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しおりを挟むバタンっ!!
ノルゼスを追い出すと、リーシャは扉を背に、我慢が出来ず、涙が頬を伝った。
「っぅ!う…う!」
手にある、壊れたどんぐりの破片を見ると、また、涙がとめどなく溢れた。
(酷い…酷い…!)
一生懸命作った物だった。
(私の、大切な家なのにーー!)
初めて出来た、自分が自由に過ごせる場所。
(皆……優しい……大好きな……人達、なのに……!)
他所から来た私を、快く迎えてくれて、顔色が悪ければ心配してくれるような、優しい人達。
初めて出来た友達。初めて出来たーー好きな人。
その全てを否定された。
「っぅ」
(泣いたら駄目)
聖女は強くなければならないから、涙を流すなど、以ての外。
トントントン。
「リーシャはーん、生きてるー?」
「!イマル…」
扉のノックに体を震わせるが、すぐにイマルの声が聞こえ、安堵する。
優しい彼は、睡眠不足になった私を心配して、あれから定期的に様子を見に来てくれているから、祭りの前日の今日、また、様子を見に来てくれたのだろう。
ただでさえ、心配をかけてしまっているのに、これ以上、心配をかけたくない……。
(大丈夫。弱さを見せないように振る舞うのは、得意です)
聖女としての経験を今こそ生かす時!
リーシャはぐいっと、涙を拭った。
「今、開けますね」
リーシャは笑顔で扉を開けると、イマルを家に招き入れた。
「イマル、今日も様子を見に来てくれたんですね」
「まぁな。明日祭りやし、1番無茶しそうな時期やからな」
「ありがとうございます」
そのまま、リーシャは来てくれたイマルに向け、お茶を入れようと、コップを用意した。
お茶を入れるのは大分、上手に出来るようになった。
イマルは、家に入ると、テーブルの前の椅子に腰掛け、周りを見渡した。
「へぇ。頑張ったんやな、完成してるやんか」
「…頑張った…」
部屋には、リーシャが頑張って作ったアクセサリーやキーフォルダーがあちらこちらに飾られていて、普段とは違う雰囲気がした。
「ーはい!イマルが色々手伝ってくれたおかげで、きちんと睡眠時間もとれるようになりました」
私の睡眠不足を心配したサクヤ含む村の人達に、睡眠の大切さと効率を説かれたので、少なくとも5時間はとるようにしている。
「俺は別に何もしてないけどな。祭りの準備なんて一切触って無いし」
イマルは手先が器用だから、きっと、本当は、私よりも上手に作れるはずなのに、細かな作業が苦手だと、イマルは祭りの準備である、アクセサリー作りを手伝ってくれる事は無かった。
私が、自分できちんとやり遂げるのを、見守ってくれていた。
「充分過ぎるくらい、私は、救われていますよ」
「急に重いな…」
本心なのだから、仕方が無い。
傍で見守ってくれている人の存在が、こんなに、暖かな気持ちにしてくれるんだ。と、実感している。
「はい。どうぞ」
「……リーシャはん、何かあったやろ?」
イマルは、お茶を持って来たリーシャの顔を覗き込むと、ジト目で、そう尋ねた。
「え?な、何も無いです。よ?」
「嘘つくん下手な人ばっかやな」
「へ?」
「いや?こっちの話」
スっと手を伸ばし、イマルはリーシャの頬に触れた。
「!」
「泣いとった?」
ドキッ!とする。
何で分かるのーー?聖女だった時は、何があっても、誰にも、何も気付かれなかったのにーー!
「な、何で分かるんですか?」
「バレバレやろ。寧ろ、何でそれで隠せると思ったんや」
「そ、そんな筈有りません。私、感情を隠すのは得意でーー」
皆さんの希望となりえる、聖女になるため、いつだって、感情をコントロールして生きてきた。誰にも、寂しいの?や、悲しいの?や、何かあった?やーーー凄いね、や、頑張ったね。も、言われた事が無い。
この村に来て、初めて、声をかけられた。
「ぉお?!急に泣くんか?!」
「へ?あれ……私、泣いていますね」
自分でも無意識に、涙が溢れた。
1度溢れてしまうと、上手く止められなくて、次から次へと、涙は溢れた。
「あれ?ごめんなさい……今、止めますから……」
涙を何度も何度も手で拭うけど、全然止まらない。
「あれ?本当に、ごめんなさい。私、これ以上迷惑かけたくなくて……」
分かっているのに、止まらない。
「……泣いたらえーやん」
「で、でもーー」
国の希望である聖女は、弱いところを見せては、駄目だとーーー
「友達。なんやろ?友達なんやから、別に泣いてるとこ見てても問題あらへんやろ」
「ーー友達。なら、泣いても良いんですか?」
応援ありがとうございます!
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