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しおりを挟む村娘生活祭り当日ーーー。
普段は比較的静かな村だが、この日は、子供達を中心に、明るい笑い声が響く。
村の子供達が集まり、1軒1軒、家を周り、飾り付けを見て歓喜の声を上げ、お菓子を貰う。
「イマルんとこ、去年と同じ飾りじゃん」
「やかましいわ。ほれ」
家に来た子供達に、玄関先に置いた簡易な人形を見せ、イマルはお菓子を手渡した。
「あんがと!」
お菓子を渡された少年少女は、嬉しそうにお礼を言うと、次の家に向かった。
「イマル兄ちゃん」
「サクヤはん」
1人、子供達の輪から離れ、遅れて、ゲンと一緒にサクヤが顔を見せた。
「なんだ、お前、今年も手抜きしとるんか」
「毎年毎年、こんな面倒くさい事やってられんわ」
想定通り、ゲンに小言を言われた。
子供達が家を回る順番は予め決められており、ゲンの所はもう終わったようで、サクヤと一緒に、イマルの所に来たのだろう。
「イマル兄ちゃん、ごめんね。今日はよろしくお願いします」
「えーで。俺も見て周りたかったし」
少し前まで引き篭っていたサクヤは、イマルやリーシャ、ゲンと一緒じゃないと、また外には出られず、他の子供達と一緒に行動する事が出来ない。
その為、イマルがサクヤの付き添いで、一緒に村を回る事になった。
「すまんなイマル。ワシが付き添うと言ったんじゃが…」
「やだよ!じいちゃんと一緒に回るなんて…!恥ずかしいじゃんか!」
思春期8歳。保護者同伴は少し照れ臭い年頃。
「俺んとこも終わったし、ほな行こか」
「うん!ありがとうイマル兄ちゃん」
イマルはサクヤにお菓子を手渡すと、家を出た。
「僕、お姉ちゃんに会うの久しぶりなんだ」
「そーなんか」
村の人達から貰ったお菓子の、ペロペロキャンディを舐めながら、サクヤは嬉しそうに話した。
「お姉ちゃん、体力配分おかしいでしょ?祭りの準備で忙しそうなのに、僕の所にも顔出そうとするし……だから、お祭りが終わるまで、来ないでいいよって言ったんだ」
どれだけ寝不足でもやる事が多くても、リーシャは隙を見付けては、サクヤの所に顔を出していたが、顔色の悪いリーシャを心配し、サクヤは、NGを出した。
「一時期フラフラやったからなぁ」
「そう。だから、久しぶりに会えるの、嬉しいんだ」
リーシャの顔色を伺い、相手を気遣う対応をするサクヤ。
「8歳の子でも、こんなに空気読めんのに…」
「何か言った?イマル兄ちゃん」
「いや?何もあらへんで」
ボソッと呟いたのは、空気の読めないノルゼスの事。
思い込んだら一直線なのか、周りの様子、顔色、表情、喜怒哀楽、何も読まない。
「あ!あれ、ノルゼスさんじゃない?」
口にすれば、サクヤが張本人であるノルゼスを見付け、指さした。
「何しとんや…」
1人、広場の真ん中で、負のオーラ満開で体操座りで蹲っているノルゼス。
「え…何?何かあったのかな?」
陽気な雰囲気から1人取り残されているその姿は、リーシャを巡る件で敵対していたサクヤも心配になるレベルで、ある意味怖い。
(昨日からずっとあの調子なんか……)
流石に、リーシャの家の近くからは離れた様だが、村の中心である広場に居座るのも止めて欲しい。周りの村人達も、触れていいものなのかなんなのかが分からずに、戸惑っているように見えた。
「おーい。ノルゼスはん」
「ああ…イマル君か」
声をかけられて上げた顔は、昨日よりも生気が無い。
「とりあえず、そこから離れよか。結構な邪魔になってんで」
イマルは一先ず、ノルゼスを連れ、広場から離れた。
「すまない……もう朝になってたんだな」
どんだけ落ち込んでんねん。と、内心つっこむ。
「何かあったの?大丈夫?元気出して」
何も知らないサクヤは、ノルゼスに向かい、励ましの言葉を送る。
「…ありがとう…確か君は…」
「サクヤはんや」
「そう、サクヤ君だね。リーシャと一緒にいた……」
昨日同様、サクヤの事も、今初めて認識する。
「私はーー最低な人間なんだーー」
「ええ?!ど、どうしたの?!」
思いっきり暗い言葉を吐き、サクヤを思いっきり心配させる。
「それについてはそうやと思うから、サクヤはんもそんな心配せんでええで」
リーシャを戻る様に説得する次いでに、村の悪口を言い、リーシャを傷付け、悲しませた。
「な、何?何があったの…?」
メソメソと泣くノルゼスを前に、何も知らないサクヤは、ただ困惑したーー。
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