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「私には、ノルゼスがどんな人なのか、どう考えているのかなんて、何一つ分かりません」
  一緒に冒険もしたし、城でも一緒に過ごして来たが、それはただ、一緒の空間にいただけで、何も、関係性を築けていない。


「どうして……私を、元の場所に連れ戻そうとするのかも、私には分からないんです」


  活気のある王都の中でも、豪華で絢爛な城ーーーだけど、私にとっては、とても無機質な場所へーーー。


「ーー連れ戻す?リーシャはん、帰るの?」
  ピクっと、イマルは、リーシャの言葉に反応した。

「絶対に帰りません」
  リーシャは、イマルの問いを即答で否定した。

  自分から望んで、ここに来たのだ。そして今現在、とても楽しく過ごしているのに、帰る筈が無い。帰りたくなんて無い。


「私は……帰りたく無いんです……ここに、いたいんです」
  言っていて、また、涙が頬を伝った。

  弱さを見せずに生きてきたはずなのに、全く涙が止まらなくて、次から次へと溢れる。泣いた事が無いから、止め方が上手く、分からない。


「ーー帰らんといてや」
「え?」

  気付けば、傍に来ていたイマルに頬を伝う涙を拭われーーー何故だか、私に向ける眼差しに、心臓が大きくなった。



「帰ったらーーーあれや、寂しいやろ!サクヤはんが!」
「っぅ!え、あ、そうですよね、サクヤですよね!サクヤ……寂しがって、くれるでしょうか?」

  イマルの眼差しと、頬に触れられた手もですけど、私に、いなくなるなって言ってくれてると勘違いして、心臓が破裂しそうな位、ドキドキしてる。

(早とちり!これが早とちりですね!恥ずかしい!)
  リーシャは真っ赤に染まった頬に触れながら、悶絶した。


「サクヤだけじゃなくて、村の皆も、寂しがると思うで」
「皆……イマルもですか?」

  早とちりしましたが、口にしてくれたら、とても嬉しい。ので、勢いのまま、欲張ってみることにしました。

「相変わらずぐいぐい来んな…」
「寂しい。ですか?」
  期待を込めて、リーシャはイマルを見上げた。
  目に残る涙に、上目遣い。リーシャは全く意図していないが、かなりあざとい。


「ーーリーシャはんも心が読めるようになったら分かるんとちゃう?」
「ええ!?やっぱりイマルは心が読めるのですか?」
「んな訳あるか」
 イマルは優しくリーシャの頭を叩いて、ツッコミを入れた。


「今日はありがとうございました。イマル」
 話を聞いてもらい、気持ち的に少し落ち着いたリーシャは、今度は、本来の笑顔で、イマルを見送る為に玄関に立った。

「おお。ま、ノルゼスはんの事はまたおいおい考えてこか」
 無理矢理リーシャを元の場所に連れ戻す。なんて事になったら大問題だが、今の所そう言った様子は無い。
 結局は、ノルゼスの誘いを、向こうが諦めるまで断り続けるしか無い。

「はい」
 私は絶対にこの村から離れる気が無いので、例え何を言われようとも、頷く事は無い。
 私の大好きな村や人達の事を馬鹿にしたのは許せませんので、早く冒険に戻って欲しいと切に願っています。

「明日はいよいよ祭り当日やし、皆、喜んでくれるとええな」

「はい」
 この日のために、子供達に喜んで貰う為に、一生懸命頑張って来たので、少しでも喜んでくれたなら、とても嬉しい。
 明日はノルゼスの事は忘れて、お祭り事だけ考えましょう。


「ほな、また明日」
「はい。また、明日お会いするのを楽しみにしてます」




 挨拶を交わすと、そのまま、イマルはリーシャの家を後にした。
 薄暗くなった道を、一人、自分の家に向かい歩こうと、足を進めーーーた所で、リーシャの家から少し離れた場所。小さくうずくまっている人影を見付けて、驚いて足を止めた。

「うお!ビックリした…何?ノルゼスはんか?」
 小さくうずくまっている塊の正体は、負のオーラを漂わせたノルゼスの姿だった。

「えっと…ノルゼスはん、何してんの?」
 イマルは、うずくまって小さくなっているノルゼスに近寄ると、しゃがみ込み、目線を合わせた。正確には、顔を隠してうずくまっているので目線は合っていないが、高さを合わせた。

「君は確か…リーシャと一緒にいた…」
 俯いていた顔を上げ、イマルを見る。
 その表情はこの世の終わりともいえるような、落ち込んだ表情をしていた。

「イマルや」
「イマル…そうか。イマルか…」

 最初にリーシャに紹介され、一緒に狩りにも行った筈だが、ノルゼスは今初めて、イマルを認識したように名前を呟いた。
「もう一度聞くけど、何してんの?大分怪しいでっせ」
  大の大人が薄暗い中、道の端で体操座りでうずくまっているのだ。何も知らない人が通れば、先のイマルように悲鳴が上がる。


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