世界を救いし聖女は、聖女を止め、普通の村娘になり、普通の生活をし、普通の恋愛をし、普通に生きていく事を望みます!

光子

文字の大きさ
上 下
53 / 82

53

しおりを挟む


  村娘生活3ヶ月目ーーー。



  祭りが終わり、ノルゼスが去り、村には、いつもの穏やかな日常が戻った。

「今日は雨ですね…」
  自宅で窓を眺めながら、リーシャは呟いた。

  ザーザー降りの雨の日は、外に出て何かを作業する事は難しくなるので、山菜集めや、狩りには行けない。庭で畑の作業をするのも、雨が降っているから水やりはしなくて良いし、手入れは億劫。

「何をしましょう」
  家の掃除は、まだまだ苦手だが、ある程度の綺麗さは保てるようになった。洗濯は、この雨では出来ない。
「少し早いですが、お昼の支度でもしましょうか」
  リーシャはそう言うと、キッチンに向かった。

  基本的に生活能力皆無のリーシャだが、特に料理は苦手で、サクヤに時々教わっているものの、中々上達が見られない。
  今日も不慣れな包丁さばきで、野菜や、お肉を切る。
「後はーー焼きましょう」
  何とか丸焦げにならないように、火加減を見ることは出来るようになった。
  味付けは変につけようとしてしまうと、分量が掴めないリーシャは、多く入れ過ぎてしまったり、薄味になったり、何とも言えない味(不味い)になったりと、ろくな結果にはならない。

  1度、サクヤの前で味付けの為、醤油を丸ごと1本入れようとしたら、必死に止められた。
  なので、基本、素材の味のみで召し上がる。


  切った野菜をフライパンに移し、火をつける。
「♪上達しました。サクヤのおかげですね」
  切り口も大きさもバラバラの乱雑な野菜達を、フライパンで焼く単純な作業に見えるが、ここまでの道のりも長く険しいもので、サクヤの指導のもと、努力の結果である。

  苦手だが、料理をする事自体は嫌いでは無いので、リーシャは終始機嫌良く体を動かし、食材に火が通ると、お皿の上に、野菜炒め(味付け無し)を乗せた。

「完成しました」
  自分の作った料理を目の前に、感激する。

(とても嬉しいです!黒焦げになっていないですし、火を使ってちゃんと料理が出来上がらせる事が出来たなんてーー!)

  味はどうあれ、本人的には大変満足な品。

  完成した料理をテーブルに運ぶと、リーシャも椅子に着席し、手を合わせた。
「頂きます」 
  挨拶をし、早速1口、口に運ぼうとした所で、扉を叩く音が聞こえた。



「リーシャはん!おるか?!」
「イマル?」

  聞こえてきたのは、お馴染みのイマルの声だが、いつもと様子が違い、声色が焦っているように聞こえた。

「どうされましたか?」
  急いで扉を開けると、雨でずぶ濡れになったイマルが、同じく、ずぶ濡れになったゲンに肩を貸しながら立っていた。

「怪我人や。すまんけど、治したってくれへんか?」
「ゲンさん!」
  見ると、ゲンの足から、血が流れていて、リーシャは慌てて、2人を部屋に招き入れた。


  ポウッと、回復の魔法を唱える。

「ほんま……こんな雨の中、無茶しようとするからや」
「面目無い」

  話を聞くと、この雨の中、山菜を取りに1人で村を出たが、足を滑らせてしまい、怪我をしてしまったらしい。


  たまたま、サクヤに用事のあったイマルが、サクヤの家を訪れると、雨の中出掛けてしまったゲンを心配したサクヤに、ゲンが1人で山菜を取りに行ってしまった事を教えられ、様子を見に行いくと、怪我をしたゲンを見付け、ここまで連れてきた。

「後でサクヤはんにもみっちり怒ってもらうからな」
「…ああ、分かった…」
  イマルに強めに怒られ、孫にも後で怒られる未来が確定し、ゲンは小さく縮こまった。

  確かに危険な事なので、今回はきちんと怒られて、反省された方が良いですね。と、リーシャも思い、ゲンを庇う事はしなかった。


「終わりました」
  汗を拭い、魔法を止める。
  怪我の程度は思ってる以上に酷く、治療が少しでも遅れていれば、歩けなくなっていたかもしれない。

「ごめんなさい。私の回復魔法では、これが限界です…」

  きちんと完治した訳では無く、あくまで、症状を良くしただけ。それ程、酷い怪我で、基本的な回復魔法しか使えないリーシャには、これが限界だった。


「いや、大分良くなった。痛みが少し引いたし、感覚がある…!本当にありがとうな、リーシャ!」
  完治させる事は出来なかったが、きちんと安静にしていれば、普通に歩く事も出来るようになる。

「いえ。お役に立てたのなら、幸いです」
「俺とリーシャはんに感謝しーや!」
「イマルにも勿論感謝してる!恩に着る!ありがとうなイマル!」

  ゲンは深々と頭を下げ、2人にお礼を述べた。



しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【コミカライズ2月28日引き下げ予定】実は白い結婚でしたの。元悪役令嬢は未亡人になったので今度こそ推しを見守りたい。

氷雨そら
恋愛
悪役令嬢だと気がついたのは、断罪直後。 私は、五十も年上の辺境伯に嫁いだのだった。 「でも、白い結婚だったのよね……」 奥様を愛していた辺境伯に、孫のように可愛がられた私は、彼の亡き後、王都へと戻ってきていた。 全ては、乙女ゲームの推しを遠くから眺めるため。 一途な年下枠ヒーローに、元悪役令嬢は溺愛される。 断罪に引き続き、私に拒否権はない……たぶん。

雪解けの白い結婚 〜触れることもないし触れないでほしい……からの純愛!?〜

川奈あさ
恋愛
セレンは前世で夫と友人から酷い裏切りを受けたレスられ・不倫サレ妻だった。 前世の深い傷は、転生先の心にも残ったまま。 恋人も友人も一人もいないけれど、大好きな魔法具の開発をしながらそれなりに楽しい仕事人生を送っていたセレンは、祖父のために結婚相手を探すことになる。 だけど凍り付いた表情は、舞踏会で恐れられるだけで……。 そんな時に出会った壁の花仲間かつ高嶺の花でもあるレインに契約結婚を持ちかけられる。 「私は貴女に触れることもないし、私にも触れないでほしい」 レインの条件はひとつ、触らないこと、触ることを求めないこと。 実はレインは女性に触れられると、身体にひどいアレルギー症状が出てしまうのだった。 女性アレルギーのスノープリンス侯爵 × 誰かを愛することが怖いブリザード令嬢。 過去に深い傷を抱えて、人を愛することが怖い。 二人がゆっくり夫婦になっていくお話です。

裏切られた令嬢は死を選んだ。そして……

希猫 ゆうみ
恋愛
スチュアート伯爵家の令嬢レーラは裏切られた。 幼馴染に婚約者を奪われたのだ。 レーラの17才の誕生日に、二人はキスをして、そして言った。 「一度きりの人生だから、本当に愛せる人と結婚するよ」 「ごめんねレーラ。ロバートを愛してるの」 誕生日に婚約破棄されたレーラは絶望し、生きる事を諦めてしまう。 けれど死にきれず、再び目覚めた時、新しい人生が幕を開けた。 レーラに許しを請い、縋る裏切り者たち。 心を鎖し生きて行かざるを得ないレーラの前に、一人の求婚者が現れる。 強く気高く冷酷に。 裏切り者たちが落ちぶれていく様を眺めながら、レーラは愛と幸せを手に入れていく。 ☆完結しました。ありがとうございました!☆ (ホットランキング8位ありがとうございます!(9/10、19:30現在)) (ホットランキング1位~9位~2位ありがとうございます!(9/6~9)) (ホットランキング1位!?ありがとうございます!!(9/5、13:20現在)) (ホットランキング9位ありがとうございます!(9/4、18:30現在))

政略より愛を選んだ結婚。~後悔は十年後にやってきた。~

つくも茄子
恋愛
幼い頃からの婚約者であった侯爵令嬢との婚約を解消して、学生時代からの恋人と結婚した王太子殿下。 政略よりも愛を選んだ生活は思っていたのとは違っていた。「お幸せに」と微笑んだ元婚約者。結婚によって去っていた側近達。愛する妻の妃教育がままならない中での出産。世継ぎの王子の誕生を望んだものの産まれたのは王女だった。妻に瓜二つの娘は可愛い。無邪気な娘は欲望のままに動く。断罪の時、全てが明らかになった。王太子の思い描いていた未来は元から無かったものだった。後悔は続く。どこから間違っていたのか。 他サイトにも公開中。

王妃の仕事なんて知りません、今から逃げます!

gacchi
恋愛
側妃を迎えるって、え?聞いてないよ? 王妃の仕事が大変でも頑張ってたのは、レオルドが好きだから。 国への責任感?そんなの無いよ。もういい。私、逃げるから! 12/16加筆修正したものをカクヨムに投稿しました。

この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。

鶯埜 餡
恋愛
 ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。  しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが

将来を誓い合った王子様は聖女と結ばれるそうです

きぬがやあきら
恋愛
「聖女になれなかったなりそこない。こんなところまで追って来るとはな。そんなに俺を忘れられないなら、一度くらい抱いてやろうか?」 5歳のオリヴィエは、神殿で出会ったアルディアの皇太子、ルーカスと恋に落ちた。アルディア王国では、皇太子が代々聖女を妻に迎える慣わしだ。しかし、13歳の選別式を迎えたオリヴィエは、聖女を落選してしまった。 その上盲目の知恵者オルガノに、若くして命を落とすと予言されたオリヴィエは、せめてルーカスの傍にいたいと、ルーカスが団長を務める聖騎士への道へと足を踏み入れる。しかし、やっとの思いで再開したルーカスは、昔の約束を忘れてしまったのではと錯覚するほど冷たい対応で――?

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

処理中です...