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しおりを挟む村娘生活祭り前日ーーー。
「よし、出来ました…!」
自分で作ったアクセサリーやキーホルダーを、机や壁、椅子、色々な所に、飾り終える。
当日は、子供達に自分の好きな物を選んで、持って帰って貰う。
「サクヤも、喜んでくれるでしょうか」
今回のお祭りは、子供達の為に行うものなので、サクヤは祭りの準備には一切加担していない。
だから、当日初めて、飾りを見てもらう事になる。
(喜んでくれると、嬉しいな…)
寝不足でフラフラになったあの日から、イマルは何度か様子を見に来てくれて、庭のお手入れも手伝ってくれた。
『倒れられたら困るねん』
と言うイマルに、甘えてしまった。
「うーーーやっぱり好きです……!」
言ってはいけないので、とても我慢しているが、どうしてもイマルの事を考えてしまい、口にしてしまう。
でも、本人の前で自制してる自分は、褒めて上げたい。
村に来てから、イマルには助けられてばかりいる。
(いつか、私もイマルを助けてあげれるように、頑張ります…!)
リーシャはしっかりと決意した。
トントン。
扉がノックする音とともに、見知った声が聞こえた。
「リーシャ。ノルゼスだ。今、いいだろうか?」
村長に魔物退治を依頼されてから、今まで街に戻った様子は無かったので、ついさっき村に戻って来た所だろう。
「はい、どうぞ」
リーシャは扉を開け、ノルゼスを家に招き入れた。
「随分時間がかかったんですね。強い魔物だったのですか?」
単独とはいえ、魔王討伐のメンバーにも選ばれた、城でも優秀な騎士が苦戦する魔物が村の近くにいたとは考えたくも無いが、念の為に確認する。
「いえ、場所が少し面倒な所にあって、行きと帰りの往復に時間がかかりました」
家の中に入り、リーシャと2人きりになったからか、ノルゼスの口調はすぐに敬語になった。
「そうですか……。魔物退治、ご苦労様でした」
「勿体無いお言葉」
膝をつき、深々と頭を下げるノルゼス。
何度も言いますが、私はもう聖女では無いんです。
もう面と向かって言うのは無駄だと分かったので言いませんが、こういった行為自体、止めて欲しいんです。
「聖女様のお役に立てる事が、騎士の誉であり、私の生きる全てですーー!」
「……はい」
もう、村の皆さんの前でしないだけ、マシだと思う事にしました。
「!何ですか?これは?」
ノルゼスは、顔を上げた際に見えた、机に飾っていたどんぐりのイヤリングを手に取った。
「あ、それはーー」
リーシャが初めて作った、どんぐりのイヤリング。
「なんだ、ただのゴミか」
ぐしゃ。
ノルゼスは、涼しい顔で、握り潰した。
「ーーー」
金具がバラバラに割れ、どんぐりがそのまま、床に落下するのを、リーシャは茫然と、見つめた。
「聖女様、つきましては、お話があるのですが…!」
「……何ですか?」
リーシャは、地面に落ちた、どんぐりの破片を拾った。
(マルシェに教えて貰って……自分で初めて……作った物だったのに…)
お世辞にも、上手では無いから、ゴミと見間違えてしまう事も、あるのかもしれない。
少なくとも王都では、こんなイヤリングは売ってなんていないのだから。
「私と一緒に、王都へ戻りましょう!」
「……王都へ?私が……?どうしてですか?」
だから、悪意がある訳では、無いのかもしれない。
「聖女様には、こんな劣悪な環境は相応しくありません!こんなっ!家も家具も装飾品も何かもがボロく、食材の調達なら準備までさせ、あろう事か、召し上がれずひもじい思いをしーー!最も恥ずべきは!聖女様の周りにいる人間です!!あんな!何の教育も受けていない!最下層の人間ごときが聖女様の隣にいるなどーーー」
「…うるさい…」
ポツリと、リーシャは呟いた。
「?今、何とおっしゃりましたか?」
その声は小さ過ぎて、ノルゼスにまで届かず、ノルゼスは聞き直した。
「うるさい…です…!」
「!せ、聖女様?!」
私は、聖女として、模範的な存在だったでしょう。
国民の前では、いつも優しく微笑み。時には、凛として強い姿を見せる。弱くあってはならない。
王様や王子様、周りの者達にも従順で、波風を立てないように、聖女として相応しくあるように、常に過ごして来た。
リーシャの目には、涙が浮かんでいた。
「聖女様っ!」
「出て行って下さい…!早く!お願いだから、出て行って下さいーー!!」
ノルゼスに向かい、必死に、リーシャは叫んだ
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