42 / 82
42
しおりを挟む村娘生活祭りまで後3日ーーー。
「ふぅ。やっと完成しました」
リーシャは、机に置かれた、木の葉や木の実で作った手作りのイヤリングやキーホルダーを見て、笑顔を浮かべた。
「後はこれを部屋に飾ればお終いですね」
前回、没頭し過ぎて食料やお金が尽きてしまったのを反省し、今回は寝る間を惜しんで頑張りました。
「ふわぁ」
1日、1時間から2時間睡眠で経過してほぼ1週間。流石に眠たい。
(この姿をノルゼスに見られたらまた何か言われそう…)
あれから何度か、ノルゼスは家に尋ねて来たが、出掛けていたり、予定(主に祭りの準備)に追われていたりで、ろくに話をしていない。
何か言いたそうにしているのは分かるが、嫌な話だろうなっと、直感で感じてしまって、話をするのが億劫にもなっている。
(こんな事思っては駄目なのでしょうけど……旅に戻ってくれないでしょうか…)
ノルゼスが城の騎士を辞め、ただの冒険者になったと信じているリーシャは、切実に旅の無事を願った。
「はぁ…でも、いい加減、話をしないといけませんよね…」
とりあえず、お祭りの準備は一段落したので、時間は出来た。
ノルゼスが旅に戻る気配は無いし、話したい事があるのに避け続けるのも、申し訳無い気がする…。
「よし…!ノルゼスと話をしに行きましょう」
重い腰を上げ、リーシャはノルゼスと話をする為に、家の外に出た。
村は、3日後に控えた祭りに向け、飾り付けがあちこちでされていて、いつもとは少し、違う雰囲気がする。
(さて、ノルゼスはーー村長さんの家でしょうか?)
辺境の村ヘーゼルには宿屋は無く、冒険者が来た時はこの村で1番大きい村長の家に招待する事が多く、ノルゼスも村長の家でお世話になっている。
家を出て、村長の家の前に着くと、沢山の村の男達の姿がいて、そこには、見知った顔が数人見えた。
「お、リーシャはんやん」
リーシャの姿を見付けたイマルが、首にかけたタオルで汗を拭いながら声をかけた。
「イマル。何をしているんですか?」
「見ての通り祭りの準備や。この時期、男どもは嫌でも村長にこき使われる」
イマルの言葉通り、村の男達が揃って、大きな看板や、提灯、屋台の土台となる簡易テント等を運び出していた。
「こらこら、そんな言い方をするもんじゃないよ、イマル君」
「ジェラードもお手伝いしているのですね」
「ゲンさんもおるで」
本当に、子供を除く村の男達が全員集合しているようだ。
「私も何か、お手伝い出来る事があればーー」
「これ持ってみぃ」
イマルに差し出された物を受け取ると、その重みに耐えかね、ドンッと地面に腕ごと持っていかれた。
「持てへんやろ?」
「お、重いです…」
昔から、重たい物を持つ生活を送っていなかったが、村娘になって、少しは筋力がついたつもりでいたのに、持ち上げようとしても、リーシャの細腕では、びくともしない。
これではお手伝いしても、逆にお荷物になってしまう。
「筋力をもっとつけないと…!」
「そこまで頑張ろうとする意味が分からん。いいから、村のおっさん共に任せて、はよ帰り」
「でも…」
折角だからお手伝いしたいし、何もお手伝いしないのも申し訳無い気がしますし……今から急いで腹筋して、筋力をつければーーー!!
「阿呆か。絶対に間に合わへんわ」
「今、声に出ていましたか?」
「思いっきり出とったわ。何や、急いで腹筋って。それ腹やろ。せめて腕立てにせぇよ」
体を鍛えた事など1度も無いリーシャにとって、肉体的トレーニングの知識は皆無。
聞いた事のある単語をそれとなく使ってみましたが、腹筋とはどうやら、お腹周りの事を指す単語のようです。
「リーシャさん、イマル君は少し、不器用な所がある。思春期の男の子なんだ」
ジェラードはリーシャの肩に手を置き、諭す様に優しく声をかけた。
「急に何言うてんのやジェラードはん…」
「最近、眠れていないんじゃないかい?イマル君はね、リーシャさんが心配なんだ。でもそれを素直に言えないから、遠回しに言ってるんだ。直訳するなら、最近、祭りの準備で眠れていないんだろう?早く帰って、体をゆっくり休めて、いつもの明るく元気な、眩しい笑顔を見せて欲しーー」
「ほんまに急に何言ってんの?!やめぇ!心配はしとるけど、そんなキザな事思ってへんわ!」
ジェラードの気持ちを代弁してると述べる台詞を、イマルは大きな声で制止した。
61
お気に入りに追加
135
あなたにおすすめの小説
【完結】嫌われ令嬢、部屋着姿を見せてから、王子に溺愛されてます。
airria
恋愛
グロース王国王太子妃、リリアナ。勝ち気そうなライラックの瞳、濡羽色の豪奢な巻き髪、スレンダーな姿形、知性溢れる社交術。見た目も中身も次期王妃として完璧な令嬢であるが、夫である王太子のセイラムからは忌み嫌われていた。
どうやら、セイラムの美しい乳兄妹、フリージアへのリリアナの態度が気に食わないらしい。
2ヶ月前に婚姻を結びはしたが、初夜もなく冷え切った夫婦関係。結婚も仕事の一環としか思えないリリアナは、セイラムと心が通じ合わなくても仕方ないし、必要ないと思い、王妃の仕事に邁進していた。
ある日、リリアナからのいじめを訴えるフリージアに泣きつかれたセイラムは、リリアナの自室を電撃訪問。
あまりの剣幕に仕方なく、部屋着のままで対応すると、なんだかセイラムの様子がおかしくて…
あの、私、自分の時間は大好きな部屋着姿でだらけて過ごしたいのですが、なぜそんな時に限って頻繁に私の部屋にいらっしゃるの?
セレナの居場所 ~下賜された側妃~
緑谷めい
恋愛
後宮が廃され、国王エドガルドの側妃だったセレナは、ルーベン・アルファーロ侯爵に下賜された。自らの新たな居場所を作ろうと努力するセレナだったが、夫ルーベンの幼馴染だという伯爵家令嬢クラーラが頻繁に屋敷を訪れることに違和感を覚える。
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
将来を誓い合った王子様は聖女と結ばれるそうです
きぬがやあきら
恋愛
「聖女になれなかったなりそこない。こんなところまで追って来るとはな。そんなに俺を忘れられないなら、一度くらい抱いてやろうか?」
5歳のオリヴィエは、神殿で出会ったアルディアの皇太子、ルーカスと恋に落ちた。アルディア王国では、皇太子が代々聖女を妻に迎える慣わしだ。しかし、13歳の選別式を迎えたオリヴィエは、聖女を落選してしまった。
その上盲目の知恵者オルガノに、若くして命を落とすと予言されたオリヴィエは、せめてルーカスの傍にいたいと、ルーカスが団長を務める聖騎士への道へと足を踏み入れる。しかし、やっとの思いで再開したルーカスは、昔の約束を忘れてしまったのではと錯覚するほど冷たい対応で――?
大嫌いな幼馴染の皇太子殿下と婚姻させられたので、白い結婚をお願いいたしました
柴野
恋愛
「これは白い結婚ということにいたしましょう」
結婚初夜、そうお願いしたジェシカに、夫となる人は眉を顰めて答えた。
「……ああ、お前の好きにしろ」
婚約者だった隣国の王弟に別れを切り出され嫁ぎ先を失った公爵令嬢ジェシカ・スタンナードは、幼馴染でありながら、たいへん仲の悪かった皇太子ヒューパートと王命で婚姻させられた。
ヒューパート皇太子には陰ながら想っていた令嬢がいたのに、彼女は第二王子の婚約者になってしまったので長年婚約者を作っていなかったという噂がある。それだというのに王命で大嫌いなジェシカを娶ることになったのだ。
いくら政略結婚とはいえ、ヒューパートに抱かれるのは嫌だ。子供ができないという理由があれば離縁できると考えたジェシカは白い結婚を望み、ヒューパートもそれを受け入れた。
そのはず、だったのだが……?
離縁を望みながらも徐々に絆されていく公爵令嬢と、実は彼女のことが大好きで仕方ないツンデレ皇太子によるじれじれラブストーリー。
※こちらの作品は小説家になろうにも重複投稿しています。
宮廷外交官の天才令嬢、王子に愛想をつかれて婚約破棄されたあげく、実家まで追放されてケダモノ男爵に読み書きを教えることになりました
悠木真帆
恋愛
子爵令嬢のシャルティナ・ルーリックは宮廷外交官として日々忙しくはたらく毎日。
クールな見た目と頭の回転の速さからついたあだ名は氷の令嬢。
婚約者である王子カイル・ドルトラードを長らくほったらかしてしまうほど仕事に没頭していた。
そんなある日の夜会でシャルティナは王子から婚約破棄を宣言されてしまう。
そしてそのとなりには見知らぬ令嬢が⋯⋯
王子の婚約者ではなくなった途端、シャルティナは宮廷外交官の立場まで失い、見かねた父の強引な勧めで冒険者あがりの男爵のところへ行くことになる。
シャルティナは宮廷外交官の実績を活かして辣腕を振るおうと張り切るが、男爵から命じられた任務は男爵に文字の読み書きを教えることだった⋯⋯
【本編完結】若き公爵の子を授かった夫人は、愛する夫のために逃げ出した。 一方公爵様は、妻死亡説が流れようとも諦めません!
はづも
恋愛
本編完結済み。番外編がたまに投稿されたりされなかったりします。
伯爵家に生まれたカレン・アーネストは、20歳のとき、幼馴染でもある若き公爵、ジョンズワート・デュライトの妻となった。
しかし、ジョンズワートはカレンを愛しているわけではない。
当時12歳だったカレンの額に傷を負わせた彼は、その責任を取るためにカレンと結婚したのである。
……本当に好きな人を、諦めてまで。
幼い頃からずっと好きだった彼のために、早く身を引かなければ。
そう思っていたのに、初夜の一度でカレンは懐妊。
このままでは、ジョンズワートが一生自分に縛られてしまう。
夫を想うが故に、カレンは妊娠したことを隠して姿を消した。
愛する人を縛りたくないヒロインと、死亡説が流れても好きな人を諦めることができないヒーローの、両片想い・幼馴染・すれ違い・ハッピーエンドなお話です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる