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しおりを挟むリーシャの家に訪れた事は無いが、この狭い村、空き家だったリーシャの家の場所は把握しており、サクヤは先陣を切って、2人の前を意気揚々と進んだ。
「ほんま、楽しそーやな」
「はい。良かったです」
つい最近まで、家で引き篭っていたとは思えない位、明るく、元気になった。
まだ、イマル、リーシャ以外の村の人と話す時は萎縮してしまうし、2人がいないと外出も出来ないが、徐々に、1人でも外に出れるようになるだろう。
「サクヤ、本当に良い子ですね」
「せやろ?あんな弟おったら、可愛いやろなー」
「私は、サクヤみたいな可愛い子供が欲しいです」
「ゲホッ!ゴホッ!!」
「だ、大丈夫ですか?イマル!」
急激に咽るイマルに、リーシャは心配して背中をさすった。
「大丈夫や!」
「でも、少し顔も赤くなってーー」
「大丈夫やから、前向いて歩いててくれ!」
「?はい、分かりました」
リーシャには恋愛経験が一切無く、そういった知識も壊滅的に無い。
好きな人が出来て、告白して、結婚する。
そんな夢物語を想像して過ごして来た。
リーシャに他意が無く、ただ思った事を口にしただけなのは、分かってはいるが、急に出されると変に困惑する。
「どうかしたの?兄ちゃん」
前を歩いていて話を聞いていなかったサクヤは、急に咳き込むイマルを心配して、顔を覗いた。
「ほんまに大丈夫や。純粋って時に凶器になるんやなって思ったくらいや」
「結構大丈夫じゃなさそうな内容だけど、大丈夫?」
何があったのか分からないまま、物騒な事を言い出すイマルを、サクヤは割と本気で心配した。
リーシャ宅。
リーシャの家に着き、1番最初に出て来た言葉ーー。
「お姉ちゃん……もしかして、掃除も苦手?」
ごちゃごちゃと散らかっているキッチンに、床に散らばる木の葉や木の実。
所々に、掃除をしようとしていた形跡は見られるが、何故か上手く出来ていない。
「予想通りやわ…」
「えっと……掃除しようとしたのですが、祭りの準備をしてたら、材料を床に落としてしまったり、掃き掃除をしようとしたら、何故かゴミがまとまらなかったり……」
見慣れているイマルは、部屋の惨状に呆れ、リーシャは現状の説明という名の言い訳を始めた。
「リーシャはんの家に来たら、必ず最初に掃除してるわ」
結局、あれから3人がかりで掃除を行い、綺麗になった所で、テーブルで一息ついた。
「本当にありがとうございます」
深々と頭を下げるリーシャ。
実際、掃除をしていない訳では無く、料理同様、今までした事も無ければ、壊滅的に才能が無い。
それでもまだ最初に比べれば、雑巾は絞れるようになった。
「だ、大丈夫だよお姉ちゃん!いつか絶対、掃除も出来る様になるよ!」
「頑張ります!」
「ほんま、頼むで」
やる気だけは充分なので、リーシャは力強い返事をした。
トントンッ。
「お客さんだよ、お姉ちゃん」
しばらく3人でお茶を飲みながら話をしていたら、ノックの音が聞こえて、サクヤはリーシャに声をかけた。
「誰でしょう?怪我人でしょうか」
リーシャが回復魔法が使えると知られてからは、村人が治療をお願いをしに、リーシャの家を訪れる事が増えた。
「はい。今開けますね」
椅子から立ち上がると、リーシャは玄関まで行き、扉を開けた。
毎日が新鮮で、毎日が楽しくて、こんな日常が続いていて、とても幸せだったーーー。
扉を開けた事を後悔した。
見知った顔。
お城にいた時も、冒険に出ていた時も、常に私の傍に控えていた人の1人ーーー。
「ノルゼス」
騎士ノルゼス。私と一緒に、魔王を倒した仲間の、1人ーーー。
「え?あの人って、冒険者さん?」
サクヤは、リーシャの家に尋ねてきた人物を見て、横にいたイマルに尋ねた。
村では見ない顔。
剣を帯刀していて、服装も、カジュアルな冒険者の格好をしていた。
「ーーどうして、ここにいるのですか?」
今までのリーシャにしては考えられないくらい、冷めた声。
私は、王に願いを叶えて貰い、聖女からただの村娘になった。
聖女として魔王を倒し、世界を平和にした。聖女としての役割を果たし、その対価として、願いを叶えて貰ったのだ。
約束を破る事は、国の威信にも関わる。
それなのに、何故、貴方が此処に来たのかーーー。
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