36 / 82
36
しおりを挟む数十分前、リーシャ宅を出たイマルとサクヤは、何故か、リーシャの家が見える場所で、隠れていたーー。
「……サクヤはん、俺等、何してんの?」
大きな草をカモフラージュに使い、身を隠しながら、隣にいる、発案者のサクヤに尋ねた。
「イマル兄ちゃんは気にならないの?!お姉ちゃんの昔の男なんだよ!?」
「その言い方止めい!色々誤解されるで!」
ノルゼスの存在が気になるサクヤは、イマルを無理矢理誘い、リーシャの家の様子を伺っていた。
「いや、ここからやと中の様子も分からへんし、意味ありまっか?」
待機場所が遠過ぎて、話し声も聞こえない。
ただ、家から出ていくかどうかが確認出来るだけ。
「え?話し声を聞いちゃったら、それは盗み聞きだよ」
「なんやごめん」
本来のサクヤの真面目な部分が見えて、別に盗み聞きを推奨した訳では無かったのだが、イマルは何故か謝罪した。
「気にし過ぎかな?お姉ちゃんの昔の仲間なら、良い人かな?」
「……どやろな。嘘はついてたみたいやけど」
「え?!嘘?!」
「寧ろあんな分かりやすい嘘の付き方で、なんでリーシャはんも騙されるのかが分からへんわ」
不自然に大きな声で、目を泳がせながら吐いた言葉。
「偶然、リーシャはんに会ったゆーんも、パーティ抜けたゆーんも、気ままに旅してんのも嘘やろ」
目的は分からないが、意図的にこの村に来て、リーシャに会いに来た。
「何でそんな嘘つくの?お姉ちゃんに早く教えなきゃっ!」
「まぁ待ち。なんか理由があるかもしれへんし、ちょっと様子見てもえーやろ」
「そんな悠長な事言って、お姉ちゃんを取られてもいーの?!」
「取られてって……物や無いんやから」
大好きなリーシャがいなくなるかも知れないと危惧したのか、サクヤは半泣きで、イマルに訴えた。
「落ち着きて!そんなん、リーシャはんが取られるって確定した訳でも無いのに」
「やだやだ!あんなどこの馬の骨とも分からない奴に取られるくらいなら、兄ちゃんで良い!」
「何や兄ちゃんで良いって!どーゆー意味や!」
冒険者に憧れていたはずなのだが、今はもうリーシャを巡るライバルに変貌を遂げたらしい。
「ーーなんやよー分からんけど、多分、リーシャはん、あの男の事、あんまり歓迎して無いと思うで」
埒が明かなくなって来たので、落ち着かせる為にも、もう1つ、感じた事を教えた。
「え?ほんと?」
「多分やで。てか、嘘ついてる思たんも俺の主観やねんから、そんな突っ走らんといて欲しいんやけど……」
バレバレの嘘だと思ったが、確たる証拠がある訳では無い。
純粋に自分が言った事が100正しいと信じて疑わないサクヤに、少し落ち着いたタイミングでお願いした。
「あ!出て来たよ!」
リーシャの家からノルゼスが出て来たのを、草陰から覗く。
「何話してたんだろ」
「……サクヤはん、いい加減、もー帰りましょか」
ジーーと監視するサクヤに向かい、イマルは呆れたように告げた。
リーシャ宅。
ノルゼスが帰った後、リーシャは肩の力が抜けたのを感じ、椅子に腰掛けた。
聖女時代の知り合いに会う事に、無意識だが、緊張していたのが分かる。
(ノルゼス……聖女だった時も、そんなに話した事は無いけれど……)
記憶の中の彼は、いつも最前列にいて、魔物を倒していたイメージがある。
私との会話は少なく、連絡事項を伝える程度で、世間話をした事は1度も無い。城に戻った時も、彼は私と直接会話をする事は無く、王様や王子を通して、話をする。
先程面と向かって話したのが、ある意味初めてと言える。
(私はもう、聖女ではありません)
自らの意思で、聖女の地位を捨てた。
今の私は、リーシャ=ルド=マルリレーナという、1人の村娘に過ぎない。
何度も何度も、心の中で繰り返す。
(大丈夫…ですよね?王様にきちんと願いを叶えて貰いましたから、それに背けば、国の威信に関わりますし……何より、私は聖女の地位を捨てた身。普通なら、城に戻る事を許される立場では無い)
ある意味、城を捨てた。とも取れる願いをし、追放に近い形で、王都を出た。
(皆さん、私が城を出る時も、普通でしたし……)
引き止められる言葉をかけられる事も無く、最低限の荷物と、所持金を城の兵士に渡され、1人で城を出た。
(うん。気にし過ぎですね。駄目ですね……自意識過剰、被害妄想ーーー私なんかをわざわざ連れ戻しになんて、来ないですよね)
実際は、がっつり聖女を連れ戻す為に派遣されている。
リーシャは気分を入れ替える為に、パンパンっと、自身の頬を叩いた。
「よし、明日からも頑張りましょう」
言い終わると、元気良く、椅子から立ち上がった。
44
お気に入りに追加
136
あなたにおすすめの小説
美形軍人に連行された少女の末路 ~辿り着く先は見知らぬ夫の元か、投獄か!?~
当麻月菜
恋愛
『アルベルティナ・クラース。悪いが何も聞かずに、俺たちに付いてきてもらおうか』
パン屋で店主を泣かせるほど値切った帰り道、アルベルティナことベルは、突然軍人に囲まれてしまった。
そして訳がわからないまま、鉄格子付きの馬車に押し込まれどこかに連行されてしまった。
ベルを連行した責任者は美形軍人のレンブラント・エイケン。
人攫い同然でベルを連行した彼は人相が悪くて、口が悪くて、いささか乱暴だった。
けれど、どうやらそうしたのは事情があるようで。
そして向かう先は牢屋ではなく、とある人の元らしくて。
過酷な境遇で性格が歪み切ってしまった毒舌少女(ベル)と、それに翻弄されながらも毒舌少女を溺愛する他称ロリコン軍人(レン)がいつしか恋に発展する……かもしれない物語です。
※他のサイトでも重複投稿しています。
※2020.09.07から投稿を始めていた作品を加筆修正の為取り下げ、再投稿しています。
お兄様の指輪が壊れたら、溺愛が始まりまして
みこと。
恋愛
お兄様は女王陛下からいただいた指輪を、ずっと大切にしている。
きっと苦しい片恋をなさっているお兄様。
私はただ、お兄様の家に引き取られただけの存在。血の繋がってない妹。
だから、早々に屋敷を出なくては。私がお兄様の恋路を邪魔するわけにはいかないの。私の想いは、ずっと秘めて生きていく──。
なのに、ある日、お兄様の指輪が壊れて?
全7話、ご都合主義のハピエンです! 楽しんでいただけると嬉しいです!
※「小説家になろう」様にも掲載しています。
幼妻は、白い結婚を解消して国王陛下に溺愛される。
秋月乃衣
恋愛
旧題:幼妻の白い結婚
13歳のエリーゼは、侯爵家嫡男のアランの元へ嫁ぐが、幼いエリーゼに夫は見向きもせずに初夜すら愛人と過ごす。
歩み寄りは一切なく月日が流れ、夫婦仲は冷え切ったまま、相変わらず夫は愛人に夢中だった。
そしてエリーゼは大人へと成長していく。
※近いうちに婚約期間の様子や、結婚後の事も書く予定です。
小説家になろう様にも掲載しています。
完)嫁いだつもりでしたがメイドに間違われています
オリハルコン陸
恋愛
嫁いだはずなのに、格好のせいか本気でメイドと勘違いされた貧乏令嬢。そのままうっかりメイドとして馴染んで、その生活を楽しみ始めてしまいます。
◇◇◇◇◇◇◇
「オマケのようでオマケじゃない〜」では、本編の小話や後日談というかたちでまだ語られてない部分を補完しています。
14回恋愛大賞奨励賞受賞しました!
これも読んでくださったり投票してくださった皆様のおかげです。
ありがとうございました!
ざっくりと見直し終わりました。完璧じゃないけど、とりあえずこれで。
この後本格的に手直し予定。(多分時間がかかります)
私を虐めたりしたらカウンターが発動してあなたは酷い目に遭いますよ?
真理亜
恋愛
伯爵令嬢のビビアンには特殊なスキルがあった。その名はカウンター。物理攻撃だけじゃなく口撃にも発動するその能力で、傲慢な婚約者や理不尽な家族からの執拗な虐めを回避して、反撃してしていた。だが実家では、使用人以下のぞんざいな扱いを毎日受けていた。そんなビビアンの元に隣国へ留学していた幼馴染みのライオス王子が現れる。彼はビビアンの現状に憤り、彼女を実家から連れ出して王宮に匿った。そこからビビアンの日常はガラリと変わることになるのだった。
☆こちらは別タイトルで投稿していた物を、タイトルと構成をやや変えて投稿し直したものになります。
つがいの皇帝に溺愛される皇女の至福
ゆきむらさり
恋愛
稚拙な私の作品をHOTランキング(7/1)に入れて頂き、ありがとうございます✨ 読んで下さる皆様のおかげです🧡
〔あらすじ〕📝強大な魔帝国を治める時の皇帝オーブリー。壮年期を迎えても皇后を迎えない彼には、幼少期より憧れを抱く美しい人がいる。その美しい人の産んだ幼な姫が、自身のつがいだと本能的に悟る皇帝オーブリーは、外の世界に憧れを抱くその幼な姫の皇女ベハティを魔帝国へと招待することに……。
完結した【堕ちた御子姫は帝国に囚われる】のスピンオフ。前作の登場人物達の子供達のお話に加えて、前作の登場人物達のその後も書かれておりますので、気になる方は是非ご一読下さい🤗
ゆるふわで甘いお話し。溺愛。ハピエン♥️
※設定などは独自の世界観でご都合主義となります。
身代わりの公爵家の花嫁は翌日から溺愛される。~初日を挽回し、溺愛させてくれ!~
湯川仁美
恋愛
姉の身代わりに公爵夫人になった。
「貴様と寝食を共にする気はない!俺に呼ばれるまでは、俺の前に姿を見せるな。声を聞かせるな」
夫と初対面の日、家族から男癖の悪い醜悪女と流され。
公爵である夫とから啖呵を切られたが。
翌日には誤解だと気づいた公爵は花嫁に好意を持ち、挽回活動を開始。
地獄の番人こと閻魔大王(善悪を判断する審判)と異名をもつ公爵は、影でプレゼントを贈り。話しかけるが、謝れない。
「愛しの妻。大切な妻。可愛い妻」とは言えない。
一度、言った言葉を撤回するのは難しい。
そして妻は普通の令嬢とは違い、媚びず、ビクビク怯えもせず普通に接してくれる。
徐々に距離を詰めていきましょう。
全力で真摯に接し、謝罪を行い、ラブラブに到着するコメディ。
第二章から口説きまくり。
第四章で完結です。
第五章に番外編を追加しました。
追放された悪役令嬢はシングルマザー
ララ
恋愛
神様の手違いで死んでしまった主人公。第二の人生を幸せに生きてほしいと言われ転生するも何と転生先は悪役令嬢。
断罪回避に奮闘するも失敗。
国外追放先で国王の子を孕んでいることに気がつく。
この子は私の子よ!守ってみせるわ。
1人、子を育てる決心をする。
そんな彼女を暖かく見守る人たち。彼女を愛するもの。
さまざまな思惑が蠢く中彼女の掴み取る未来はいかに‥‥
ーーーー
完結確約 9話完結です。
短編のくくりですが10000字ちょっとで少し短いです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる