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しおりを挟む「…へー、ルドはんと…」
ルドの名前を出した瞬間、何故か、イマルの雰囲気が一瞬ピリッとした気がした。
「えっと、それで、イマルとサクヤにお願いがあるのですが…」
「なんや?」
次に言葉を続けると、イマルはいつもの表情に戻っていて、リーシャはホッと胸を撫で下ろした。
「彼も私と同じく、1人で生活した事の無い人なんです。だから、きちんと生活出来るかが心配で……なので、私と一緒に、様子を見に行ってくれませか?」
ここに来るまでの道中、リーシャは考えた。
初めは、2人に迷惑はかけられないと、自分達だけで頑張ろうと考えていたが、どう考えても、泥沼にハマっていく姿しか想像が出来ない。
自分の事で精一杯な私が、人様に家事を教えれるはずが無い。それが最終的に出た結論だった。
「あ!でも、勿論、迷惑なのでしたら、断って頂いても大丈夫ですので……!」
「えーよ」
「僕も、イマル兄ちゃんとお姉ちゃんがいるなら大丈夫だよ」
「良かった…」
あっさりと了承の返事が返ってきて、安心する。
「俺は元から、後でちょっと様子見に行こかと思てたしな」
言われてみれば、私が村に引っ越して来た時も、いの一番に様子を見に来てくれて、助けてくれました。あれ?もしかして、私が何もしなくても、初めからイマルが助けに行っていたって事ですね。
余計な事しました……。城の関係者とは出来るだけ関わらないように……は、無理ですよね。村に引っ越して来てしまった以上、狭い村。協力し合って生きて行くのは、当然です。
(それに、ルドはーーー)
ノルゼスの時のような、城に連れ戻そうとしてるような感じが、何となくですが、しない。
本当に城を捨て、この村に引っ越してきたように感じる。
「ま、折角昔の仲間に会えたんやから、ノルゼスはんの時と同じように仲良うなれたらえーな」
「……そう。ですね」
ノルゼスと、あんな風に、綺麗にお別れが出来る事になるとは思っていなかった。私の事を理解して貰う事なんて出来ない。諦めていた。
「……私が、ノルゼスとああやって分かり合えたのは、イマルのおかげです」
イマルがいなければ、きっと、あのまま仲違いしたまま、お別れした。
「本当にイマルは素敵な人です!」
「ーーああ、そう」
一直線に褒められる事に多少慣れたとしても、照れるのは照れる。下手に否定しても更に褒め倒されるのは分かっていたので、イマルは頬を少し赤らめながら、素直に頷いた。
「イマル兄ちゃんって、何でお姉ちゃんと付き合って無いの?」
「ゴホッ!ゲホッ!」
サクヤ手作りの魚料理を堪能し終え、怪我人が出たと一旦離脱したリーシャを除き、2人で仲良く皿洗いをしてる中、サクヤはイマルに向かい尋ねた。
「何なんや急に!」
「だってお姉ちゃん、どう見たってイマル兄ちゃんの事好きだし……イマル兄ちゃんだって、お姉ちゃんの事好きでしょ?」
「!すーー好きや無い!」
「ほら、一瞬間があった」
ジトーと睨んでくるサクヤの視線に、イマルは顔を背けた。
「別にいいけど……イマル兄ちゃんがそんな余裕の態度とってる間に、お姉ちゃんが他の男に取られても知らないからね」
「他の男て…」
「現在進行形でいるよ。ルドって人!ノルゼスさんもだし!」
「ノルゼスはんはちょっと違うくないか?何か、恋愛感情って言うよりかは、仕える主に対する忠誠心みたいなもんを感じたで」
生真面目な彼はリーシャに対して盲目的な親愛を持ってはいるが、邪な目で見た事は無い。
「ノルゼスさんの時と違って、ルドさんはこの村に引っ越して来たから、お姉ちゃんがいなくなる事はなさそうだから、まだいいけどーー」
皿洗いを終え、サクヤは手をタオルで拭いた。
「僕はイマル兄ちゃんも好きだから、何処の馬の骨に取られるよりかは、イマル兄ちゃんを応援してるね!」
「…ああ、そう…」
これ以上何を言っても話が長引くだけだと分かったので、イマルは素直に頷いた。
新しくレナルドの家となったのは、サクヤの家がある場所からが1番近かった。魔法使いである事を考慮されたのか、リーシャの家よりか大きく、庭も広い。
リーシャも初めから回復魔法を使えると示していれば、今より多少だが立派な家に住めたかもしれないが、リーシャ自身は今の家を気に入っているので問題無い。
「ルド、居ますか?」
約束を取り付けていたリーシャが、扉をノックする。が、中から返答は無い。
「留守でしょうか?」
「お姉ちゃんが来るって約束してたのに?お姉ちゃんとの約束を何よりも優先しそうな感じだったけど」
ちなみに、レナルドの家の場所はイマルが前持って調べていてくれたので、予定より早く辿り着いた。本当は、村長の所へ寄って、村で提供した家の場所を聞いてから向かうつもりだった。
「あ、でも、そう言えば、ルドはよく寝坊していた気がします」
そのせいで冒険が何度も止まったり、怒ったノルゼスが、レナルドを置いていきましょう!と、その場に放置した事もあった。
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