!」
 食事の為に行く酒場では、何かと絡んで来て、一緒に食事をとろうとしたり、あのカリン(馬鹿女)との揉め事を仲裁したりーー俺が酒場で揉め事を起こさなくなるまで、毎日、顔を見せた。

「折角この村の一員になってくれたんやから、出来るなら仲良ーしたいやん?」
 食事を終えたイマルは、ご馳走様でした。と手を合わせた。

「イマル兄ちゃん、お節介でお人好しだけど、優しくて面倒見が良くて、良い人だよ。僕が落ち込んで家に引きこもっていた時も、ずっと、イマル兄ちゃんは家に様子を見に来てくれてたんだ」
「……」
 お節介でお人好し。そのお節介がうざくて、誰にでも良い顔するのがうざい。優しさも、面倒見の良さも、俺には必要無い。
 俺には必要無いーーーが。
 (リーシャには必要なのか…)

「……くそっ!あの糞息子よりマシか……」
 言いながら、苦虫を噛み潰したような顔で、髪を乱暴に掻き毟った。

「糞息子?」
「リーシャを狙ってたどーしーよーもねークソ男だよ!親子揃って屑のな!」
「お姉ちゃん、モテモテだね」
「ふん。あいつ等はリーシャ本人なんて見てねーよ!ただ、自分の価値を上げたいだけで、結婚に持ち込もうとするよーな屑男だ!」
「結婚?!」
 結婚のワードが出た事に、サクヤは思わず大きな声を上げた。

 聖女と結婚する事で得られる名声が欲しい。その為に、聖女を甘やかし、必要以上に贅沢な生活をさせ、他の誰かを好きにならないようにと、王族以外の者達との会話を制限させた。
 そして、あの日ーー聖女が聖女の地位を捨てると宣言した日ーー本当は、聖女に王子との結婚を沢山の証人のいる前で求めさせ、聖女から、王子に求婚し、結ばれる。という、完全に向こう本意な展開を望んでいた。
 わざわざレナルドを遠くの任務に付かせ、邪魔をさせないようにして。

「…ふーん。リーシャはん、やっぱり何か特別やねんな」
「ノルゼスも来たんだろ?あいつは馬鹿だから、リーシャの幸せがどーたらと言いながら、望んでないのに元いた場所に帰るよう声でもかけたんだろ」
 お見事。正解。
「ノルゼスが来た時点で、リーシャがただ者じゃないのは、お前なら薄々勘づいてるだろ」
「そりゃ、あんだけ過保護で、何も出来ひんかったら、何かあるやろなーとは思うけど、何者かは分からへんで。どっかのお姫様なんかな?とかか?なーんて」
「……俺は何も答えない。リーシャがそれを望んでいない」
 一応、冗談でつもりで言ってみたのだが、あながち間違ってはいないような反応をされる。


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