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村娘生活祭りまで後3日ーーー。



「ふぅ。やっと完成しました」
  リーシャは、机に置かれた、木の葉や木の実で作った手作りのイヤリングやキーホルダーを見て、笑顔を浮かべた。

「後はこれを部屋に飾ればお終いですね」

  前回、没頭し過ぎて食料やお金が尽きてしまったのを反省し、今回は寝る間を惜しんで頑張りました。

「ふわぁ」

  1日、1時間から2時間睡眠で経過してほぼ1週間。流石に眠たい。

(この姿をノルゼスに見られたらまた何か言われそう…)

  あれから何度か、ノルゼスは家に尋ねて来たが、出掛けていたり、予定(主に祭りの準備)に追われていたりで、ろくに話をしていない。

  何か言いたそうにしているのは分かるが、嫌な話だろうなっと、直感で感じてしまって、話をするのが億劫にもなっている。


(こんな事思っては駄目なのでしょうけど……旅に戻ってくれないでしょうか…)

  ノルゼスが城の騎士を辞め、ただの冒険者になったと信じているリーシャは、切実に旅の無事を願った。



「はぁ…でも、いい加減、話をしないといけませんよね…」


  とりあえず、お祭りの準備は一段落したので、時間は出来た。
  ノルゼスが旅に戻る気配は無いし、話したい事があるのに避け続けるのも、申し訳無い気がする…。

「よし…!ノルゼスと話をしに行きましょう」


  重い腰を上げ、リーシャはノルゼスと話をする為に、家の外に出た。





  村は、3日後に控えた祭りに向け、飾り付けがあちこちでされていて、いつもとは少し、違う雰囲気がする。

(さて、ノルゼスはーー村長さんの家でしょうか?)

  辺境の村ヘーゼルには宿屋は無く、冒険者が来た時はこの村で1番大きい村長の家に招待する事が多く、ノルゼスも村長の家でお世話になっている。


  家を出て、村長の家の前に着くと、沢山の村の男達の姿がいて、そこには、見知った顔が数人見えた。

「お、リーシャはんやん」
  リーシャの姿を見付けたイマルが、首にかけたタオルで汗を拭いながら声をかけた。


「イマル。何をしているんですか?」
「見ての通り祭りの準備や。この時期、男どもは嫌でも村長にこき使われる」
  イマルの言葉通り、村の男達が揃って、大きな看板や、提灯、屋台の土台となる簡易テント等を運び出していた。

「こらこら、そんな言い方をするもんじゃないよ、イマル君」
「ジェラードもお手伝いしているのですね」
「ゲンさんもおるで」


  本当に、子供を除く村の男達が全員集合しているようだ。

「私も何か、お手伝い出来る事があればーー」
「これ持ってみぃ」

  イマルに差し出された物を受け取ると、その重みに耐えかね、ドンッと地面に腕ごと持っていかれた。

「持てへんやろ?」
「お、重いです…」

  昔から、重たい物を持つ生活を送っていなかったが、村娘になって、少しは筋力がついたつもりでいたのに、持ち上げようとしても、リーシャの細腕では、びくともしない。
  これではお手伝いしても、逆にお荷物になってしまう。

「筋力をもっとつけないと…!」
「そこまで頑張ろうとする意味が分からん。いいから、村のおっさん共に任せて、はよ帰り」

「でも…」

  折角だからお手伝いしたいし、何もお手伝いしないのも申し訳無い気がしますし……今から急いで腹筋して、筋力をつければーーー!!


「阿呆か。絶対に間に合わへんわ」
「今、声に出ていましたか?」
「思いっきり出とったわ。何や、急いで腹筋って。それ腹やろ。せめて腕立てにせぇよ」


  体を鍛えた事など1度も無いリーシャにとって、肉体的トレーニングの知識は皆無。

  聞いた事のある単語をそれとなく使ってみましたが、腹筋とはどうやら、お腹周りの事を指す単語のようです。



「リーシャさん、イマル君は少し、不器用な所がある。思春期の男の子なんだ」
  ジェラードはリーシャの肩に手を置き、諭す様に優しく声をかけた。

「急に何言うてんのやジェラードはん…」


「最近、眠れていないんじゃないかい?イマル君はね、リーシャさんが心配なんだ。でもそれを素直に言えないから、遠回しに言ってるんだ。直訳するなら、最近、祭りの準備で眠れていないんだろう?早く帰って、体をゆっくり休めて、いつもの明るく元気な、眩しい笑顔を見せて欲しーー」

「ほんまに急に何言ってんの?!やめぇ!心配はしとるけど、そんなキザな事思ってへんわ!」


  ジェラードの気持ちを代弁してると述べる台詞を、イマルは大きな声で制止した。




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