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しおりを挟む村娘生活3ヶ月目ーーー。
祭りが終わり、ノルゼスが去り、村には、いつもの穏やかな日常が戻った。
「今日は雨ですね…」
自宅で窓を眺めながら、リーシャは呟いた。
ザーザー降りの雨の日は、外に出て何かを作業する事は難しくなるので、山菜集めや、狩りには行けない。庭で畑の作業をするのも、雨が降っているから水やりはしなくて良いし、手入れは億劫。
「何をしましょう」
家の掃除は、まだまだ苦手だが、ある程度の綺麗さは保てるようになった。洗濯は、この雨では出来ない。
「少し早いですが、お昼の支度でもしましょうか」
リーシャはそう言うと、キッチンに向かった。
基本的に生活能力皆無のリーシャだが、特に料理は苦手で、サクヤに時々教わっているものの、中々上達が見られない。
今日も不慣れな包丁さばきで、野菜や、お肉を切る。
「後はーー焼きましょう」
何とか丸焦げにならないように、火加減を見ることは出来るようになった。
味付けは変につけようとしてしまうと、分量が掴めないリーシャは、多く入れ過ぎてしまったり、薄味になったり、何とも言えない味(不味い)になったりと、ろくな結果にはならない。
1度、サクヤの前で味付けの為、醤油を丸ごと1本入れようとしたら、必死に止められた。
なので、基本、素材の味のみで召し上がる。
切った野菜をフライパンに移し、火をつける。
「♪上達しました。サクヤのおかげですね」
切り口も大きさもバラバラの乱雑な野菜達を、フライパンで焼く単純な作業に見えるが、ここまでの道のりも長く険しいもので、サクヤの指導のもと、努力の結果である。
苦手だが、料理をする事自体は嫌いでは無いので、リーシャは終始機嫌良く体を動かし、食材に火が通ると、お皿の上に、野菜炒め(味付け無し)を乗せた。
「完成しました」
自分の作った料理を目の前に、感激する。
(とても嬉しいです!黒焦げになっていないですし、火を使ってちゃんと料理が出来上がらせる事が出来たなんてーー!)
味はどうあれ、本人的には大変満足な品。
完成した料理をテーブルに運ぶと、リーシャも椅子に着席し、手を合わせた。
「頂きます」
挨拶をし、早速1口、口に運ぼうとした所で、扉を叩く音が聞こえた。
「リーシャはん!おるか?!」
「イマル?」
聞こえてきたのは、お馴染みのイマルの声だが、いつもと様子が違い、声色が焦っているように聞こえた。
「どうされましたか?」
急いで扉を開けると、雨でずぶ濡れになったイマルが、同じく、ずぶ濡れになったゲンに肩を貸しながら立っていた。
「怪我人や。すまんけど、治したってくれへんか?」
「ゲンさん!」
見ると、ゲンの足から、血が流れていて、リーシャは慌てて、2人を部屋に招き入れた。
ポウッと、回復の魔法を唱える。
「ほんま……こんな雨の中、無茶しようとするからや」
「面目無い」
話を聞くと、この雨の中、山菜を取りに1人で村を出たが、足を滑らせてしまい、怪我をしてしまったらしい。
たまたま、サクヤに用事のあったイマルが、サクヤの家を訪れると、雨の中出掛けてしまったゲンを心配したサクヤに、ゲンが1人で山菜を取りに行ってしまった事を教えられ、様子を見に行いくと、怪我をしたゲンを見付け、ここまで連れてきた。
「後でサクヤはんにもみっちり怒ってもらうからな」
「…ああ、分かった…」
イマルに強めに怒られ、孫にも後で怒られる未来が確定し、ゲンは小さく縮こまった。
確かに危険な事なので、今回はきちんと怒られて、反省された方が良いですね。と、リーシャも思い、ゲンを庇う事はしなかった。
「終わりました」
汗を拭い、魔法を止める。
怪我の程度は思ってる以上に酷く、治療が少しでも遅れていれば、歩けなくなっていたかもしれない。
「ごめんなさい。私の回復魔法では、これが限界です…」
きちんと完治した訳では無く、あくまで、症状を良くしただけ。それ程、酷い怪我で、基本的な回復魔法しか使えないリーシャには、これが限界だった。
「いや、大分良くなった。痛みが少し引いたし、感覚がある…!本当にありがとうな、リーシャ!」
完治させる事は出来なかったが、きちんと安静にしていれば、普通に歩く事も出来るようになる。
「いえ。お役に立てたのなら、幸いです」
「俺とリーシャはんに感謝しーや!」
「イマルにも勿論感謝してる!恩に着る!ありがとうなイマル!」
ゲンは深々と頭を下げ、2人にお礼を述べた。
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