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しおりを挟む村娘生活3ヶ月2日目ーーー。
あの後、雨風が落ち着くまで2人はリーシャの家に滞在し、落ち着いてから、イマルとリーシャはゲンを家まで送り届けた。
家の前、心配そうに俯いたまま、帰りを待っていたサクヤは、ゲンの姿を見付けると、涙を目に溜めたまま、怒りの説教タイムに突入した。
折り良く、次の日は晴天に恵まれ、リーシャはゲンの怪我の様子を見に、サクヤの家に訪れた。
「お姉ちゃん!本当にごめんね。何から何まで迷惑かけてー」
「気にしないで下さい。ゲンさんが元気になるのが、1番ですから」
頭を下げ、謝罪するサクヤに、リーシャは笑顔で答えた。
「ううっ。本当に優しいなリーシャは」
布団に寝転びながら、涙を流して感激するゲン。
どうやら、あれからも、サクヤを筆頭に、ゲンを心配した村の人達に、無茶をするなと散々怒られたらしい。
「じいちゃん!今は絶対安静なんだよ!動いちゃ駄目!」
「す、少し体を動かすくらいはーー」
「駄目!!」
当のゲンは、体が動かせない事が苦痛らしく、目を盗んでは、腕立てや、腹筋、あろう事か、歩く練習まで始めようとしているようで、目が離せないとサクヤは不満を漏らした。
今も、布団から起き上がり、リーシャの元まで歩こうとしていた。
「折角傷を治しましたし、少なくとも後、数日は、傷がしっかりくっつくまで安静にしていた方が良いと思いますよ」
回復魔法をかけたとはいえ、リーシャの力では完治出来ていない。勿論、痛みも残っている。
本人は痛みは引いた、痛くないと言い張っているが、最悪、二度と歩けなくなるかもしれないような大怪我だったのだ。痛くない筈が無い。にも関わらず、逆にここまで動けているゲンに、ある意味関心する。
「聞いた?お姉ちゃんには本当にお世話になってるんだから、ちゃんとお姉ちゃんの言う事聞いてよね!」
「分かった…」
ゲンは諦めて、布団に戻った。
回復魔法がきちんと作用されているのを確認し終えると、リーシャはサクヤと一緒に、サクヤの用意した紅茶とお茶菓子を頂いた。
「早ければ2週間程で完治すると思いますよ」
「ほんと?良かった…」
安堵の表情を浮かべるサクヤ。
当然だ。病気で両親を亡くしたサクヤにとって、唯一の身内で、愛情を精一杯注いでくれる人なのだから、どれだけ怒っていても、その根本には、愛情がある。
「ところで、イマルの家の場所、サクヤは知っていますか?」
「勿論知ってるけど……お姉ちゃん、今まで知らなかったの?」
小さい規模の、村人は皆、顔見知りの村。加えて、仲良さそうに見えたリーシャが、未だにイマルの家の場所を知らなかった事に、驚いた。
「知りませんでした。聞いていませんでしたし、イマルが尋ねてくれる事が多かったので」
優しい彼は、初めて村に来た当初から、様子を気にかけ、何度も家に顔を見せに来てくれた。
「言われてみれば……僕の家に来てくれるばっかりで、僕もイマル兄ちゃん家に行った事、祭りの時以外無いや」
玄関から先に上がった事も無い。
「イマル兄ちゃんに何か用なの?」
「いえ。昨日、雨風に打たれて、体がびしょ濡れになっていたので、体調が心配になって……様子を見に行きたいと思いました」
本人は平気だと言っていたが、心配は心配。
いつも気にかけてくれているのだから、たまには、こちらが気にかけても、文句は無いだろう。
「確かに……兄ちゃん、体びちょびちょだった」
サクヤに心配かけさせまいと、わざわざ雨風強い中、サクヤにゲンの安否を知らせに行き、リーシャ1人にゲンを任せっきりにならないよう戻って来て、小雨になると、家までゲンを送り届けた。
「僕も一緒に行きたいけど……」
気がかりは、ゲン。
目を離せば、どれだけ自由に体を動かすか、分かったもんじゃ無い。
「大丈夫ですよ。元気なら、少し顔を見て帰るだけですし。元気じゃ無ければーーー」
はっ。と、言葉が止まる。
「お姉ちゃん?」
「……元気じゃ無ければ……どうすれば良いのでしょう?」
そもそも、自分の世話だって満足に出来ないのに、人の看病なんて、私に出来るのでしょうか?勿論、看病をした経験は有りませんし…。
「急に怖くなって来たよ、僕」
ここまでで、リーシャが何も出来ないのは、サクヤも充分理解している。人の看病なんて出来るはずが無い。
「普通、病人には何をするものなのですか?」
「何って……お姉ちゃんが病気になった時にして貰った事をすればーー」
「私がして貰った事ーー」
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